旅立ち
バルドさんの王都行きを勧める言葉を受け入れた翌日から、エルム村は活気に満ちていた。私が王都で必要になるであろう物資を、村人たちがそれぞれの持ち場で用意してくれたのだ。
「カリーナさん、これは旅の途中で食べるといい。日持ちするように干してあるんだ。」
と、いつも畑仕事で顔を合わせるおばあさんが、丁寧に干し肉を包んで渡してくれた。
「お嬢ちゃん、もし宿に困ったら、これを宿屋の親父さんに見せるといい。顔が利くかもしれないからな。」
と、腕の良い木こりのおじいさんが、手彫りの小さな木札をくれた。
不器用ながらも一生懸命に裁縫をしてくれた若いお母さんからは、新しい旅衣を受け取った。エルフの私に合うように、動きやすくて丈夫な生地を選んでくれたらしい。
バルドさんは、王都までの道のりや、気をつけるべきことなどを丁寧に教えてくれた。アストリア王国の地理や歴史、主要な都市の名前、そして王都の様子など、私が少しでも不安にならないように、時間をかけて話してくれた。
「王都は、エルム村とは比べ物にならないほど大きな街だ。色々な人がいる。親切な人もいれば、そうでない人もいるだろう。用心深く行動するんだよ。」
バルドさんの言葉は、温かく、そして少し寂しそうだった。一ヶ月という短い間だったけれど、この穏やかな村での生活は、私にとってかけがえのないものになっていた。
旅立つ日の朝、村人たちは村の入り口に集まって、私を見送ってくれた。みんな、笑顔で手を振ってくれる。中には、涙ぐんでいる人もいた。
「カリーナさん、どうかお気をつけて!」
「困ったことがあったら、いつでも手紙を送ってきてくださいね!」
「王都で、あなたの夢が叶うよう、心から祈っています!」
たくさんの温かい言葉をかけてもらい、私の胸は熱くなった。この村の人たちの優しさは、私がこの異世界で初めて触れた、希望の光だった。
バルドさんが、そっと私の肩に手を置いた。
「カリーナ、お前さんなら大丈夫だ。自分の信じる道を、まっすぐに進むんだ。」
私は、バルドさんの言葉をしっかりと胸に刻み込んだ。そして、村人たち一人ひとりに深く頭を下げ、エルム村を後にした。振り返ると、小さな村が、朝日に照らされて金色に輝いていた。
(みんな、ありがとう。私はきっと、この世界で鉄道を走らせてみせる。そして、いつか必ず、このエルム村に、その列車を走らせるんだ。)
新たな決意を胸に、私はアストリア王国の王都を目指して、歩き始めた。