よん
『いたいいたいいたい』
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいおかあさん』
『たすけてたすけて』
女のこの泣きさけぶ声が、あたりにひびきわたります。
でも、女のひとの耳にはとどきません。
女のこの
うでをおりました。
かみをやきました。
つめをはがしました。
はをぬきました。
あしをせつだんしました。
めをくりぬきました。
はなをつぶしました。
くびをしめました。
かんたんでした。
女のひとは、ただその描写をくちにすれば良いだけでした。
くちにしたことばは、全てしんじつになり、女のこをいためつけます。
かんたんには、死なせてあげません。らくにしてはあげません。
女のこは、女のひとをうらぎったのです。
そのむくいを受けなければなりません。
女のこの体がかいふくする描写も交えながら、女のひとはおもいつくだけの、ありとあらゆるざんこくな描写をつむぎました。
さいごは、動かなくなった女のこの体を、もとの形がわからないくらいミンチ状にきりきざみました。
ミンチ状になった女のこをみて女のひとは、ようやくまんぞくしました。
女のこは、死んでしまいました。
そう、実感したとたん、もうれつなかなしみが、女のひとをおそいました。
愛し、いつくしんだ女のこは、もういません。
女のひとが、自分の手で、ころしたのです。
もう女のひとは、女のこの幸せそうな笑顔をみることができません。
女のひとが、自分でしたことでした。
女のひとは、ミンチ状になった女のこの死体をかき抱きながら、泣きました。
べとべとした血や、ぐにゃぐにゃの肉片が、女のひとの服をよごしますが、女のひとは気にしません。
自分は女のことあうためだけに、この世界にきたのに
女のこと幸せにすごしたかった、それだけだったのに
こんなことなら、もとの世界で、ひとりぼっちでしんでいた方がましだと思いました。
泣いて
泣いて
こえが枯れるまで、女のひとは泣きつづけました。
どれくらい泣いていたことでしょう。
『どうしたの?おかあさん』
気がつくと目のまえに、せいねんの姿をしたウサギが、ニタリと笑って立っていました。