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短編ごちゃまぜ

男爵令嬢、オネェな侯爵に嫁ぐ

作者: しきみ彰

「あら、育て甲斐がありそうな子ね」


 コーネリアが婚約者との顔合わせで最初に言われたことは、そんな言葉だった。


(どういう意味だろう……)


 名門ベレスフォード侯爵家の当主にして、変人と呼ばれているオースティン。そんな男が、コーネリアの婚約者である。男爵令嬢の彼女からしてみたら、侯爵家の当主の妻になれることはこの上ないほどの玉の輿である。


 しかしそんな彼は変人と呼ばれ、今の今まで結婚話が持ち上がらなかったのだという。そこで白羽の矢が立ったのが、コーネリアだったというわけだ。


 コーネリアは初回で、なぜオースティンに婚約者がいなかったのかを悟った。


(なるほど……いろんな意味で変人だ)


 女と見間違えるほどの、美しい銀髪。ルビーのような赤い瞳。顔立ちは彫りが深く端正で、どこか中性的で。それがとても美しかった。オースティンが女装をしたら、それはそれは美しくなるだろう。並の女ならば空気と化す。

 それだけでも耐えがたいのに、オースティンは女性のような言葉遣いをするのだ。


(自尊心が高い貴族令嬢としては、いろんな意味で耐えられなかったんだろうなあ……)


 されどコーネリアに、そんな感情はない。男爵令嬢と言っても、父親が騎士ゆえにもらった称号だった。父が亡くなれば消える、儚い儚い称号である。


 ゆえにコーネリアは下町で働き、家の生計を支えていた。


 そんな娘を不憫に思った父がなんとかつかんできた縁談話が、これだったというわけだ。

 コーネリアは無難な挨拶をする。


「お初にお目にかかります。コーネリアと申します」

「そう、コーネリア。あたしはオースティンよ」

「存じ上げております」

「……あんた、磨き甲斐のある見た目してる割には、無愛想ね?」

「その、なんと言いますか。昔からあまり、笑えないようでして」

「……貴族令嬢らしくないわね」


 コーネリアは動かない頬をなんとか動かそうと試みたが、愛想笑いにすらならなかった。そのためしょんぼりしつつも「申し訳ありません」と頭をさげる。


 昔から、コーネリアはあまり笑わない子どもだった。父が笑わせようと努力したり、母が表情筋の鍛え方を教えてくれたりしたが、改善した試しがなかった。


 しかし周りに優しい人が多かったせいか、その無愛想と境遇の不憫さが周りから親しまれ、働いていた食事処の常連や店主からは可愛がられていた。髪も目も茶色という、特に特筆した面がないことも、その一員であろう。

 それゆえに、彼女は貴族らしい努力をしてこなかったのである。


 それを聞き、オースティンは笑った。花のような笑みだった。


「良いわ。あんたがあたしの嫁になるっていうなら、あたしがあんたを磨いてあげる」

「はあ」

「で、返事は?」

「こんな愛想のない小娘でよろしければ、もらっていただけると幸いです」

「……色々と言いたいことはあるけど、まぁいいわ」


 オースティンはそう言うと、コーネリアの頬をつつく。


「コーネリア。あんたを、あたしの隣りに立つにふさわしい女にしてあげるわ」


 そのとき向けられた笑みはとても美しくて。

 コーネリアの胸に、今まで感じたことのない明かりが灯った。


 それが、変人侯爵オースティンと、貧乏男爵令嬢コーネリアの出会いであった。



 ***



 コーネリアのベレスフォード侯爵夫人としての仕事は、自身を磨き上げることから始まった。

 それはどうやら、結婚式という名の顔見せをするための準備らしい。

 この国では、婚約して同棲してから式を開くという流れが通例とされていた。


 そんなわけでコーネリアは、朝からお付きの侍女たちに好きなようにされている。全員、侯爵家に長く仕えている使用人たちであった。

 そんな扱いを受け、彼女の顔はすでにげんなりしている。


(なんていうか、こう……死にそう)


 腹部を圧迫するコルセットも、スカートを膨らませるためにはくパニエも、裾の長いスカートも。すべてがすべてわずらわしい。

 しかしこれは、今までのツケが回ってきただけである。貴族令嬢としての矜持を捨ててきたコーネリアが、侯爵家という格上の貴族の一員になるためには、これくらいの努力が必要であった。


