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第一章:老兵の独白

次から作戦開始です。

何時も通りの日々を過ごしていた時に思わぬ客人が現れた。


「お久しぶりです。ハント大尉」


大ドイツ帝国時代の階級で呼び、現れたのは日本人ジャーナリスト。


名は篝火を意味するブレイズだ。


ベルトランと猟犬の知り合いで、この若さで芯がシッカリした男である。


「この老い先短い私に何かね?」


ジャーナリストの彼が来た、という事は何かある、と私は勘づく。


「非常に恐縮なんですが、貴方の従軍話を聞かせてもらえませんか?」


「ウォルターの伝記を書いた・・・つまり、上司から頼まれたね?」


第二次大戦の伝記を書け、と・・・・・・


「おっしゃる通り。で、前回がイギリスだったので」


「次は我が大ドイツ帝国を書く訳、か」


如何にも編集社らしいな・・・・・・・


いや、これも時代の流れか。


歴史は勝利者が書き記す権利がある。


しかし、最近では敗者の歴史も記されるのだ。


程度は知れているが、それでも・・・・・・良い方向へ変わっているな。


「所で、私以外の者から聞かないのかい?」


「それなんですが、色々と聞きました。で、貴方が生きていると知るなり・・・・・貴方を皆して薦めるんです」


彼が生きているのなら、今の内に聞きなさい。


少なくとも彼ほど数奇な人生を歩んでいる者は居ないだろう。


同時に・・・・・彼が最後の騎士だ。


ドイツを護る偉大な髑髏の黒騎士は・・・・・・・・・・・


「髑髏の黒騎士か・・・・我々、戦車兵を表しているね」


「やはり。まぁ、素人の中にはSS---武装親衛隊を連想する者も居ますが」


「SSか・・・・ある意味では彼等も純粋な愛国者、と言えなくもない。全員が冷酷非情な人物ではない。それは知っているね?」


「勿論です。で、話を戻しますと・・・・貴方の初陣は東部戦線。初期の作戦---バルバロッサ作戦に参加し、それから北アフリカ戦線、そして再び東部戦線に戻り、最後にベルリン攻防戦に参加した」


