第2話
「ああ、真白。またそんな姿になって……」
重厚なマホガニーのデスク越しに、お父様が深く、深くため息をついた。
彼の視線の先には、ボルドーのコートを血でドロドロに汚し、あちこちから硝煙の匂いを漂わせた私。
「ごめんなさい、お父様。でも、ポルシェは無傷よ? ほら、外でピカピカに光ってるわ」
私はわざと可愛らしく首を傾げてみせるけれど、私の体は文字通り「ズタボロ」だ。ブラウスの隙間からは、さっき受けた銃弾の穴が痛々しく——私にとっては誇らしく——開いている。
お父様は、私のこの異常な「飢え」を知っている。
銃弾に貫かれることでしか得られない悦び。自らの命を削りながら戦場を舞う、私の壊れた本性を。
「……お前のその飢えを止められないのは、私の弱さだな」
お父様は苦渋に満ちた表情で、一通の黒い封筒をデスクに置いた。それが私にとっての「ご褒美(餌)」であることを、彼は嫌というほど理解している。
「北の港を占拠した連中だ。重武装の傭兵団を雇っている。……まともな人間が行けば、生きては戻れん地獄だぞ」
その言葉を聞いた瞬間、私の背筋にゾクゾクとした熱い震えが走った。
傭兵。重武装。地獄。なんて素敵な響き。
「お父様、大好き」
私は駆け寄り、血で汚れた手でお父様の頬を撫でようとして、思い直して止めた。彼は悲しそうに、でもどこか私を頼りにするような、複雑な眼差しで私を見つめる。
「真白。……死ぬなとは言わん。だが、あまり私を絶望させるな」
「大丈夫。またボロボロになって、最高に可愛い姿で帰ってくるわ」
私は黒い封筒を奪い取ると、ダンスを踊るような足取りで部屋を後にした。
雨上がりの路地で待っている、サクラ色のポルシェ356。
エンジンの咆哮は、私の心臓の鼓動と同じくらい高鳴っている。
「さあ、行こう。今度はいくつの『穴』を開けてもらえるかしら」
ピンクの閃光が、夜の帳へと溶け込んでいった。




