第六章:女神との出会い
かなり遅れて、それでいて一話という状態に涙です。
他の作品に忙しくて、手が・・・・(涙)
「・・・・なるほど。貴方は戦友に恵まれていたんですね」
俺はカセットを入れ替えながら、老いた騎士---ハント・フォン・ウィルヘルムに聞いた。
「あぁ。ヴォルフは私と士官学校で一緒だった。まさか・・・・・あんな形で、借りを返すとは思いもしなかったよ」
ハント大尉---第3帝国での最終階級は大尉で、西ドイツでは大佐に昇進した。
しかし、敢えて第3帝国---大ドイツ帝国時代の最終階級である大尉と呼ぶ。
「あんな形とは?」
「それは順を追って話すよ」
俺の問いにハント大尉は微苦笑して答えて、一枚の写真を取り出した。
「次に話すのは・・・・・・・我らが戦女神との出会いさ」
写真を渡されて見てみたが・・・・・・美人だ。
サイド・カーに跨り、男物の衣装を着た美女が写し出されている。
年齢はソフィア嬢と同じか、少し年上だ。
腰には木製のホルスターに収まった大型拳銃があり、瞳は鋭く写真の方角を睨んでいる。
明らかに盗撮された事に気付いた、という所だな。
彼女の名はマルグリット。
マルグリット・ヴェスパ。
第二次世界大戦を経験した者は誰でも知っている・・・・・・・・・・・“戦女神”だ。
国籍はフランスだが、名前以外は殆ど何も現在でも分からない謎の女性。
そしてハント大尉を二度も助けた恩人で、ハント大尉が生涯懸けて愛して止まない女性であり、ソフィア嬢の祖母に当たる。
「この女性と出会ったのは東部戦線、ですよね?あの地獄と言われた」
東部戦線は歴史に名を残す激戦地であり・・・・・・地獄でもある。
戦場なんて地獄以外の何でもないが、古今東西を含めて東部戦線---即ちロシアの地は忘れる事が出来ない、と在る兵は俺に言ったな。
ハント大尉にインタビューする前だ。
東部戦線はドイツもロシアも・・・・・・計り知れない死人を築いたし、同時に虐殺の繰り返しだ。
それは何処だって同じだが、東部戦線が一際目立つ。
細かい事を省いて結果だけを言うなら、ロシア---旧ソビエト連邦が勝ち、ドイツ第3帝国は敗北した。
そして東西にドイツは引き裂かれて、冷戦へと突入したんだよ。
話を戻すと、その地獄が髑髏の黒騎士と戦女神が出会った場所だ。
どう考えても、ただのフランス人女性が行ける場所じゃない。
だが、俺の調べた限りでも・・・・・・彼女は何処にでも現れた。
それは多くの兵士達が証言しており、その時に撮られたという写真も幾つかあったから本当だろう。
「今、どうして彼女が何処の戦場にも現れたのか、と思ったね?」
ハント大尉が図星を言い、俺は沈黙で答えた。
「あの時代を生きていないから、君は些か理解できないかもしれない。しかし、我々の答えは決まっているよ」
ハント大尉は静かに告げた。
「彼女は本当の戦女神だ。女神は戦いの場に集まり、自然と兵達は女神を慕い、女神の為に戦う。そして戦死すれば・・・・・・女神に誘われてヴァルハラへと行ける」
それは勇敢に戦った者だけだ。
「だからこそ、彼女は何処にでも現れるし、誰でも助けるのだよ。優れた戦士を見つける為に、ね」
「ですが、それは勇敢に戦った者、だけですよね?中には・・・・・・・・」
「ああ、こう言いたいのだね?先ほども答えたが、私達は相手が誰であろうと・・・・・・・・・・・」
『女神に手を出す者は赦さない』
ハント大尉を始め、大戦を経験した老人達は口を揃えて断言した。
「私も彼女に手を出そうとした者を何人か、手に掛けたよ。彼女は誰にも渡さない、という独占欲もあったが、それは戦友達も同じだ」
特に東部戦線では・・・・・戦女神の目撃情報が後を断たなかったらしい。
「故に、皆は嫉妬したのかもしれない。嗚呼、私の所には来ないで、敵の方には来たのか?」
