深遠の穴、その前に<後編>
ゲートリア世界、今日の天気は雨。
天使騎士団の捜索も三日目、最後の騎士が深淵から出てきた。
「ご苦労さまッス…」
騎士は、ただ黙って首を横に降る。
「お願いなのです!もう一度、もう一度だけ!?」
モエルエルは、騎士にしがみつきながら泣き崩れた。
連日の捜索に疲れの色が濃く、そこにいる者の全てが疲弊していた。
それを嘲笑うように深淵が静かに口を開けている。
「早く出てこないと、担当辞めるッスよ…」
雨空に独り言をもらした。
創生から一万年、ゲートリアはまだ若い世界だ。
それ故に足りないものが多い。
例えば、夜空。
星は見えるけれどそこにあるのは、描き割りの星座だ。
星座を描く趣味の神様が描く。
朝昼晩が出来たのも最近で、春夏秋冬は実装するか検討中だ。
皆が試行錯誤を繰り返し、世界が歴史を紡いでいる。
「カッコつけて出て行って戻らなかったら許さないッスよ」
これもその一部で小さな1ページの話になってしまうのでしょうか?
一人の魂の人生は、軽くはないはずなのに。
捜索は打ち切られ、数日。
深淵の穴の前で、座り待つ日々が続いていた。
「それじゃアルト、私は行くのです…」
「うん、私も夕方まで待ってから…」
モエルエルは、小さく頷いてここを去った。
時間が間延びして感じる。
気づくと夕陽が眩しい。
「バカ…」
風が頬を撫でた。
「…?」
深淵を睨みつける。
今確か?
「やっぱり!?」
淵に駆け寄り、中を覗きこんだ。
漆黒の黒髪のように騒めく闇、目を凝らした。
「奏さん!?」
一部だけ一箇所だけ、闇の騒めきが激しい場所がある。
構わず私は、手を伸ばした。
「痛ッ!」
噛みつかれる感覚、闇は容赦なく牙を剥く。
激痛しかし、気にせず闇に手を突っ込んだ。
「掴んで早く!!」
間違えない、力一杯引っ張った。
「…このバカ、遅いッスよ!」
…ウガ。
ソウルポイントを失った、亡者姿の者。
肉は削げ落ち、皮膚は切り傷だらけ、枯れたのか出血はしていない。
眼球の無い虚ろの穴で此方を見ている。
間違えなく、見覚えのある亡者顔。
「なにやってたッスか?」
ウガ…。
「なに言ってるか分からないッス…」
フガ。
「謝るのは、あとッス。取り敢えず、また会えて嬉しいッス」
固い土色の亡者を抱きしめた。
亡者の乾いた皮膚に、私の涙が滴った。