(貴族って、大変なんだ)


 こんなにも大変なのだから、それ相応の矜持はあってしかるべきである。コーネリアはそれをしみじみと感じた。

 ドレスが付け終われば、髪だ。侍女ふたりがかりで結われる。その髪はここにきてから、侍女たちが香油などを塗って手入れをしてくれたせいか、とても美しいものに変わっていた。


 侍女のひとりが、コーネリアの顔を見て言う。


「コーネリア様。お加減はいかがですか?」

「……はい、大丈夫です」

「……左様ですか」


 本当は苦しくてたまらなかったが、それを言える立場になかった。そのためコーネリアは頷く。そしてこれは真面目というわけでなく、ただ流されやすいだけだった。


 今回の婚約もそうだ。父がコーネリアの幸せを願って、決めたものである。両親共々とても幸せそうにしていたため、コーネリアはそれに口を出さなかった。

 男爵令嬢だというのに、侯爵家の住人はコーネリアに優しくしてくれるし、相応の態度を取ってくれる。それを無下にするわけにもいかなかった。


(ふたりが幸せそうだし。わたしも、お金には困らないだろうし。それに……きっと、幸せになれる)


 そう、自分を納得させる。胸の奥でちらついた感情には気づかないふりをした。

 苦しいのもつらいのも、慣れてくれば苦にならなくなることをコーネリアは知っていた。ひと月もすればなんとかなるだろう。

 身支度が終わると、コーネリアはオースティンがいる食堂に向かった。


「おはようございます、オースティン様」

「あらおはよう。コーネリア」


 オースティンはすでに席に着き、紅茶を飲んでいた。コーネリアは朝の挨拶をしつつ、向かい側に座る。

 先日教わったテーブルマナーを駆使しながら食事を始めると、オースティンがじいっと見つめていることに気づいた。


「……オースティン様。わたしの顔に、何か付いていますか?」

「……いーえ。何も付いてないわ」

「そうですか……」


 釈然としない心持ちのまま、コーネリアは食事を機械的に運ぶ。味はあまりしなかった。ただ食べなければ倒れるため、無理矢理胃に押し込む。


 コーネリアが侯爵家にきてから、半月が過ぎていた。

 結婚式は約三ヶ月後に執り行われる。この半月間でもそうだったが、コーネリアは既にかなりのスパルタを受けていた。


 勉学、ダンスのレッスン、テーブルマナー、所作。

 今まで男爵令嬢として最低限のものしかおこなってこなかったコーネリアからしたら、それは下町で働くよりも億劫でつらいものであった。

 しかしそれらは、これから幸せになるための第一歩である。


 オースティンはコーネリアに厳しかったが、ときにとても優しかった。彼とともに過ごす時間やティータイムは、コーネリアにとって唯一の息抜きである。


「あ、そうだ。コーネリア。今日はダンスレッスンに付き合ってあげられるわ。その後はお茶にするから、楽しみにしてなさい?」

「はい。頑張ります」


 侯爵家当主としての仕事をこなしながら、コーネリアのことも気にかけてくれる。オースティンはそんな人だ。

 確かに美意識が高く女口調なところは奇抜だが、それ以外での彼はとても努力家だった。

 コーネリアは、夜遅くまで彼の部屋に明かりが灯っていることを知っている。


 そんな彼が夫なだけに、コーネリアの気が休まることはなかった。


(オースティン様にふさわしい、それでいて恥をかかせることのない妻にならなきゃ)


 でないと、幸せになる権利などない。そう思う。

 そんな忙しない日々を送りながら、コーネリアのひと月は過ぎていった。



 ***



 なんだか、頭が重たい。


 そんなことを思いながら、コーネリアはダンスレッスンを受けていた。結婚式まで残り二ヶ月である。ひと月頑張り抜いたこともあり、コーネリアはたいていのことをそつなくこなせるようになっていた。


 ダンスレッスンの相手は、オースティンである。忙しい合間を縫って、彼は何かと彼女に付き合ってくれた。それがとても嬉しい。だからこのダンスレッスンのために、今日一日を頑張っていたのだ。


 ひと月もすればステップも覚え、余裕が出てくる。オースティンのリードが上手いということもあり、コーネリアはなかなかスムーズに動けていた。


 添えられた手にも、腰に回る腕にも。未だに慣れることはなかったが。


 しかしいかんせん、頭が重たい。息が上がるのも早いし、なんだか体が熱い気がした。頭がぐるぐるしてくる。


(でも、そろそろ音楽も終わるし。もうちょっとだから)


 そう思いながら、コーネリアはヒールの高い靴でステップを踏む。しかしくじいてしまった。


(あ、まずい……)


 体を支えようともう片方の足をつこうとしたが、体に力が入らずそのままかしいでいく。

 目眩もするし、なんだかおかしい。


(もしかして……風邪でも引いた……?)


