乗合…馬車じゃない!?魔動力車!?
希望を胸に近づいた建物は、思った通り、乗合馬車の停留所だった。街道沿いに配置されたその建物は、簡素な造りながらも、屋根の下には数人の旅人が腰を下ろして待っている。木製の看板には、不思議な文字で何かが書かれているが、神様スキルのおかげで「王都行き 乗合馬車」と読めた。
(よかった、本当にあったんだ。)
安堵のため息をつきながら、私は停留所のそばに立った。すると、待っていた旅人たちが、珍しそうに私を見つめてくる。やはり、エルフはこの世界では珍しい存在なのだろうか。
「おや、珍しいお方だね。エルフの旅行者かい?」
気さくな笑顔の、恰幅の良い男性が話しかけてきた。
「はい、王都へ向かっています。」
私も短く返事をした。すると、その男性は興味深そうに目を輝かせた。
「王都へ一人旅とは、大胆だね。もしよかったら、私と一緒に旅するのはどうだい?顔見知りがいれば、何かと心強いだろう。」
親切な申し出に感謝しつつ、私は彼の提案を受け入れることにした。その男性の名前はゴルドと言い、王都で商売をしているらしい。たくさんの荷物を持っていた。
ゴルドと話しているうちに、やがて一台の大きな乗り物が、停留所の前に止まった。それは、私が想像していたような馬車ではなかった。車輪は四対あり、木製の車体はとても大きい。そして、前に馬の姿はない。
「さあさあ、王都へ行くなら乗りな!」
乗り物の中から、陽気な声の運転手が顔を出した。私は、一体どうやってこの大きな乗り物が動いているのか不思議に思い、小さな声でゴルドに尋ねた。
「あれは…馬がいないようですが、どうやって動くんですか?」
「ああ、あれかい?あれは『魔導力車』って言うんだ。もう今じゃあ、場所によっては馬よりも便利で速いんだよ。」
魔導力車…?魔法で動く車ってこと?
前のほうをよく見ると、奇妙な紋様が刻まれた金属らしき球体が浮かんでいるのが見えた。そこから、かすかに青白い光が漏れ出ている。
(魔法…本当にこの世界には魔法が存在するんだ。)
信じられない思いで魔導力車を見つめていると、運転手が再び声をかけた。
「おーい、乗るのか乗らないのか、早くしてくれよ!」
その声に急かされるように私は魔導力車の中に足を踏み入れた。木製の座席に腰を下ろすと、柔らかい揺れが伝わってきた。
私の向かい側に座った旅人たちは、それが当たり前のように会話をしている。私だけが、まるで見たこともない不思議な光景を目の当たりにした子供のように、目を丸くしていた。
(ここには、私の想像を遥かに超える技術があるんだ…!)
魔法がこの世界の人々の生活に濃密にに溶け込んでいることを悟り、私の心は、新たな驚きと、そして前にも増して強い好奇心で満たされた。王都には、一体どんなものが待ち受けているのだろうか。魔動力車は、王都に向けて快調に走り始めた。