良いですか、とブレイズは尋ね私は頷く。


「あぁ、そうだね。君等から言わせれば、私は・・・・・・・・・・・」


歴史の証人、とブレイズは答えを告げる。


「しかも、貴方は国防軍の精鋭中の精鋭---グローズ・ドイチュラント師団に所属していたエリートにして、戦車エースでしたよね?」


「私は自分のスコアを数えていない。だから、エースか確約できないな」


戦場という極限状態の場で、自分がどれだけ敵戦車を撃破したのか覚えていない。


何より、そんな英雄みたいな真似は軍人に必要ないのだ。


命令された任務---敵を殲滅しろ、と言われたらやるだけだ。


手柄争いなど下らん身内争いを産むだけだ。


「仰る通りです。ですが、ある程度の推測は出来る筈、と思いますが?」


私の気持ちを理解しつつも、彼は食い下がった。


「ふむ、確かに・・・場所が場所だけに100だったかなね?対戦車砲---PAKは70かな?」


少なくとも100の戦車は撃破した、と古い頭の図書館を開けて思い出した。


「貴方の戦果は私の調べた限り戦車130、PAK120です。これは貴方と共に戦った戦友たちの証言でもあります」


「そうか。では、エースかな?」


それだけ破壊すれば・・・・・・


「私も戦友達も思います。何より・・・・“ミハエル・ヴィットマン”と“エルンスト・バルクマン”と知り合いなのですよね?」


嗚呼・・・・ミハエルとバルクマン、か。


「あぁ、そうだったね。酒場で知り合った時は突撃砲の車長だった。バルクマンの方は親衛隊軍曹の時だったよ」


「片やプロシア軍人で歴史ある貴族の貴方と、農家の息子であるヴィットマンとバルクマン。どういう関係だったのですか?」


「そうだな・・・・良き戦友にして、良き兄弟だった、という所かな」


バルクマンとは西ドイツに住んでいたから、よく互いに連絡を取り合ったものだ。


「というと、何か共通する事でも?」


「いや、そういうのは無い。しかし・・・・何故かな?彼等とは不思議と馬が合ったのだよ」


その彼等も死んだ・・・・そして歴史に名を残して、多くの戦友達と共にヴァルハラに居る事だろう。


私は名も残せず、ただ生きている。


ここが違う点、だろうな。


「・・・・お話、して頂けるでしょうか?」


「ここまで話したんだ。するさ・・・・・しかし、ウォルターと同じく冒険みたいな事はない。ただ、一つだけ言えるのは・・・・・彼がアフリカの星と交わした約束が実らなかったように・・・・・・・・」


私の誓約も実らず、恋も実らなかった。


「君が書くのは戦女神に恋して、図らずも成就せず老いた憐れな老騎士の独り善がりな悲恋物さ」


それでも良いのか?


「構いません。お願いですから、話して下さい」


「分かった・・・・では、話すとしよう」


私は静かに彼に対して、我が戦歴を話し始めた。

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俺は自分の戦歴---正確に言えば、生い立ちを話し始めた老人を見た。


ハント・フォン・ウィルヘルム。


ドイツ第3帝国---大ドイツ帝国の国防陸軍に所属していた大尉で、WWⅡが終結して東西にドイツが別れた後は西ドイツの軍人となった。


最終階級は大佐で、その後は貿易社を設立して一財産を築いた身である。


そして、ベルトラン兄貴の妻でもあるソフィアさんの祖母---マルグリット・ヴェスパさんの生涯を追い掛けた人物だ。


マルグリット・ヴェスパ・・・・・俺なりに調べたが、殆ど判らなかった。


一言で言うなら「霞であり霧」みたいな人物だな。


殆どの足取りが不明で、経歴なども殆ど判らない。


何処の生まれか、などは図書館や市役所に行き、出生届などを調べれば判る。


だが、生憎とWWⅡという時代で、しかも、敗戦国となったフランスでは無理だった。


殆どの資料が消えており、目ぼしい物も発見できなかったんだが、ハント氏は調べ上げた。


一体、どうやって・・・・・何て聞くのは野暮だな。


恋は盲目で、ハント氏は当時の時代を生き抜いた歴史の証人。


そしてプロシア貴族の末裔でもある。


伝手もあれば、自分の記憶などもあるんだ。


調べようと思えば幾らでも調べられるだろう・・・・・・・


そこ等辺を途中で尋ねると・・・・・・・


「指摘通りさ。彼女に助けられた時から、私は彼女に恋をしていたんだ」


「恋は盲目、と言いますが貴方も例外ではありませんでしたか」


ハント氏は微苦笑した。


「恋に例外はない。そして私以外の者も恋をした。そして報われる事はなかった」


演劇でも王道と言える悲恋物語。


結末は悲恋---即ち恋は実らない。


多くの男性が女神に恋して、報われずに土へ還った。


だが、違う点がある。


「少なくとも貴方は・・・・・マルグリットさんと何度も会っていますよね?」


いや、違うな。


ゴダール大佐、ウォルター中佐、モーガン執事長を含めた4人は・・・・・・・・・・


「あぁ、会ったね。特に私は一度だけ、彼女とダンスを踊った」


「何と・・・・私は彼女と諜報活動をしたが、ただの一度も女の姿を見てないぞ」


ウォルター中佐が言えば、他の2人も同じだった。


「美しかったよ・・・・黒のドレスを着て、髪を頭で纏め上げ宝石を最小限だけ身に付けた彼女の姿は」


『・・・・・・・・・・』


3人は年甲斐もなく嫉妬していた。


しかし、幼子が抱くような可愛らしい嫉妬である。


「話が逸れたね。では、そろそろ戦歴---ドイツ崩壊までの話をしようか?」


「あ、お願いします」


俺はテープ・レコーダーのスイッチを押した。


そしてハント大佐---大ドイツ帝国の戦車兵であるハント・フォン・ウィルヘルムは話し始めた。


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