 それを理解したときには、もう遅かった。


「コーネリア!?」


 コーネリアはバランスを崩し、倒れたのだ。

 オースティンが彼女の腕を引いてくれたおかげで、体を打ち付けることはなかったが、立っていられないほどの熱量に視界がにじむ。


「あ……オースティン、さ、ま……」


 そうつぶやいたが、意識は遠のくばかりで。

 コーネリアはそのまま、深い眠りについた。
















 コーネリアはふと、目を覚ました。喉が渇いたのだ。

 ゆらゆらと視線を彷徨わせていると、部屋にささやかながらも明かりが灯っていることに気づく。

 彼女は視線をそちらに向けた。


「……オースティン、さま?」

「……あら。起きたの」


 そこにいたのはなんと、オースティンだった。彼は眼鏡をかけ、書類の整理をしているようだ。

 コーネリアがのろのろと体を持ち上げると、オースティンがそれを手伝ってくれる。


(優しい……)


 思わず泣き出してしまいそうなくらいには、優しかった。

 コーネリアはそれをなんとかこらえつつ、差し出されたコップに口をつける。


「具合が悪いならちゃんと言いなさい? あんた、過労のせいで熱出して倒れたんだから」

「もうしわけ、ありません……ごめい、わくを」


 起きたばかりだからか、かすれた声が漏れた。


 どうやら、ひと月分の疲れが一気に出たらしい。コーネリアは「おかしいな。今までどんなに無茶しても、倒れたりしなかったのに」なんて言うことを思いながら、頭を下げた。

 しかしオースティンは、眉をひそめたままだ。コーネリアは首をかしげるしかない。


「……オースティン、さま?」

「ねえ、コーネリア。あたしはこの一ヶ月、あんたのことを見続けてきたわ」


 そう切り出され、コーネリアはコップを握り締めた。

 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、オースティンは言い放つ。


「あんた、どうして自分の心情を言おうとしないの」

「それ、は……」

「どうせ「そんな立場にないから」とか考えてるんでしょう」


 図星だった。しかし事実だから仕方がない。

 コーネリアは緩く首を縦に振る。


「男爵令嬢のわたしが、侯爵家に嫁ぐのですから、これくらいしないと……」

「釣り合わないって? 馬鹿言わないで。どこぞの貴族令嬢たちはもっと文句を垂れるわ。そつなくこなせるようなのは、子どもの頃からやってきたからよ。あんたはそれをひと月、無言で耐え抜いたの。庶民とほぼ変わらないあんたが」

「えっとそれは……褒められているのでしょうか?」

「褒めてはいるけど、貶してもいるわね」


 ひどい話である。どちらなのだ。そんなことをコーネリアは思った。

 体はとても熱いのに、心がとても冷めきっていることに気づく。


 落ち着け。


 自分にそう言い聞かせ、コーネリアは目をつむった。

 オースティンは「病人にこんなこと言いたくないけど」と前置き、言葉を紡ぐ。


「あんたの表情が動きにくいのって、それだけ感情の起伏が乏しいって意味よね。つまりあんたはそれだけ、自分の感情を抑え込めてしまう。違う?」

「それ、は……」

「今まではそれで耐え切れたのかもしれないけど、それをこれからも続けたらあんた、壊れるわよ。だってそんなの、対等じゃないもの」


 コーネリアは、震える片手を押さえつけた。オースティンの言葉が、彼女の心を暴いていく。

 それが恐ろしくてたまらない。

 されど彼は、追及の手を緩めなかった。


「ねえ、コーネリア。あんたにとっての幸せって、そんなものじゃないでしょ?」

「そんな、こと、は」

「ないって、あたしの目を見て言える?」

「……っ」

「言えないわよね」


 オースティンはそこまで言い終えると、寂しげに笑った。


「あたしは、夫婦っていうものは対等な関係だと思ってるわ。だからこの屋敷で働く人たちには、あんたをあたしの妻として扱ってくれって。そう言った。でもあんたはあたしと夫婦でいようとしてないわ。……あたしのこと、嫌い?」

