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ここここれハナヂもんですよね?

「亜季~~! ゴメン待った?」

「待った。三時間」

「まじで……そんなにオレのこと待っててくれたの?」

「待つわけないじゃない。三秒が限界。だいたい淳のクセにこの私を待たせるってどういうこと!?」

「ご、ゴメン、グループでやる課題が長引いちゃって……」

「へ~~~私より課題の方が大事なんだそうなんだ。だったら学校戻って思う存分やってきなよ。私帰るから」

「待って待って! ゴメンゴメン!」

「知ってるでしょ!? 私待たされるのホント嫌いなんだから!」

「ごめんなさいって! この通り! 機嫌直して~」

「本当に反省してるの!?」

「してますしてます」

「何でも言うこと聞く?」

「聞きます聞きます」

「じゃあね……」


 私はバカ淳の耳を引っ張って口を寄せた。


「いててて、な、何?」

「そこのコンビニでエッチな本買ってきて」

「え?」

「あ、ただ買うだけじゃ詰まんないから、そうだな……読みながら買って」

「ええ!?」

「立ち読みしながらレジに並んでさ、『ここここれハナヂもんですよね?』って興奮気味に店員さんに見せて」

「ええええ!? そんなこと……」

「じゃあ帰ろっかな~」

「だだだだって店員女の子だよ?」

「あったりまえでしょ! 男の店員じゃ面白くも何ともないじゃない!」

「そんな~それは勘弁して……今日ゴハン奢るから」

「ヤダ」

「じゃあさ、前から欲しいって言ってたワンピース買ってあげるから。ね?ね?」

「ヤ~ダ! やんないんなら帰ろ。じゃね!」

「わ、分かった分かりましたやりますやりますよ……」

「ホント!? さ~すが淳!」


 私は首に手を回して後ろから抱きついた。淳は俯いて、コンビニでエロ本なんか買ったことないのに……と呻いている。


「ほら、さっさと行く! 私も他人の振りして後から行くから」



 十分後。


「あ~~~っはっはっはっはっは!」

「ちょっと亜季笑いすぎだって」


 腹を抱えて転げまわる私を、道行く人が怪訝な顔で見ている。しかし呼吸困難寸前の私はそれどころではない。


「だだだってさ、あの店員のコの顔見た? 明らかに変態見るような視線で、眉間にしわ寄せてあっはっはっは周りのお客さんもドン引きだし!」

「うう、酷いよ亜季……もうあのコンビニ行けない」

「あ~面白かった! じゃあ何か食べよっか」


 淳を苛めて大笑いした私はすっかり気分爽快だ。対照的に淳はまだ俯いたまま。


「ほら~もう許してあげるから。大丈夫だよ、いちいち客の顔なんか覚えてないって!」


 それでもまだヘコんでる。


「しょうがないなあ、じゃあさ、ゴハン食べたら……ホテル行く?」

「え?え?え?ホントに?」


 発情スイッチオン。


「いいよ。淳の勇気に免じて」

「ややややった~~! 亜季愛してる!」


 盛ったチワワが抱きついて顔を近付けてきた。


「ちょ、やめ……みんな見てるって、調子に乗るな!」

「ごめん、怒った?」


 あああ……この謝ってる顔とかスッゴイ可愛いんだよね~。あと困らせたときの顔、もう最高! あの顔見たくてついつい苛めちゃうのであった。



「美味しかったね~ここのタイカレー」

「か、辛い……」

「辛いけど美味しかったね~」


 淳は辛さで顔面から汗を噴き出している。会計のとき、タイ人のおばちゃんが、顔面から汗を噴き出し、悶える淳を見て「カ~ワイソ~」って言ったのには笑えた。この人そのうち口から火を噴くんじゃないか?


「ほら、しっかりしなさいよ!」

「だってサラダまであんなに辛いなんて」

「だらしないな、じゃあもう帰る?」

「なななな何言ってんだよ! かかかか帰らない帰らない! これからでしょこれからでしょ!」


 性欲は激辛にも打ち勝つのだ。


「目が血走ってるぅ淳コワ~い。お、メールだ」

「誰誰? 誰から?」


 携帯を覗こうとする淳の顔面に突っ張りをかますと口がタコになった。


「うるさいな……あ」

「『あ』って何!? 今『あ』って言ったよね!?」

「やかましい! 沙耶からだよ!」


 こういうところは鋭いんだから。


「ホントに? 見せて見せて」

「な~んでお前にメール見せなきゃならんのじゃ!」

「日本海溝より深い愛で結ばれたオレと亜季の間に隠し事はないはず」

「ハイハイハイハイ勝手に言ってろ」


 メールは安藤さんからだった。でも淳が傍にいるときに見る勇気がない。約束通りホテルに行ったけど、安藤さんのメールが気になって集中できなかった。不完全燃焼。エッチの後はいつにも増して私とのしばしの別れを寂しがる淳。そのせいでまた終電逃すとこだった。危ない危ない。全く淳のヤツ。



『今仕事終わりました。何か、誤解してるみたいだね。こんなことするのは亜季ちゃんが初めてです。他の誰にもしたことはありません。亜季ちゃんが本気で可愛いと思ったから。もし会ってくれるのであればメール下さい。今日中にメールがなければもう二度とメールしないし、声もかけません。しつこくする気はないので』


 今日中!? あ! もう日付変わってる! やっば早く返信しなきゃ……


『もう時間切れ……ですか?』

『時間切れ……じゃないよ! よかった。もう諦めてた』

『ごめんなさい。出かけててメール気付かなくて。今帰ってきました』

『じゃあ会ってくれるって事でいいのかな?』

『いいですよ。いつにしますか?』

『明日の六時くらいなら空いてるけど』

『あ~明日はバイトなんですよね……』

『そっか。明日が無理だと来週かな。じゃあまた連絡するね』

『あ! ちょっと待って下さい。もしかすると大丈夫かも』


 私は「お願い! 明日誰か交代してください!」というメールをバイト仲間に一斉送信した。


 ほどなく一つ年下の男の子から「いいっすよ! 亜季さんのためならいつでも代わります!」という返事。ん~可愛い後輩くん。どっきゅんハートマーク×3が効いたかな。


『安藤さん、まだ起きてますか?』

『うん、メール待ってた』

『明日大丈夫です! バイト代わってもらったんで』

『いいの? そんなわざわざ』

『いいんです。どうせ半分辞めようと思ってるバイトなんで(笑)』

『そっか。それなら安心した(笑)。じゃあ明日の六時で! 場所は……』


 遂に安藤さんと二人で会う日が来た。あ、別に浮気とかじゃないからね! 友達増やすだけだなんだから。と自分に言い聞かせつつも一瞬淳の顔が頭をよぎる。

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