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第一話

 閉じていた目をゆっくりと開く。先ほどまで感じていた強い風は今はなく、ただ穏やかな頬を擽るような空気を感じていた。

 真人はまず周りを見回す。するとそこは森の中で、現代日本ではありえないほどの濃い自然の空気が辺りに充満していた。

「ここがアテネか……」

 その瞳には辺りを窺うような色が浮かんでいたが、その実周りのことなど眼中にもない。そしていつの間にか現れた狼のような動物に周りを囲まれている状態になっていることに対しても何の感慨もなかった。

 狼は十匹ほどで、日本に生息しているだろうよりも明らかに大きく体長4mmくらいだろうか。今にも真人に襲い掛かろうと涎を口から滴らせて唸っている。木々がざわざわとさざめき、早く逃げろと急かしているようだ。

「確かステータスとか言っていたよな。あいつ一体何だったんだ?」

 だが、そんな緊迫した空気をぶち壊すかのように真人は先ほどの出来事の疑問を考えていた。先ほど出会ったアルテミスと名乗った神は、真人のことをずっと見てきたと言っていた。その言葉を聞いた時の正直な感想は不快感の一言だった。

 他人に自分のことを見られているなんて虫唾が走る。そもそも真人は神など信じていないし、存在を肯定する気もなかった。それもきっと過去に両親が死んだことに起因するのかもしれない。

 あの時真人は確かに呪ったのだ。自分自身の無力さと、何もしてくれない〝神〟という存在に。

 だから――。


 そんなことを考えていたら、しびれを切らした狼もどきが襲い掛かってきた。

 真人を知らないものならば、武器も持たずただ突っ立ったまま狼に見向きもしない真人が死んだと思っただろう。現にその姿はまるで現実逃避しているようにぶつぶつと呟いたままだ。

 だが、襲い掛かった狼は真人に対して一歩も近付くことはできなかった。

 いきなり吹き出す十体の狼の首から噴き出る血柱。ごろりと転がった狼の首に、森の中にあった緊迫とした重苦しい空気は霧散した。その代わりに風に乗って血潮の匂いが森の中へと広がっていく。

 その段階になっても真人は狼に見向きもしようとしない。

 何が起こったのかわかるものはこの場には真人以外に誰もいないのだから。

 あの時、真人は創造魔法で十枚の無色の刃を創り出したのだ。そして狼が動き出した瞬間に首を跳ねた。真実はそれだけだが、魔法を使えるものなら誰もが気付くだろう。その異様さに。

 通常魔法を使うには呪文の詠唱が必要である。無詠唱もあるのだが威力が落ちるしこれほどノ―モーションで使用することはできない。それは魔法を使うことには一番に必要なのがイメージ力だからだ。熟練の魔術師はそのイメージを一生かけて極めていく。それなのに真人は誰かに教わるでもなく自力でその力の使い方を会得し自身の元としていたのだ。

 これではもう天才でも鬼才でもなくただの化け物と呼ばれた方がピンとくる。事実真人自身自身のことを化け物だと思っていた。

「それにしてもここどこなんだろうな。取り敢えず移動を――ッ!!」

 血の濃厚な匂いに辟易し出した真人が移動を考えるとほぼ同時に、突然狼もどきが淡い光を伴って宙へと解けて消えたのだ。そしてその場には良くわからない宝石のような石と狼の毛皮のようなものが残っていた。

 今まで何事にも表情を変えなかった真人の表情に、少しだけ驚愕が浮かんだような気がしたが直ぐに元の何を考えているのかわからない無邪気な表情に戻った。

「これは何だ?」

 真人は周りに危険がないか細心の注意を払いながらそれらの石などを拾って手の中で弄ぶ。

 すると、突然目の前にウィンドウ画面のようなものが浮かんできた。


 大餓狼の魔石:魔道具などの動力に使われる魔力の籠った宝石。純度Cランク。純度はF〜Sまである。

 大餓狼の毛皮:大餓狼のドロップアイテムで、物理攻撃に強く硬くしなやかで防具の素材として高値で取引される。


 画面に浮かんだ説明文を見て、真人は日本で呼んだことのあるライトノベルと呼ばれる小説によく出てきた能力であることに気付いた。その名を確か。

「鑑定能力か? まあいいか。血の匂いもなくなったし取り敢えずここでステータスの確認をしていくか」

 さっさとやるべきことを済ませてどこかに移動しようと決めた真人は、心の中でステータスと呟く。

 すると、また目の前にウィンドウ画面が出てきた。


 名前:赤羽真人 性別:男

 種族:異世界人(人神)


 レベル:1

 HP:UNKNOWN

 MP:UNKNOWN

 STR:UNKNOWN

 VIT:UNKNOWN

 AGI:UNKNOWN


 スキル

 創造魔法

 神眼

 アイテムボックス


 加護

 創造神の加護

 月の女神の加護

 魔神の興味


 そのステータスの中身を見て、真人はレベルのところはスルーすることにした。気にしても意味がないと思ったのも確かだが、そこを気にするだけめんどくさかったのだ。

 向こうで大体力の使い方を制御していてこれくらいの実力があることなどわかっていた。だから気にする必要はない。

 だが、気になったのはスキルの方だ。このスキルの意味がとても知りたい。

 真人が便宜上〝創造魔法〟と名付けた力は、真人オリジナルの力だ。だが、どれだけ研究を重ねても謎が深まるばかりだった。今ならその答えがわかるかもしれない。

 それにしてもスキルに鑑定がないのだが、もしかして……。

 とりあえず創造魔法を見てみよう。じっと注視していると――。


 創造魔法:どんな魔法でも創って思い通りに操れる魔法。便宜上魔法と呼ばれているが、使用者が望めばどんなことでも実現可能。あらゆる力を内包した神話級スキル。――ここから先は表示ができません。――


 出てきた情報を吟味して真人は納得した。スキル説明からして最後に何かが隠されているのがわかる。ここから先が真人がこの力を持って生まれてしまった理由なのだろう。何故かそう察することができた。

「さて、なら神眼かな」

 アイテムボックスの説明は別にいらないしな。どうせ無限収納できる便利な空間のことだろう。


 神眼:神の目の一部の力を使うことができる。あらゆるものを見通す。他人のステータスや、物の価値、嘘や虚偽すら見通す力。


「ははは。俺みたいな信仰心もない奴にこんな力授けるなんてな。何考えてんだか」

 神々に対する猜疑心を強めながら、真人はせいぜいこの力をパンドラを探すことへの足掛かりにしようとニヤリと笑みを浮かべたのだった。






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