新着担当、その前に
―――行ってきます。
行ってらっしゃい。
送り出して、次の場所へ。
さて、次の私の担当する方はどちらに。
ココは『ゲートリア』神々の直轄地。
異世界転生者の集う世界。
世界と世界の間、魂の職業訓練所。
人界に異世界転生の概念が存在し始めた昨今。
神々はこの死のない世界に大いに期待していた。
死者の長い列のその少し離れた場所に、彼を見つけた。
土色の肌、黒い虚の目、肉はあらかた削げ落ち、木乃伊化が進み正気を感じられない。
そこに居たのは、ゼロよりも辛いマイナスからスタートする体育座りの亡者だった。
「初めまして、アルトリエル・バレイシュタインッス」
…ンガ。
「奏シンヤさん、ですよね?」
…ウガ。
「…ごめんなさい、何言ってるか分からないッス…」
亡者姿のその人、奏シンヤさん?は、虚ろな顔で眼球の無い目で私を見ていた。
私は涙をグッと堪えた。
「ごめんなさい!」
「いや、いいっていいって」
緊急処置として申請し10ポイントの進呈。
発声器官や思考改善などにソウルポイントを使う。
最近流行りの初心者狩りにあったんでしょうか?
もう少し早く見つけていたら変わっていたのかも。
「明日には身体も戻るので安心してくださいッス」
「良かった、ずっとこの姿じゃないんだ」
ゲートリアは魂の世界、死はないけど魂の力『ソウルポイント』が無くなれば亡者姿になる。
筋力体力は勿論、魔法使用やらなにやら制約を受ける。
なにより会話が成り立たないのは痛い。
「改めまして、あなたの担当になったアルトリエル・バレンシュタイン。バレンシュタイン神の使いで、この羽根と輪を見て貰えば分かる通り天の使いッス」
「はじめまして。奏シンヤです。天使様にしてはイメージ違うかな、可愛い女の子だし」
「天使はやめて欲しいッス。アルトでいいッス」
「う、うん。それでここはどこなんだ?」
「ここは、ゲートリア。異世界に行く前の準備の世界ッス。奏さんは、異世界に行く権利を得たッス、けど異世界は前にいた世界とは違う法則だったりするんで、ここで順応性や耐性、言語や技能を身につけるってわけッス」
「異世界に行く権利?」
「死んだ時のこと覚えてるッスか?」
「えっと…」
『部活の帰りトラックに轢かれそうになった犬を助けた。気づいたら体が動いていた。顔を舐められて意識をつないで「綺麗な白い毛並みだね、シロって呼んでいいかな?」そこで目の前が真っ暗になった、次に気がついたらここに居た…』
「異世界転生の条件は三つ、一つは寿命を大量に残していること。奏さんの場合、高校生でその犬…シロさんを助けなかった場合、あと80年くらい生きたッス」
「そうだったのか、でもまぁ助けたかったし悔いはない、未練はないと言ったら嘘になるけど」
「そういう人だからこそッスよ。次の条件、シロさんは割と霊力のある犬で、助けなかったら怨みから地縛霊になりその辺一帯事故が多発してたッス」
「そ、そうなの!?」
「そうッス。未然に防ぐことが出来たから条件クリア、最後の条件はその事が神様に認められて担当天の使いの私が来たッス」
「神様は見ているもんなんだね」
「まぁ神様がいつも見てるって訳じゃないッスが…さて、それより取り敢えず宿を探すッスよ!」
「う、うん」
雑談を交えながら街に案内する。
夕暮れ時の夕飯の匂いが鼻を擽ぐる。
ここは魂の世界、ソウル体の人間が異世界に転生する為、ソウルポイントを稼ぐ。
そうして人が集まり出来た街が始まりの魂の宿り木【ソスプル】
「お客さん連れてきたッスよ!」
「アルトかい、おや新入りだね?」
そこそこ繁盛している店内は、仕事帰りの人々の喧騒であふれていた。
宿泊兼居酒屋のパマルの宿は、店主が転生するたびに代替わりして三代目の老舗だ。
三代目店主のソルビアの元気な声が返ってきた。
「そうッス。見ての通り初心者狩りにあったらしく文無しッス」
「OK、ちょうど部屋が空いてるし住み込みの仕事してくれるんなら貸すよ」
「助かるッス。さぁ奏さん、行くッスよ!」
小狭な部屋、簡易ベッドと質素な机と椅子しかない、けれど綺麗に掃除されていた。
「ここが今日から拠点になるッス。あと何かあったらこれで…」
連絡用の端末を渡した。
「これは?」
「通信、ソウルポイントのストック、ステータスの確認など出来る優れ物ッス。奏さんの前世に合わせてスマホ型にしてみたッス」
「なんかいろいろありがとう…」
「いえいえ、大したことないッスよ。それじゃ、新着の報告にいくのでこれで。また明日迎えにくるッス」
「あ、うん。おやすみなさい」
「おやすみなさい、良い夢を♪」
そして、一夜が明けた。