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やっぱりロックは不健康じゃないと良い曲ができない

 家に帰って充電し電源を入れた途端、大変な事が起きた。淳から着信とメールの嵐だ。しまった、今日も会う約束してたんだった。


 これはマズいぞ……うわ~~どうしよ、完全に本気で忘れてた。待てよ待てよ待てよ~~落ち着け落ち着け~~考えろ考えろ~~淳だよね、淳でしょ、淳だから……お、閃いた! これで行こう。これしかない。


「あ、亜季! 一体どこで何して……」

「もしもし淳!? アンタどこ行ってたのよ!」

「え」

「時間になっても全っ然現れないし、待たされるの大嫌いだって何度言ったら分かるの!」

「いやでも今日はちゃんと十分前にはいたんだけど……」

「十分前!? 冗談やめてよね! 三十分待ったんだからね、この私が!」

「で、でもいつものところにいなかったよね?」

「はあ~? いつものとこって何言ってんの!? 今日は欲しいバッグがあるからデパートの前って言ったでしょ!」

「え、聞いてないよ」

「ひっど~い! 私のことなんてどうでもいいんでしょ!」

「そそそそんなことないよ」

「ど~せエッチなことばっかり考えてて聞いてなかったに決まってる!」

「そんなことないってば。で、でもさ、それなら電話……そうだよ電話! 電話が全然繋がらなかったけど……」

「電池切れたのよ、悪い!?」

「い、いえ、で、でも……」

「何よ、淳のクセに口答えする気!?」

「口答えなんてそんな……で、でもさ、何で今日に限ってデパートで待ち合わせなの?」

「だ~か~ら言ったでしょ!? 欲しいバッグがあるって!」

「そうだとしてもさ、駅で待ち合わせてから行けば……」

「うるさいうるさい! もう知らない、淳のバカ!」


 ふう、これで何とかなるだろ。淳じゃなかったら絶対に通用しない手だな。それにしても本当は怒ってないのにキレた振りするのってとっても疲れるのね。エネルギーを使い果たし、ベッドでうとうとし始めると携帯が鳴った。


『亜季、ごめんなさい。まさかデパートで待ち合わせだと思わなかったから……この通り誤るので機嫌直して下さい』


 やだ~淳ったら信じたんだ、作戦成功! それにしても淳はちっとも悪くないのに謝ってくるなんてカ~ワ~イ~イ! でもここですぐに許したらかえって怪しまれるから、しばらく無視するか……お、また来た。


『亜季、もう寝ちゃった? まだ怒ってる……よね。本当にごめんなさい。明日学校で怒ってる亜季を見たくないので、お願いだから機嫌直して……そして、大好きです』


 いや~~ん! 淳のバカバカバカバカ~~~ホント可愛いんだから! 許す許す! 許しちゃう! って悪いの私なんだけどね。


『まだ怒って……ないよ! 淳のこと好きだよ、私も。おやすみ』



 昨日は淳にちょっとひどいことをしてしまったので、今日は出血大サービス! しようと思ってたけど学校終わってすぐにバイトだった。でもさすがに今日は一回も淳に怒らなかったな。こんなこと初めてかも。


 バイトが終わって家に帰る途中携帯を見ると、メールが来てた。安藤さんだ! やった、携帯使えるようになったんだ!


『携帯使えるようになりました(笑)ご迷惑おかけしました。昨日は来てくれて本当にありがとう。驚いたけど嬉しかった。あの部屋で、誰かと一緒に食事をするのは本当に久し振りで、とっても楽しかった。あのとき……』


 あれ? 途中で切れてる。


『やったね! ケータイ復活オメデトウ! そして昨日はご馳走様でした。本当に美味しかったです。うちのお母さんより美味しいかも(笑)。スーパーでのお買い物も楽しかった。まさか安藤さんが料理上手とは思いもしなかったな。で、あのとき……何ですか?』

『あのとき……本当は帰したくなかった』


 どっき~~ん。心臓の音が聞こえ始めた。帰したくなかった帰したくなかった帰したくなかった……そのとき手の中の携帯が歌い出した。


「も、もしもし……安藤さん?」

「うん、ごめんね、どうしても亜季ちゃんの声が聞きたくなっちゃって」


 安藤さんの声が震えている。心臓の音まで聞こえてきそうだ。きっと私と同じくらい鼓動が速くなってるんだろうな。


「あ、あのさ、また……会えるかな」

「も、もちろん! またご馳走して欲しいな!」

「うん、そうだね。じゃあ、もう遅いから切るね」

「また、連絡下さい」

「分かった。連絡する。お休み」

「お休みなさい」


 電話を切った後もしばらくは動悸が治まらなかった。さっきの感じからして告白されるかと思っちゃった。でももしそうだとしたら、私、何て答えたんだろう?



 次の日は、昨日の余韻で講義にも友人との会話にも集中できなかった。あれだけの短い会話だったけど、あんなにドキドキしたのはいつ以来だろうか。


「ねえ亜季……亜季? 聞いてる?」


 誰かが私を呼んでいる気がする。


「亜季ったら!」

「ん~~な~に~?」

「どうしたんだよ、ボーっとしちゃって。具合でも悪いの?」


 あ、チワワだ。


「え? そ、そんなことないよ。いつもと変わらずラブリーでキュートな亜季ちゃんです」

「ちゃん!? しかも何そのぶりっ子ポーズ! 絶対に何かあったはずだ」


 ち、犬だけに嗅覚が鋭いな。あ、私がいつもと違い過ぎるのか。


「うるさいな~何にもないったらないの! さ~て今日のお昼は何にしようかな~」

「まあいいや。ねえ、今日さ、学校終わったらライブ行かない?」

「ライブ? ってリサイタル?」

「リサ……うん、まあそうだね。オレの友達の兄貴がやってるバンドなんだけどね」

「ふうん。何系? ビジュアル系?」

「実はよく知らないんだけど、ビジュアルじゃないと思う」

「死人が出そうな感じ?」

「え、何それ」

「だからさ、スッゴイ激しくってシャウトしまくって頭ガンガンに振って盛り上がってくると客席にギター投げたりドラム壊したり火噴いたり」

「いや~~さすがにそこまでではないと思うけど……」

「どうしよかな」

「行こうよ、せっかくチケットもあるんだし」

「え? あるの? チケット」

「うん、くれたよ」

「そうか、あるのか、てことは無料か……じゃあ行くか」



 学校が終わると私と淳は北浦和のライブハウスへと向かった。思えば淳とコンサートの類に行ったことはない。私も淳もJポップのヒット曲を人並に聞く程度で、それほど音楽に興味がなかったのだ。


「へえ、ライブハウスなんて初めて来たけど……暗さといい狭さといい予想通りね」

「オレも初めて。何か独特の感じだね」


 タバコの煙がもうもうとしている。やっぱりロックは不健康じゃないと良い曲ができないのだろうか。


「普通の人も入れるんだね」

「ん? どういう意味?」

「私さあ、ライブハウスって麻薬やってる人じゃないと入れないんだと思ってた。昔読んだ『トーイ』って漫画がそんな感じだったから」

「どういうイメージだよ」

「お客さん結構入ってるね。その人プロなの?」

「うん、一応プロみたい。地元で活動してるだけで、まだ全然有名じゃないって言ってたけど……あ、出てきた」

「こんばんは~~~! どうも、ビーグルスです! 今日は来てくれてありがとうっ!」


 と叫んだボーカルの人を見て、驚きのあまり私も叫びそうになった。何で安藤さんが歌ってるの!?

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