世界を歩く、その前に
澄んだ朝の空気に響く薪割りの音。
心地よくリズムカルに。
話しかけようとして、つい見詰めてしまった。
「アルト?」
視線に気づき手を振ってきた。
「調子はどうッスか?」
「朝から扱き使われてるよ」
「あはは、流石ソルビアさんッスね」
奏さんは、亡者姿からソウル体、生前に近い姿に戻っていた。
「さて、今日から修行、はじめるッスよ」
「じゃあ、ソルビアさんに言って来るよ」
身支度を済ませて、向かうは最初の地、武闘剣山。
「まるで針の山だね…」
「あれは全部使える武器ッス」
「マジか」
「登れば登るほど良い武器と使いかたが身につくッス」
「なんか面白そうだね」
そんなことを話しているうちに麓に着いた。
「入山手続き、終わったッス。好きな武器を選んでくださいッス」
「どれでもいいの?」
「はいッス。そこがセーブポイントになって、殺られてもソウルポイントを失わず戻れるッス」
「ちょっと待て、いま、なんて?」
「ファイト!」
無難な使いやすい剣を選んだので、スタートすることにした。
「わ、割とキツイな!?」
「目的地までもう少しッスよ!」
3合目辺りの休憩所地点に着いた。
「あの怪物はなんだよ、登るだけでもキツイのに」
「あれは電池で動く人形みたいなもんッス。そういうの作るのが好きな神様がいるッスよ」
「体力には自信があったけど、これは本当に生半可じゃないね」
「いやいや、大したもんッスよ、普通ここまで来るのにもっと時間がかかるもんッス」
「いや、足ガクガクだよ」
第一目的地、小さなベンチのある公園。
ここなら世界が一望出来る。
「改めて、ゲートリアにようこそ、そこで休憩しながら聞いて欲しいッス」
「あ、うん」
「彼処に見えるのが転生門、この世界の中心にしてこの世界の意味、あの門をくぐって異世界に転生するッス」
「でっかいね、あ、開いた」
「誰かが転生したんッスね…」
転生は救済、基本は天寿を全うして貰いたい。
水が雲になり雨となり川になって海に帰るように、魂は世界を循環する。
「アルト?」
「あ、えっと…あれを見てくださいッス!」
「赤い大地だ!?」
「燃え盛る大地、火炎系魔法や肉体強化系のスキル、それから耐熱などの耐性スキル。あと、鍛治技能や料理技能など教えてくれる人達がいっぱいいるッス」
「あの光る青いところは?」
「大いなる泉、水流系の魔法が覚えられるッス。海と点在する島から色々な食材がとれるッス。食の宝箱なんて呼ぶ人もいるッス。あと、天使騎士団領もあるんで一番治安がいいッス」
「じゃあ、あそこは?」
「世界の臍の緒、岩石系の魔法が覚えられるッス。この世界の最初に作られた場所で古代な神様が集まったせいか、昔の住居跡の遺跡群があり探掘スキルが覚えられるッス。あと、呪術や占い召喚術もあり、歓楽街みたいな場所もあるッス」
「アレ?そうなると風系は?」
「よくぞ聞いてくれました!まさに私の翼はそこに行くためにあるッス!天空都、空の彼方にあるこの街は、海賊ギルドと盗賊ギルドが合併して出来た空賊ギルドがあるッス。風嵐系の魔法が覚えられ、さらに氷結系の魔法を教えてる人もいるッス。でもなんと言っても盗賊スキルはここだけでしか憶えられないッス。他にも軽業やサバイバル技術、あと造船技術や飛空挺などの運転技術も教えてくれるッス」
「どうやっていくの?」
「運んであげましょう!空の彼方へ!!」
「ま、また今度ね」
「えー、分かったッス…」
「でも盗賊スキルとかいいの?神様の世界で」
「例えば目が見えない人からスリしようとしたら振り向かれたり、絶対不可能と思われた難解な鍵が開いたり、幸運の神様が身近に感じられる、そんなスキルが盗賊スキル。割と冒険者には人気スキルなんスよ、まあ、犯罪に使えなくも無いけどそれ言ったら、回復魔法だって拷問に使えるし、神々次第ッスね」
「ふーん、そんなもんなのかな」
「それじゃそろそろ行くッスか。このまま頂上目指すか、近くの洞窟に入って防具宝箱狙うッス?」
「よし、もう少し上を目指してみるよ」
ここは死なない世界。
二回ほどやられてセーブポイントに戻って、暗くなってきたので街に帰る事にした。