初めての出会い(後編)
男たちの警戒した視線が痛いほど突き刺さる。彼らが手にしているのは、錆び付いた剣や先の尖った槍。まさか、異世界に来て早々、こんな状況になるとは思ってもいなかった。友好的な出会いを期待していたのに…。
(やっぱり、見慣れない人は警戒されるよね。どうしよう、何か話さなきゃ…。)
前世の経験から、まずは敵意がないことを示すのが肝心だ。ゆっくりと両手を上げ、手のひらを彼らに見せる。
「あ、あの…わ、私は、その…旅人です。道に迷ってしまって…。」
精一杯、落ち着いた声を出そうとしたけれど、喉がカラカラで、声が震えてしまった。男たちは作業を止め、まだ疑いの目を向けている。
「旅人だと?こんなところで、一人でか?」
リーダーらしき髭面の男が、低い声で問い詰めてきた。その目は獲物を定めるように鋭く、私の言葉を簡単には信じそうにない。
「は、はい…。気が付いたら、ここに立っていて…。」
自分がどうやってここに来たかなんて、話したところで信じてもらえるわけがない。あまりにも突拍子もない話だ。言葉に詰まってしまう。
「気が付いたら、だと?ふざけたことを言うな!」
顔に大きな傷のある男が、声を荒げた。手に持った槍の先が、威嚇するようにチラッと動く。思わず体が強張った。
(やっぱり、怪しまれてる…。どうすれば信じてもらえるんだろう?)
前世でゼネコンで培った知識も、鉄道への熱い想いも、こんな状況では全く役に立たない。
その時、小屋の中から、杖をついた老人がゆっくりと姿を現した。男たちは、その老人に気づくと、恭しく頭を下げた。
「どうしたんだ、騒がしいぞ。」
老人の声は穏やかだけど、その奥には全てを見透かすような鋭さがある。老人は私を一瞥し、髭面の男に問いかけた。
「この娘は?」
「村の外れの草原で、見慣れないエルフを見つけました。旅人だと言っていますが…。」
髭面の男は、警戒を緩めることなく答えた。老人はゆっくりと私に近づき、その深い瞳でじっと見つめてくる。
「お前さん、どこから来たんだい?」
老人の問いかけに、私は正直に答えることにした。
「わ、私は…遠いところから、来たのだと思います。気が付いたら、ここにいました。自分のことも、まだよく分からなくて…。」
嘘は言っていない。本当に、自分が何者なのか、なぜここにいるのか、まだ何も分かっていないのだ。老人は私の目をじっと見つめ、長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「そうか…。まあ、いいだろう。」
老人の言葉に、男たちは信じられないといった表情を浮かべた。
「長老、よろしいのですか?見慣れないエルフですよ。」
髭面の男がそう言うと、老人は静かに首を横に振った。
「この娘の目には、悪意がない。それに…どこか、悲しみを湛えているようにも見える。」
老人は再び私に向き直り、優しい声で言った。
「お嬢さん、もし行き場がないのなら、しばらくこの村で身を寄せるといい。もちろん、無理強いはしないよ。」
まさか、こんな申し出があるなんて。警戒されていたはずなのに、この老人は私を受け入れてくれるっていうの?
「ほ、本当に、よろしいんですか…?」
「ああ。ただし、村の皆に迷惑をかけるようなことはしないでくれよ。」
老人の言葉に、私は何度も頭を下げた。
「ありがとうございます!ご迷惑はかけません。精一杯、お手伝いさせていただきます!」
こうして、私のこの世界での初めての出会いは、波乱の幕を閉じた。
私の心には、まだ多くの疑問と、これからどうなってしまうのだろうという大きな不安が渦巻いている。それでも、いつか必ず、この世界に鉄道を走らせてみせるんだ、という小さな決意を、そっと胸に抱いたのだった。