そんな男心も混ざり合い、泥沼化したとハント大尉は笑う。
実際は、そんな理由は無いだろうが、敢えて茶化した。
これから話す事が、それだけハント大尉には辛い事の始まりだからかもしれない。
「では、続きを話そう」
ハント・フォン・ウィルヘルムという老いた黒騎士は静かに、戦女神と出会った事を話し始めた。
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ガソリンなどが後方から届かなくなり始めてから・・・・・・私の予感は的中し始めた。
泥沼と化した地面に戦車の脚---即ちキャタピラーは取られて、上手い具合に進めない。
それだけならマシだ。
ここにガソリンを始め食料も届かないという事も含まれて・・・・・・・弾薬も不足し始めたのだ。
「ハント少尉。上層部から命令です。弾薬は節約しろ、という事です」
嫌な命令が届いたのは・・・・・弾薬が本格的に不足し始めた、と思った時である。
「ちっ・・・・このままだと、また昨夜みたいに襲われるな」
私は煙草を銜えて火を点けながら舌打ちを隠さない。
今では煙草も貴重品と成り果て、一本一本が貴重だが吸わずにはいられなかった。
泥で後方部隊---即ち補給部隊は遥か後方で、我々は前線に取り残された形となっている。
しかし、敵は違う。
この地で長い間、生きて彼のナポレオンでさえ退けた軍だ。
だから・・・・・・・・・・
VORRRRRM!!
嫌なエンジン音が私達の耳に入った。
「ちっ・・・“T-34”が」
私は遥か後方で補給部隊を襲っているであろうT-34を憎悪した。
私達が倒した巨大戦車---ギガントと違い、こちらは中型戦車だ。
しかし、ギガントより速度は速いし、おまけに装甲も工夫が凝らされていた。
“傾斜装甲”を使用している事だ。
この傾斜装甲だが、避弾経始を考慮した結果だ。
私も戦ったが・・・・・・まさか、あれほどの効果があるとは驚きだった。
ギガントは弾を受け止めたりしていたが、T-34は傾斜装甲の部分に当たると、弾が跳ね返ったのだ。
逆に彼奴が撃つ弾は・・・・我々の装甲を撃ち抜く。
それでも腕は私達が上だから、何とか勝利したり、追い払う事は出来た。
弾がある内は、だ。
ここに来て弾を補充しろ、と命令された。
何を意味するのか?
「・・・全員、万が一の時は白兵戦の準備をしておけ」
ギリギリまで煙草を吸い、地面に捨て私は隊員に告げた。
「少尉、いっその事、あいつ等の戦車でモスクワにでも行きますか?」
バイアンが戦車にあったMP40を弄りながら、私に言ってくる。
どんな時でも冗談を言う。
ドイツ人には珍しい奴で、こんな言葉も笑いとなる。
「はははははは。良いな。奴等の戦車で、奴等の地域を落とす。良い案だ」
半分は本気で考えた。
T-34は実に良い戦車だ。
捕獲した者も居り、試しに見てみたが・・・・・実に良い。
粗い所はあるが、それでも威力はあるし、装甲も硬い。
おまけに不整地帯でも走るのが魅力的である。
しかし、それよりも・・・・・・・・・
「ガソリンではなくディーゼルを使う点が良い。そうすれば、ガソリンがライターに早変わりだ」
我々の戦車はガソリンだが、T-34はディーゼルで燃え難い。
これも忘れてはいけない。
「たくっ。バイアンは陽気で良いぜ。それもパリジャンヌから、教えられた事か?」
仲間の一人が言えば、皆で彼を詰った。
どんな時でも冗談を言い、皆を和ませる。
彼を失ってはならない、と思う。
それは彼の恋人を戦地へ連れて行った、という上官である負い目もある。
しかし、戦いとは非情だ。
私にも言える言葉だ・・・・・・この先で、私は一人の女性と出会い、二人の女性を不幸にするのだから。
そして・・・・・・・・・・・・




