決戦、その前に
「くぅッ!」
突然の攻撃に体勢を崩すもなんとか立て直し、自前の剣で応戦する奏さん。
コロシアムは、二人の激しいぶつかり合い音と、レッドの部下の喧騒に包まれていく。
それを観客席で見ていたとき、そこにそぐわない見覚えのある姿が現れた。
「すまない、そこを退いてはくれないか?」
「なんだてめぇ…」
「うちの子に用があるんだ、もう一度だけ言う。退け」
「な、動けない!?何しやがった!!」
返答せず、こちらにきて隣に座った。
綺麗な金髪は、ボサボサの寝癖ロング。
白いノースリーブのワンピースは、そこにあったから着ただけなのだろう。
サイズの合わないジャージのズボンは裾上げし、近所のコンビニに行ってきたかのようにコンビニ袋をさげている。
ブルークリスタル瞳の少女は、あふっと欠伸を一つした。
「神様なにしてるんですか…」
「なにを言っているんだい、君の反応がないから心配になって急いで来たんじゃないか」
コンビニ袋からお菓子を手渡してきた。
「それなら身だしなみくらい整えてから来てください」
「そんなことより、あの子が奏くんかい?」
気になったので手持ちの櫛で髪をとかしてあげた、相変わらずの綺麗な髪が少し羨ましい。
「むぅ、見辛いなぁ…」
髪を編みおさげにしてあげた所で、神様は中空に大きな四角をかいた。
四角は一度明滅すると、奏さんとレッドの戦いを映し出す。
「アルト、どう見る?」
「そうですね…奏さんは、最近は武闘山を半分まで登れるようになったし、剣道場にも通ってて割と強いです。レッドさんのほうは分かんないですが」
見た感じ、奏さんのほうが半歩押している。
「レッド・ロクス。彼は剣技より魔法のほうが上手いね、だけど魔法使いや魔術師じゃない。召喚師だ」
「レッド・ロクス…そういえばどこかで聞いた覚えが…」
「それはそうさ、ゲートリアの武器戦闘部門第10位【召喚剣のロクス】だからね」
奏さんの一撃に跳びのき、距離を取るレッド。
神様の作った映像から二人の声が聞こえてくる。
「剣を交えて分かる事もある、お前、なかなかやるな。俺の部下にならないか?」
「冗談っ!」
「だろうな、真っ直ぐな教科書通りの剣技としっかりした鍛錬。応用も出来てる」
「そりゃどうも…」
「でだ、こんな話はどうだ?」
「?」
「最近の話だ、道の真ん中にババアがウロウロしていた、邪魔だから蹴っ飛ばしたらコロコロ転がりやがったんだ」
「…だからなんだよ」
「まあ、聞けよ。そのあとメスガキがやってきて、言うんだ『おばあちゃんに、こんな事しちゃだめ』ってな」
「…それが?」
「そいつの担当天使眠らせて、泣き叫ぶガキを深淵に落としてやった、傑作だろ?」
「お前ッッッ!!!」
激昂する奏さんの気持ちが痛いほど画面から伝わってきた。
「奏さん、落ち着いて!」
私の叫びはまわりの男達の歓声にかき消えた。
「クックック、隙だらけだ」
「!?」
奏さんの怒りの大振り、レッドはそれに合わせた。
吹き飛びコロシアムの壁に激突する奏さん。
その胸には、剣の斬り傷じゃない三本の爪痕がある。
「魂まで焼き爛れな!」
【爆炎殺】
レッドの利き手にいつのまにか握られていた禍々しい長剣。
召喚された剣から魔法を放った。
「奏さん!?」
爆炎と煙が辺り一面に広がり、何も見えない。
「ヒャッハァ、思った通り引っかかる!」
レッドの高笑いが響いた。
隣で突然立ち上がる神様。
「なんだと!?」
大きく開かれた目、私はこんな表情の神様を見たことがなかった。