14.元弟さまも、とんでもない方でした。 ローレンス編
この国の貴族は子が五歳、十歳、十五歳のタイミングで、王家の監査を受け入れる。
ところがエンデベルク子爵家は、キーラが保護されたときの監査を最後にして、以来一度も監査は受け入れていなかった。
それは子が多いという理由で王家から免除されたわけではないし、エンデベルク子爵側が断ったというわけでもない。
実はキーラが保護されたときの監査で、前回監査時の指摘事項への対応が一切手付かずだったことが判明している。
それどころか、領地には他にも問題点が増えていた。書類の不備不足も前回よりも目立った。
領地も見られない。
子育ても真面に出来ない。
呼び出しにも応じない。
『エンデベルク子爵は領主として貴族として強い懸念あり』
そう評した王家は、エンデベルク子爵領に多くの人材を送り込んだ。
つまり近年は、実質王家がエンデベルク子爵領を運営している状態だった。
これが監査の無かった理由である。
エンデベルク子爵は、反省するどころか、この王家の対応を不服に思ってきたということだ。
王家は担当官を通して、当主夫妻には告げたはずである。
『イーガン子爵家の裁定は、四女キーラが成人する日と定める。これは猶予である』
◇◆◇
エンデベルク子爵家の者たちが口々にキーラを責めた。
私はとても信じられなかったし、両親も同じ想いでいることだろう。
二度と口を利けないように。
それは私だけの決断ではなかったはずだ。
王家が選んだ者たちによく教育されてきたはずの嫡男も、結局はエンデベルク子爵夫妻と似たように育ってしまっている。
教育を担当した者たちが、嫡男と家族を引き離さなかったことは、大きな要因だろう。
この子は当時赤ん坊だ。何も悪くないのに、可哀想に。とでも同情したか。
親から引き離すよう命じておけば……本家の血は守られたかもしれなかったな?
血統を重んじる王家も、判断を誤ったようである。
さぁて、こいつらをどうしてくれようか。
具体案は次々浮かんだ。
楽しいくらいに想像は膨らんだ。
すると冷静に今すぐすべきことを思い出せた。
私としたことが、思考を怒りに支配されていたことにも気付けずにいたのである。
まずはキーラだ。
キーラを部屋から連れ出して、今日のことは忘れてくれるよう甘やかして。
その間はこれらは地下室に──。
不意に鈴のような可憐な声を聴く。
「皆さまは、私に何をお望みなのでしょう?」
あろうことか、このときからしばらく、私は我を忘れてしまった。
今度は怒りによるものではない。
凛としたその横顔に私の心は奪われた。
キーラの想いを汲んで、私は立ち止まった。
キーラはあえて聞いたのだ。
キーラは優しいね。
本当に誰よりも優しくて、とても可愛くて……だからいつも心配なのだよ?
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