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決意

バルドさん。何かありましたか?」


息を切らしながらそう尋ねると、バルドさんは静かに頷き、私を自分の小屋へと招き入れた。小屋の中は、いつもと同じように暖かく、ハーブの優しい香りが漂っている。私たちは、囲炉裏のそばに腰を下ろした。


「カリーナ…お前さんがこの村に来て、もう一月になるんだね。」


バルドさんは、しみじみとした声でそう言った。


「はい。皆さんに良くしていただいて、本当に感謝しています。」


私が頭を下げると、バルドさんは優しく手を振った。


「お前さんの働きぶりを見ていると、そう言ってもらえるのは当然だと思うよ。本当に、よくやってくれている。」


そう言って、バルドさんは少しの間、言葉を探すように黙り込んだ。そして、意を決したように、ゆっくりと口を開いた。


「カリーナ…実はお前さんをこの村に受け入れたのには、理由があるんだ。」


私は、ドキリとした。やはり、ただの偶然ではなかったのか。警戒の色を隠せない私に、バルドさんは穏やかな眼差しを向けた。


「驚かないで聞いておくれ。お前さんが倒れていたあの日…実は、私は夢を見たんだ。」


「夢…ですか?」


「ああ。それはとても不思議な夢でな…眩い光の中に、荘厳な姿をしたお方が現れたんだ。」


誰なのだろうか。


「そのお方は、私にこう告げられた。『遠い異界より来たる者を受け入れ、導け。その者は、この地に新たな光をもたらすだろう』とな。」


バルドさんの言葉に、私は息を呑んだ。まさか、私がこの世界に来たのは、神託によるものだったというのか。


「最初は、まさかお前さんのことだとは思わなかった。だが、お前さんの話を聞き、その瞳の奥にある強い光を見た時、あの夢のお方が言っていたのは、きっとお前さんのことだと確信したんだ。」


バルドさんの言葉は、重く、そして温かい。私がこの世界で生きていく意味のようなものが、少しだけ見えた気がした。


「バルドさん…。」


胸がいっぱいで、言葉が見つからない。


「カリーナ。お前さんは、このアストリア王国に、新しい光をもたらす使命を背負っているのかもしれない。この小さなエルム村で、お前さんの持つ力を埋もれさせてしまうのは、もったいない。」


バルドさんは、まっすぐ私の目を見て言った。


「私は、お前さんに王都へ行ってほしい。」


「王都へ…ですか?」


予期せぬ言葉に、私は戸惑いを隠せない。


「ああ。王都には、この国の中枢が集まっている。お前さんの持つ知識や情熱を伝えるならば、そこが一番良いだろう。もちろん、危険も伴うかもしれない。それでも…お前さんなら、きっと何かを成し遂げられると信じている。」


バルドさんの言葉は、私の心に深く突き刺さった。鉄道をこの世界に走らせたいという私の夢は、こんな小さな村に留まっているだけでは、決して実現しないだろう。


「…分かりました。私、王都へ行きます。」


私の言葉に、バルドさんは寂しそうに、だけども満足そうに頷いた。


「そうか。よく決心してくれた。旅の準備には、少し時間がかかるだろう。村の者たちにも話しておこう。皆、きっとお前さんのことを応援してくれるはずだ。最後に、名前をもう一度聞かせてもらえるかな?」


「カリーナ…カリーナ=ルミナです。」


「やはり間違いではなかったようですぞ。()()()()。」


「何か言いました?」


「あ、いやいや、何もいっとらんぞ。それよりも、王都でよく頑張れよ。」


バルドさんの温かい言葉に、私は勇気づけられた。異世界に来てから、初めて明確な目標ができた気がする。不安がないわけではないけれど、それよりも、これから始まるであろう新たな挑戦への期待の方が大きかった。


(アストリア王国の王都…。どんな場所なんだろう。そこで、私は一体何ができるんだろうか…。)


エルム村での穏やかな生活に別れを告げ、私は新たな一歩を踏み出す決意をした。バルドさんの言葉と、まだ見ぬ未来への希望を抱いて。

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