「ッッッ!! それは、絶対にないです!!」


 コーネリアは生まれてはじめて、大声を上げた。さすがのオースティンもそれは予想していなかったのか、動揺している。しかし彼女はこんなことお構いなしに、そして早口でまくし立てた。


「お、オースティン様は、とても素晴らしい方で……わたしのことも気にかけてくれますし、夜遅くまでお仕事をなさっていますし。確かに美意識はとても高いですしときにはとても厳しいですが、それと同じくらい、わたしに優しくしてくださいます」

「えっと、コーネリア。一回落ち着きましょう……?」


 オースティンがなだめに入ったが、一度胸の内を吐露してしまったコーネリアは、止まらなかった。


「見目もとても美しいですし、所作も毎回見惚れてしまうほど綺麗で。女口調で話す点なんて、些細なことです。オースティン様の魅力を霞ませるどころか、引き立てています! だからできる限り釣り合いたいと努力してみましたが、こんな結果でっ……!」


 色々な感情がごちゃ混ぜになった上に、この体調不良である。コーネリアは本当に久しぶりに、涙を流した。オースティンがぎょっとする。


「わ、分かったわ。あたしが悪かった。だからコーネリア、一度落ち着きなさい?」

「で、ですがぁ……」

「いいから、横になりなさい。休まないと良くならないわよ。……元凶はあたしだけど」


 そう言われ、コーネリアはしぶしぶベッドに寝転んだ。しかしすすり泣きは止まらない。

 子どものようにぐずつく彼女の髪を、オースティンは優しく撫でた。


「……参ったわね。そんな風に思ってもらえてるなんて、思いもしなかった」


 そうつぶやくオースティンの顔は、少し赤い。


(オースティンさま、照れてる……?)


 可愛らしいその様子に、コーネリアは疑問を投げかけた。


「どうして、です……?」

「たいていの人間は、あたしのことを外見と第一印象で判断するからよ」


 コーネリアの涙を優しくぬぐいながら、オースティンは苦笑する。


「あたしはね、綺麗なものが好きなの。そんな意識が高かったせいか、女口調のほうが好きでね。別に男が好きとか、そういうわけじゃないのよ。むしろ女のほうが好きだわ。だって、綺麗じゃない?」

「……ちょっと、わかりません」

「ふふふ。いいのよ、別に」

「でも、とても似合っているとは、思います……」

「あら。嬉しいこと言ってくれるじゃない」


 オースティンはコーネリアのことを撫で続けながら、独り言のようなつぶやきをぽつぽつと落とす。


「だから正直、あんたがお金目当てで婚約したって思ってたの。間違いだったけど」

「……お金はたくさんなくても、幸せには、なれますので」

「そうね。見てて思ったわ。あんたは別に、お金がある生活を幸せに思っていないって」

「ただ……オースティンさまの、そばに、いたいなって……そうおもった、だけ、でした……」


 両親が喜ぶということやお金に困らないという点は、コーネリアにとってあってもなくても変わらないものであった。

 ただ、オースティンのそばにいたかったのだ。一目惚れから始まった恋だが、彼のことを知りどんどんその想いが強くなっていくのを、コーネリアは隠したかったのである。


「……そうね。あんたは存外、一途なおバカさんだっただけだったわ」


 コーネリアは、オースティンの声を聞きながら意識をゆらゆらと沈める。なんだか眠くなってきてしまったのだ。

 それはおそらく、オースティンにすべてを打ち明けたからだろう。


(勢いで言ってしまったとはいえ……気持ち悪がられなくて、よかったな……)


 コーネリアが恐れていたのは、それだった。オースティンが自分の心を知り、その気持ちを否定されることが怖かったのである。

 そしてそれはどうやら、オースティンも同じであったようだ。それが余計に、コーネリアを安堵させた。


「コーネリア。あんた、出会ったときよりも綺麗よ。……あたしには、もったいないくらい、ね」


 そんなつぶやきの後、唇に柔らかいものが重なる。

 コーネリアは甘やかな感触を感じながら、意識を手放した。



 ***



 そんな騒動があってから、早二ヶ月。

 コーネリアとオースティンの結婚式がやってきた。


 その日は朝からとても清々しく、絶好の結婚日和である。

 されど肝心の花嫁は見るからにガチガチで、周りの景色を楽しめる状態になかった。


 それを見た花婿は、呆れた顔を浮かべる。


「コーネリア」

「は、はひ!」

「緊張しすぎよ」

「うう……すみません……」


 ふたりは控え室にて待機している状態だった。

 コーネリアは視線をあちこちに彷徨わせ、ぶるぶると震える。


(とうとう、来ちゃった……そしてオースティン様、綺麗すぎて……!)


