ナニカ
いつもお読みいただきありがとうございます。
暗闇に閉じ込められた3人の少年たち。怪奇現象が収まり、安堵したのも束の間——彼らが目にしたのは、最初から「そこにはいなかったはずの存在」でした。
日常が静かに壊れていく不気味さと、画面の向こうに潜む悪意。ラスト1行まで目を離せない、じわじわと迫る恐怖をお楽しみいただければ幸いです。
それでは、本編へどうぞ。
「ナニカがやって来る……。」
とだけ言い残し、彼はこの世を去った。
「ナニカ」とは何だ?残された彼の友人3人は、「ナニカ」の真相を探る為、集結した。
後日、拓海の部屋に集まった僕たちは、彼の遺品であるスマートフォンの録音データを取り出した。
最期の瞬間の音声ファイルを再生する。
『ナニカがやって来る……』
ノイズ交じりの声がスピーカーから流れた直後、健斗が顔色を変えて言った。
「なあ……拓海。お前、今再生ボタン押したか?」
拓海の手は机の上に置かれたままだった。画面は真っ暗なままだ。
では、いま聞こえた声はどこから出た?
その時、僕たち3人のポケットの中で、同時に着信音が鳴り響いた。画面に表示された発信元の名前は、死んだはずの「彼」だった。
恐怖で震える手で応答ボタンを押すと、耳元で掠れた声が囁いた。
『ナニカはもう、お前たちの後ろにいるよ』
振り返ると、部屋の扉が静かに、ゆっくりと開き始めていた。
暗闇の中で静まり返る扉の隙間から、ぬらりと光る異様な黒い影が這い出してきた。
「おい、冗談だろ……?」
健斗が引きつった声を漏らす。拓海は腰を抜かしたまま固まり、僕はスマホを握りしめた手すらせずに立ち尽くしていた。
その時、僕の耳元でスマホからプツリと音がして、ノイズが止んだ。代わりに、僕たちのすぐ真後——部屋の天井付近から、歪んだ声が降ってきた。
『みーつけた』
僕たちが首を上へ跳ね上げた瞬間、真っ黒な「ナニカ」が勢いよく落ちてきた。
悲鳴を上げる間もなく、影が視界を塗りつぶした。
ドスン、と重い衝撃が床を揺らし、部屋の明かりが一瞬で吹き飛ぶ。完全な闇の中、僕の頬を冷たく湿った風が撫でた。
「逃げろ!」
誰かの叫び声を合図に、僕らは闇雲にドアへと飛びついた。しかし、さっきまで開いていたはずの扉は、まるで壁と同化したかのようにビクともしない。
取っ手をガタガタと鳴らす僕のすぐ後ろで、ヌチャリ……と肉が蠢くような音が聞こえた。
『逃がさないよ』
その声は、死んだ彼の声ではなく、幾重にも重なった見知らぬ人間の怨嗟の声だった。冷たい手のようなものが、僕の足首を勢いよく掴み上げる。
「うわあああッ!」
引きずり込まれる闇の奥で、拓海のスマホの画面が突如として青白く発光した。そこに浮かび上がっていたのは、生前の彼が残した、見たこともない「ファイル名」だった。
その画面に浮かび上がっていたのは、**『たすけて』**という文字でも、呪いの言葉でもなかった。
『お前たちの中に、もう混ざっている』
それがファイル名だった。
次の瞬間、僕の足首を掴んでいた冷たい手が、力なく離れた。
部屋を支配していた異様な気配が、一瞬で霧散する。カチリと音を立てて明かりが戻り、扉もあっけなく開いた。
足元にはただの黒いモップが転がっており、天井にも影ひとつない。
「助かった……のか?」
健斗が荒い息を吐きながら立ち上がる。拓海も腰を抜かしたまま、安堵の笑みを浮かべた。
「脅かしやがって……なんだよ、アイツのタチの悪い悪戯か……」
僕も胸を撫で下ろし、スマホの画面を消そうとした。
しかし、ふと違和感を覚えて足を止める。
さっきまで、部屋には拓海、健斗、僕の「3人」しかいなかったはずだ。
だが今、僕のすぐ隣で、見知らぬ男が拓海の肩を優しく抱きしめながら、死んだ彼と同じ声で囁いていた。
「よかった、みんな無事で」
男と目が合った瞬間、そいつは口元を耳元まで釣り上げ、静かにウインクしてみせた。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
日常のすぐ隣にある不気味さや、画面越しの悪意を感じていただけたでしょうか。3人の少年たちが直面した「違和感」の正体について、少しでもゾクッとする余韻が残っていれば嬉しいです。
また次の作品でお会いしましょう。
あき




