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子爵家の四女として生まれたキーラ。元家族はとんでもない人たちでした。  作者: 春風由実


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5.はじめまして、元家族の皆さま。 キーラ編


 キーラはウェーバー侯爵邸の長い廊下を進んでいた。

 隣にはエスコートと称したローレンスが付き添い、その右手はしかと握り締められている。



「お義兄さまは、もうお会いしたのよね?」



「あぁ、先に挨拶だけは済ませてきた。今は父上たちが話しているよ」



 それからキーラは前を向いて歩き続けた。


 その間ローレンスが気遣わしい視線を送り続けてきたが、気付いても、キーラの瞳はこれを受け止めなかった。


 ついにローレンスから声が掛かる。



「義務はないから。無理に会わなくていい」



「いいえ、お会いするわ」



 キーラはローレンスがわざとゆっくり歩いていることにも気付いていたが、自分でも急ぐことはしなかった。


 義兄妹がそれぞれに想いを抱えそうしていても、それでもいつかは目的地に辿り着く。


 やがて応接室の前で、二人の歩みは止まった。



「具合が悪くなったらすぐに言うのだよ?嫌になってもだ。私も一緒に部屋を出るからね」



「そんなに心配しなくて大丈夫よ、お義兄さま。身体も元気だわ。あまり待たせても悪いから、早く入りましょう?」



 仕方ないと頷いたローレンスが、扉前に控えた護衛騎士に合図をすれば。

 護衛の騎士が扉を叩いて、室内にキーラたちが来たことを告げた。


 間もなく扉が開いて、キーラが見たもの、それはウェーバー侯爵夫妻の姿である。


 二人はキーラを迎えるためにと、わざわざ立ち上がって応接室の入口まで来てくれたから、キーラは室内の様子をすぐに確認出来ない。



 早く会いたいような。

 まだ会いたくないような。


 キーラがこのときまで抱えていた複雑な気持ちは、ローレンスと同じようなことを告げキーラを心配する義両親を見ているうちに解消された。


 だからいつもと変わらない笑顔、変わらない声でキーラは言えたはずである。



「私は大丈夫ですわ。お義父さま、お義母さま、お義兄さま。お客さまにお会いさせてくださいます?」



 静かに頷き合ったウェーバー侯爵夫妻がキーラたちを案内するよう室内に戻っていくと、やっとキーラの視界が開けた。


 表情に出てしまったか。

 手をぎゅっと掴まれて、キーラは慌ててローレンスに笑みを向けると、小さな声で説明した。



「大丈夫よ、お義兄さま。少し驚いただけ」



 キーラは相手が一人か、多くても二人だろうと考えていたのだ。

 それがまさか……六人も顔が並んでいるだなんて。



「皆さま、お忙しいだろうに、わざわざお揃いで来てくれたんだ。さぁ、キーラ。紹介するから入っておいで。彼らがエンデベルク子爵家の皆さまだよ」



 義父であるウェーバー侯爵の言葉を受けて、キーラはローレンスと並び室内に入った。

 そしてソファーの横に立つと、迷わずにこう言った。



「はじめまして。ウェーバー侯爵家の長女、キーラと申します」



 その言葉に、お揃いの顔で嗤ったのはキーラの家族。


 客たちは座ったまま、しばらく動かなかった。



 優雅に頭を下げたのち、顔を上げてもまた続く沈黙に、キーラが首を傾げると。

 やっと客のうち、中年の男から声が掛かった。



「キーラなのか?」



「えぇ。キーラ・ウェーバーですわ。どうぞ良しなにお付き合いくださいませ」



 また続く静寂。



 挨拶を間違えたかと不安に思ったキーラが、ローレンスの横顔を確認すると。

 ローレンスからは優しい笑みが返ってきて、キーラは心から安堵した。


 会ってみれば、こんなものかと感じて。

 これからも何も変わらないのだと、キーラは思えた。




読んでくださいましてありがとうございます♡

素晴らしいクリスマスを♡

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