11.元お姉さまたちも、とんでもない方々でした。 キーラ編
義兄ローレンスが優しくもぐいぐいと手を引いているけれど。
キーラは立ち止まって、声がした方を眺めた。
若い女性が三人、同じソファーに並び座っている。
しかしキーラには、姉だろうと予測がついても、彼女たちがどの姉かの判別は付かなかった。
「あなただけ素敵なお兄さまがいて羨ましいわ。私たちにも紹介してちょうだい?」
一人の女性が言った。
たった今聞いた声とは違っていたから、先ほどキーラに待てと言ったのは、この女性ではないようだ。
「そうよ。それにあなたのお兄さまなら、私たちのお兄さまにもなるわ。挨拶をさせてちょうだい?」
これもまた、待てと言った女性とは違う声だった。
するともう一人が、退室しようとするキーラを止める発言をした女性なのだろう。
キーラは彼女たちに少しは似ているかしら?という思いで、ローレンスを見上げたが。
ローレンスは優しく微笑むばかりで、何も伝わっていないことを悟る。
「お姉さまたちは弟でしょう?彼の方が年下よ?」
「あなたも彼よりひとつ上でしょう?」
「ひとつくらいは変わらないわよ。お姉さまたちとは違うの」
「嫌ね。あなたはすぐ私たちを年上扱いして。あの子のお兄さまなんだから、全員のお兄さまでいいでしょう?」
養子先で妹に兄が出来たら、元の家族にとっても兄?
そんな理屈があるだろうか。
キーラは教わったことのない話に首を傾げていたが、彼女たちのお喋りが止まらず、疑問を重ねていくことになった。
「お姉さまたちこそ嫌だわ。私と結婚しても彼は弟よ?年齢を自覚してちょうだい」
「まぁ、結婚するのがあなたとは限らないでしょう?」
「お姉さまたちでは年上過ぎるわ。私で決まりよ」
「あら?最近は年上女房というのが流行っているのよ?その方が夫婦仲良く暮らせるのですって。知らないの?」
勝手にお喋りを続ける三人娘が、貴族家の令嬢として教育を受けてきたキーラにはとても信じられなかった。
おかげで姉たちにも何の想いも抱けず、安堵したキーラはローレンスを見上げ頷く。
もう出ましょう、という合図だ。
そこにちょうど、義父ウェーバー侯爵から二人に声が掛かった。
「発表前に無関係の者たちに告げたくはないのだがね。煩わしいことこの上ない。良いな?」
キーラが先に頷いたことを確認してから、ローレンスは言った。
「それなら私が自分で言います。いいよね、キーラ?」
「えぇ、隠すことではありませんし構いませんわ。いずれは知られることですもの」
ローレンスがぎゅっと握りしめた手を、キーラは笑顔で握り返した。
するとローレンスの頬が一度すっかり緩んだが、ローレンスは厳しい顔付きを作ると、エンデベルク子爵家の者たちを見て言った。
「私はまもなくキーラと結婚します。キーラは一度この家から籍を抜きますが、親類の家の養女となりますので、エンデベルク子爵家とは変わらず無関係のままです。したがって結婚後も、我々にはエンデベルク子爵家と交流する気はありません」
ローレンスはきっぱりと言い切ったが、最後まで真面に聞けていたかどうか。
「結婚だと!」
「結婚ですって!」
エンデベルク子爵夫妻の驚きの声に、三人娘の声も重なった。
「嘘よ!」
「そんな!」
「酷いわ!」
驚くにしても、最後の酷いという言葉はなんだろうか?とキーラはまた首を傾げる。
その間もエンデベルク子爵家は話し続けた。
「親に相談もなく結婚を決めたというのか?」
「あなた、予定が狂うわよ。止めないと」
「さすがに兄妹での結婚はどうなのかしら?」
「お兄さまと呼んでいる方と結婚なんて気持ちが悪くてよ」
「酷いわ。酷い裏切りだわ!」
義両親、義兄から冷ややかな視線を受けようと、一向にお喋りを止めようとしないエンデベルク子爵家の者たちを眺めて。
親がこうだから、娘たちもこうなのだと、キーラは感じ取った。
子どもにとっては、常に側にいる存在、育ての親の方が大事なのかもしれない。
これは将来の参考になっているかしら?
今日会うことにした目的を思い出して、キーラは考える。
そのうち、三人娘が怒り出した。
「何よ何よ、私だって保護されたかったわ!あの子ばかり幸せで狡い!」
「そうよ。保護されていたのが私だったら、私がそこにいたはずなのに!」
「まぁ、あなたたち。あまり騒いではいけないわ。まだ分からないわよ?」
「え?」
「え?」
「え?」
二人の娘の声のあと、キーラも続いて声が出た。そうすると、確かに姉妹のようだ。
「女性と交流されてこなかったと聞いているわ。側にいたその子しか知らないのでしょう?ねぇ、妹のお兄さま。私たちとも仲良くしてみませんこと?妹が気に入ったのですもの、私たちを知ればもっと良く思うかもしれなくてよ?」
驚いたキーラがローレンスの手をぎゅうっと握り締めれば、ローレンスは蕩ける笑みを見せ、空いた手でキーラの頬を撫でていく。
きゃあっと重なる声がしたが、ローレンスはそちらを見なかった。
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