死にかけている侍と無邪気にみえる子供
おひさしぶりです。短めですので軽くお読み頂ければと思います。
現代と言われる前の前の前の時代。まだ木がたくさんあり、人が村に住み、着物を着て歩いていた時代。
そこには当たり前のように侍がいて、よく村の近くの林には侍が落ち延びてくることがあった。
だいたいが戦に負けて逃げてきた侍だ。
だから、どの村でも親は子に必ず言う。
林の中には絶対入るな、と。
大人でも一人で林の中には行こうとしないのに、子供が林に行くことは自殺行為のようなものであった。
誰もが意味もなく襲われるのを恐れているのだ。
この村でももちろんそうだった。
今、村の大人達の間で噂が流れていた。
片腕の侍をみた、と。
嫌そうにまた逃げ延びてきたのかと言った者もいた。
大人達は子供の居ないところで言っている言葉がそこらかしこで聞かれていることを知らないだろう。
わたしは詳しいことはおとんとおかんの会話から聞くことができた。
左の肘から下がなく、血でだろう、服は色の判別ができないほど赤黒く、そして、侍の目はギラギラと今にでも人を殺しそうだったと言っていた。
興味本意でみた子供達は落武者と呼んでいた。
「おじさんが侍? 」
親の言うことに従うほど素直でもなく、わたしは喉の奥からうなり声を返す侍の前に立っていた。
「わたしね、近くの村のこどもなんだよ」
特に考えるでもなく言葉を吐き出した。
「おじさん、いますごくうわさされてるんだよ」
侍から返事はやっぱりなかった。
「また侍がきたって。嫌がられてる」
おとんもおかんも毎日のように侍がいつ去るか、口癖のように言っていた。
「おじさんかんげいされてないね」
笑ながら言っても侍から返事はなかった。
まあ、侍を歓迎するところもないだろう。関わりたい人なんて大人ではいない。
「おじさんに良いことおしえてあげる。後二三日ぐらいでここも偉い人がしさつにくるんだって」
偉い人というよりは偉い人に言われてくる視察の人なのだが子供にそこまで分かるはずもない。逃げ延びた侍がいないか、戦が片付くと見回りをしている。
「この近くの林ってほかの村よりおさむらいがよくくるからしさつも早いんだよ。おとんとおかんが話してたから本当だよ」
侍は特に斬りかかろうともしてこないので、警戒というのもほとんどなくなり、侍の隣に腰掛けて枝で地面をつついた。
「……え、がやったのか 」
「え? 」
「おまえがやったのか」
返事は期待していなかった。ついつい頬が緩む。
掠れた声を出す侍に水ぐらい持ってこればよかった、と思ってしまう。
「わたしはただおしえただけ。にげたほうがいいって」
おとんとおかんはわたしが逃がしているのを知っていて、分かった上でわたしのいる前で話すのだ。
バレたらただでは済まさないようなことをやっている娘をどんな都合があるかは知らないが見逃してくれていた。
「そ……か」
「うん。あ、おじさんももう行くんだ」
ボロボロの体で覚束ない足で侍は歩き出した。わたしはいつもしているようにその姿を見送った。
「……おい、ガキ。もう二度と林に近づくなよ。侍はもう、来ない」
今までよりもはっきりとした声で侍は最後にそんなことを言った。
その言葉からこの侍は根は優しい人だと分かった。
そして、わたしはこの侍と二度と会うことはないだろう。この人は死ぬ。
あの侍が去った後、ぱったりと侍は噂も影すら見ることはなかった。わたしはあの侍が何かしてると思った。あの侍が助けてくれてると思ってる。
それから何年もせず、侍は居なくなった。この林からも国からも。
わたしがやっていたことはその場凌ぎで死を先延ばしにしていただけに過ぎない。それを分かっててやっていたし、何も考えずにやっていたことでもあり、本能に従っただけのことだ。
だからこそこの子供には罪悪感も何もなかった。
ついつい書いてしまいました。とある人気アニメに影響されまして、鎖国ちょっと前の村に子供とその近くに侍がいたらこんな感じにならないかなと思いまして……。地球外生命体も出したかったんですけど、それは流石にオリジナルにならないな、と思ったので、近いに書き直ししながら、話を増やしたいと思ってます。