俺は哲学楓 中学生
この作品の内容を、月日頑固の幽霊なショートショートの(7話)投稿で参考にさせていただきました。どうかご容赦下さい。
「やっぱり、この味だね!」
そこには美味しそうにソーダ味のガリガリ君を食べるユウキくんがいる。そして、その隣には俺がいる。
美味しそうにガリガリ君を見せつけられても、腹がたたなかかった。
それは、彼に罪の意識を感じているためだろう。つまり俺はここにいてもいいのかということを、彼の隣に立つと不意に想像してしまうのだ。
こんな事を考えている俺に対して彼も心の中では居心地が悪いと感じているのではないだろうか。
・・・・・・
二年が過ぎ、お互い中学一年生になった。中1になっても、よく俺に遊びの電話をくれた。
その二年後、そんな彼が行方不明になった。
・・・・・・
夏休みに入り、三年生の俺は高校入試に向けて一生懸命に勉強をやるはめになった。
夕食を食べ終わって一息ついた頃のこと。
「ピンポーン」
玄関から呼び出し音がする。
スライド式の扉をガラガラと開けてみた。しかし、誰もいない。
玄関前の砂利の上に百合の花束がおかれていた。
それはこれまで見たことのない色をした赤の百合である。
外の薄暗い雰囲気と濃い赤が実に馴染んでいて、背景の黒に溶け込む妖花のような異彩を放っていた。
「だれかいないですかー?」
一応、大きな声をだすものの、誰の気配も感じない。仕方がないので預かっておくことにした。
俺が百合が好きなことを親以外に知らないはずなのに、こんな形でなぜ、誰がおいたのだろう?
・・・・・・
家に戻り、不思議な落し物について考えていた。
しかし、それはほんの少し脳に靄がかかったぐらいの出来事で終わった。お笑い番組を見終わった深夜にはすっかり忘れていた。
つまり俺は、不安やストレスから逃げるのが得意な人間であったということだ。
そして、あの百合を勝手に生け花にして寝室におくことにした。花の匂いで眠る前に安らぎの空間を作りだしてくれるだろう、という期待からその場所にした。
しかし、その夜は寝付けなかった。
もちろん予想以上の花の匂いのキツさのせいで、若干目まいがした事も原因の一部分に入るだろうが。
何かにとり憑かれたかのような、今まで経験の無い「見張られている」感覚が全身をつつんでいた事が寝付けない一番の要因である。
どうやら体の節々(ふしぶし)を動かそうにも動いてくれないようだ。手足首の先や頭を、痙攣をおこしたような震えた形でしか操作できない。
「え…ぇ」
言葉にするにもどうも口の周りの筋肉がうまくはたらいてくれない。どうすることもできない。助けを呼ぶこともできずに恐怖が襲う。
(助けて!)
心の中の叫びを訴えるが伝える相手に伝わらない。救助を懇願する声音が、だんだんと恐怖で埋め尽くされた声音に変わっていく。
その間に地道にも時計の針が動いていた。
「カチ カチ カチ カチ」
何者かの気配を察知しても息苦しい畏怖の念が俺を苦しめるだけだった。
ずっとこの状態なのがもどかしい…。
もうどうなってもいいか…あきらめてしまおう。
時間が経過する内に息苦しいのまかせて、このままポックリ死んでもいいと思った。
現状の自分自身を受け入れてしまっていた。
暗闇の中にいる何者かが、俺の心に神秘的な変化をもたらしたようである。
息苦しいのに、心地いい。
相反する感情があふれだした。
・・・・・・
それから俺の部屋に向かって階段を上がってくる音が聞こえた。
ギシギシと木製の段を踏むのが想像できた。
それが二階の部屋の入り口付近にきた頃には
、気配しか感じることのできない黒々とした者は僕を解放してくれていた。
体は自由に動かせるようになった。
「なにしてるの⁉」
サユリが俺に話しかけてきた。
どうやら、奇声は一階にいた母親に届いたようだ。
異変に気づいた彼女は、心配に思って駆けつけてくれたんだ。
なにしてるの⁉という投げかれられた問いに答えなければいけないと思い、
「なんにもしてないよ」
俺は答えた。
俺は嘘をついた。
俺は死のうとしていた。
自然にまかせて。
流れに身を任せて。
生きるという希望ではなく。
死ぬという希望を選択していた。
だから。
なにもしていなくはない。
生 と 死
二者択一を迫られ。
俺は片方を選択したのだから。
ありがとうございました。