 自分の姿が明らかに釣り合っていないことを嘆く。しかしそれほどまでに、オースティンは美しかったのだ。


 長く伸びた髪を純白のリボンで緩く結び。化粧など施していないのに、なんとも言えず輝いている。

 純白の礼服がとても様になっており、今日はどちらかというと男前に見えた。

 見た目だけならば、おとぎ話の王子様として出てきそうな風貌である。


 一方自分は、目一杯飾り付けられてはいるものの地味である。ウェデングドレスも、オースティンの指導の元特注で作った代物であるため、コーネリアの体を引き立たせていたが、彼の横に立つとやはり見劣りする。コーネリアは椅子に座ったまま、俯いた。


(そ、そりゃあ確かに、あの一件があってからなるべく寄り添えるように努力してきたけど。でも……!)


 あの日から。コーネリアは、努力の仕方を変えた。

 苦しいときは苦しいと言うようにし、自身の限界というものを知るようにしたのである。

 どうやら侍女たちも、彼女のことを心配していたらしい。コーネリアが意見を口にすると、とても嬉しそうにしていた。彼女はそれを見て「申し訳なかったな」と思った。


 しかし時折それが分からず、オースティンに「休みなさい!」と怒られることもあった。侍女たちもだんだんとコーネリアの扱いが分かってきたらしく、いくら大丈夫と言っても「信頼できませんお休みください!」と叫ばれる始末。

 それらを含めて、今となっては良い思い出である。


 コーネリアが内心悲鳴を上げているのを見て、オースティンはため息をもらした。

 すると彼は、彼女のそばに歩いてくる。


「コーネリア。上向きなさい」

「な、なんですか……」


 涙目になりながら上を向けば、すぐそばにオースティンの顔が迫っている。

 彼の唇が自分のものと重なったのを感じ、コーネリアは顔を真っ赤にした。


「お、オースティン様!!」

「あらやだかわいい」


 彼は自身の唇についた口紅を舐めながら笑う。それが妙になまめかしくて。コーネリアは口を魚のようにパクパクさせた。


「もう。コーネリア。いい加減にしないと、この場で食べちゃうわよ?」

「ななな、な……!!」

「あはは。ほんっとかわいいわね。……大丈夫よ。あたしを信じなさい」


 オースティンはコーネリアにレースのヴェールをかぶせながら、片目をぱちりとつむる。


「あんたはあたしにもったいないくらいの、さいっこうに素敵な女よ」


 彼はそう言うと、恭しくコーネリアの手を差し出す。そして、王子様がダンスを誘うときのようにお辞儀をした。


「行きましょうか、あたしのかわいい花嫁さん?」

「……はい!」


 コーネリアはヴェールをかぶっていても分かるほどの満面の笑みを浮かべ、オースティンの手を取った。


 そのぬくもりを感じながら、コーネリアはそっと心の内で願う。


(どうか……どうか神様)


 ――この手が決して、離れるようなことになりませんように。


 花嫁はただそれだけを望み、光り輝く道筋へと歩き出した。

日向るな様主催の企画、「ガールミーツボーイ(略してGMB)企画」作品の短編でしたっ!

(必須事項のみならず、努力目標まで達成させたアホです、多分!)


……はいすみません。男前なオネェ×少女がやりたくて書きました。書いた理由はそれだけです。書いたことのないカップリングに、挑戦したかったんです……!

なんか後半から、作者ですら口から砂糖をドバドバ吐き出したくなるくらい甘くなりましたが、いかがでしたでしょうか?

「GMB企画」と検索していただきますと素敵な企画作品たちが引っかかると思いますので、よろしければ是非。

(※GMBは全角です!注意!!)


最後までお読みくださった方々、ありがとうございました!

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