共存するヒーロー
人によリけりですが少しグロイ描写があります
ある日、ぼくの耳が急激に成長した。
正直嬉しくない。
何で耳がこんなに成長したんだろうか…
ぼくは昨日何か特別なものを食べただろうか
耳が大きいせいで小道もうまく通れやしない
なんて迷惑な耳なんだろう…
耳が大きいといろんな音が聞こえる
小言はもちろん蟻の屁まで聞こえる
正直嬉しくない。
騒音が頭に響くのです
此処はなんてうるさいのだろう…
なんてぼくには生き辛い世界なのだろう…
両耳をくしゃくしゃに丸めてみたら、
案外、外の音もずいぶん良くなった気がした。
これからはこうして生活してみたらどうだろう
きっと今まで以上に生活することが楽しくて仕方がなくなるだろうね
でもある日、
耳鳴りがするようになりました
あまりにもうるさいので、心配になって両耳を広げてみたら…
外の世界の音が一気にぼくにつきささってきた
騒音をいう名の槍が僕の体をむしばむように降って来た…
ぼくはその槍に耐えられなくて、
叫びました
心の内で絶叫しました
でもそれは一瞬のお話で、
我に返えば、目の前にネズミがいました
白くまん丸なからだに華奢な手足
そして真っ赤な目玉。
可愛らしいねずみでした
それはもう可愛いくて…
「君はどこから来たんだい?」
「何故ぼくの耳の中にいたんだい??」
「ぼくの耳の中でなにをしてたんだい???」
『…………』
ねずみはしゃべるはずがなくて…
ぼくはひどくがっかりしました
可愛らしく無能な白い生物は
ぼくを見つめて、
そしてまたぼくを見つめるのでした
案外可愛い
僕は急に誇らしげな気持ちになった
ヒーローになった気分だ
弱いものは強いものに守られる。ぼくの中ではそれが教訓だった
弱肉強食なんてもう古い
あああ、これでぼくはヒーローだ
スーパーマンだ
キリストだ
神様だ
やった
あははだんだん気分がよくなってきた
何だか心地良い
聖母マリアのように穏やかな気分だ
とりあえず今のぼくは気分がいい
だからぼくは、耳に滞在していた能無しねずみをまた耳の中に住まわせてあげようと思った
そのときのぼくは何だか可笑しかったみたいだ
能無しのねずみはぼくの耳の中でしばらく生活していて、
おなかがすいたあまりにね?
鼓膜をかじってしまったのでした
そして食道を滑り落ちて、
内臓の味見をしていって、
十二指腸が気に入ったらしく、次々と平らげていくのでした
ヒーローはそんなことも知らずに
誇らしげな気分を胸に秘めて
生きづらいこの世の中で居候を続けています
ヒーローは無能のねずみに体をむしばまれつづけています
無能なヒーロー。
おばかなヒーロー。
こんなヒーローは新種だね
無能どころか無体のヒーローへと変わり果てていくヒーローなんて
おもしろい。
ねずみがヒーローの内臓を食べ終えた日にはどうなるんだろう
恩を仇で返されたヒーロー。
とことん無様だね。
これこそねずみの恩返し
ねずみの仇返し
ほら、あそこに大きな耳が丸まった少年がいるだろ?
鮮やかな日差しの下で血色の悪い少年がいるだろ?
あれこそがヒーロー
私たちのヒーロー
無様なヒーロー
さよならバイバイ気違いのヒーロー