表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

冬の風鈴

 寝床から顔を出すと窓の外はすっかり暗くなっていた。白いカーテンは帆を張っては萎むのを繰り返し、カーテンレールには金魚と水草の描かれた風鈴が下がりっぱなしで風を受けている。軽やかで心地よい音が気に入り、蚊一匹寄ってこないこの季節になっても仕舞わないままだった。

 

 講義が終わると私は真っ直ぐ家路についた。帰宅後、眼鏡を外し衣類を脱いでシャワーを浴びる。髪を乾かす間に冷えた体を幾重に重ねた毛布の下に滑り込ませて眠りについた。外見(そとみ)(ぜつ)の触れ合う音で目が覚めると、窓を閉め忘れていたことに気が付いた。もう二十回は空気が入れ替わったことだろう。空は朝から分厚い雲に覆われていて緩んだゴムのように締まらない一日だった。


 机上には鞄が置かれ、それ以外は一人用炊飯器がキッチンのIHの上にあるのが影の濃淡で把握できた。ベッド脇の読書灯も手探りで差し込み口を探す所から始めなければならないと思うと、億劫になり諦める。

 鞄らしき影から手探りで焼き芋を取り出す。同時に携帯電話を取り出すとぼんやり光が灯る。図書館から返却メールと友人からの通知、それ以外にニ三件メールが入っているようだっだが、今は見ないことにする。電話は音楽プレーヤーとして読書灯の隣に置いた。


 勉強机を前に冷たくなった焼き芋を食べる。腰掛けた正面の開いた窓から月は見えないが、雲はいなくなっていた。時折吹く風と向かいの森の葉擦れ、ピアノ、風鈴がこの部屋の音の全てで、一つ一つの音が繊細で心地よかった。


 喉が渇いたので水を取りに芋虫のようにベッドの上を這う。手の温まらない内は布団から出たくなかったが、シングルベッドの淵は案外近かったらしく腕から落ちた。毛布が緩衝材になっているものの肘から手首まで痺れた。鈍痛に悶えていると俄かに部屋が明るくなった。


 椅子に手を掛け窓の外を覗き込むと空には闇夜を駆ける幾千もの白い線があった。次々と現れては潜水し、姿を消す滝登る魚の群れのようだった。頭を床に付けたまま眺める。光が落ちて壁に模様がついていく。時折、吊られた風鈴が鳴った。ふと、連絡をくれた理学部の友人を思い出す。今夜流星群が見えるらしいと楽しそうに話す彼女の目が流れ星に重なって見えた。連絡しようかとも思ったが、画面も眼鏡のレンズも通さない自分の肉眼で捉える朧げな流星群は他に目移りすることを許さなかった。

 

だんだん数は減り、部屋はまた暗闇に溶けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