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目と目が遭う

作者: はまさん

 わたしの所属してたバレー部は体育会系といっても、全国を目指すような感じじゃない。遊び半分の不真面目なトコだった。

 その日も顧問の先生がいないんで、放課後の練習はゲーム大会と化してた。


 みんなの学校でも憶えがないかな。どこの部か、体育の授業でやったのか。体育館の天井、鉄骨の梁を見上げると、必ず何かのボールが引っかかっているんだ。

 この日、わたしたちは、その、ひっかかったボール落としゲームをやることになってた。


 下からボールを投げて、ひっかかったボールに当てて落とすんだけど。これが案外に難しい。強く投げないと、天井まで届かないし。力を入れ過ぎると、コントロールが効かなくて、ボールにもなかなか当たらない。すると逆に、ミイラ取りがミイラになる、ってヤツで、投げたボールが鉄骨に引っかかって落ちなくなることもある。


 中でも、遠目にしか様子は分からないけど、真っ黒いボールがあった。体育館の端っこ、ちょうど鉄骨と壁との間に入り込んでる。大勢の人が落とそうとしたのに、難攻不落。

 黒い色のボールなんて、どこの部活でも使ってるわけがない。皆して、あのボールは何なんだろうと噂してた。

 という、通称【黒いボール】が本日、我々のターゲットとなった。


「落とせたら皆からジュース奢りねー!」

「飲みきれないよ~」

 アハハと笑い声。

 代わりばんこに【黒いボール】を落とそうとするが、鉄骨の入り組んだ場所で、命中すらしない。

 遂にわたしの番。なんにも考えずに投げたバレーボールが、偶然にも【黒いボール】そばの鉄骨に命中した。衝撃で【黒いボール】は一瞬だけ浮くけど、落ちては来ない。

 代わりに【黒いボール】から、はらりと黒い布のようなものが垂れた。【黒いボール】はどうやら、黒い布に包まれてたから、黒く見えてたらしい。


 思わぬナイスコントロールに、「おおっ、惜しい!」と歓声が上がる。

 夢中になったわたしは「もう一回やらせて」と、再び投げさせてもらうことにした。勘は掴めた気がする。不思議と、今度は必ず【黒いボール】が落ちてくるという確信があった。

「えいっ」

 再び投げたバレーボールは、吸い込まれるように鉄骨の間を抜けて、【黒いボール】に命中し、叩き落とす。


 【黒いボール】は落ちながら、包まれてた布がほどけて行く。すると、ボールを包んでいたのが黒い布ではなく、髪の毛だと気づく。

 そうして、長い黒髪をなびかせながら、わたしの足下に落ちたのは、人の生首だった。


 その後のことは、体育館中がパニックになって、あんまり憶えてない。警察が来たり、先生に怒られたりで、ともかく大変だったという印象だけが残っている。

 ただ、今でもあの生首は、女性だったらしいが、誰だったか分からないままらしい。


 今でもあの光景を思い出すことがある。

 あの生首は、きっと何ヶ月何年と天井にひっかかったままになっていたのだろう。肌は乾いて茶色のミイラみたくなり、眼窩には目玉がなくって暗い穴だけしかない。

 それが落ちて床に落ちる直前。わたしは彼女と目が合ってしまった、瞬間の光景をずっと忘れられずにいる。


 そして想像せずにはいられない。

 例えばベッドの、電柱の、押し入れの、曲がり角の、日常の物陰から。隠れた生首がいつ転がり出てくるかもしれないと。

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