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匣庭高校オルタナティ部  作者: 水本グミ
004 オルタナティ部
16/50

第16話

 小学四年生の時、くだらない理由のいじめがあった。名前がら行で始まる子とは遊ばないというものだった。

 私の名前はるるなので、ターゲットになった。それまで普通に話していた子も、私のことを避けた。


 もっとも、このいじめは本来私に向けられたものではなく、藤谷(ふじたに)ららちゃん、松橋(まつはし)凛音(りんね)ちゃんを排除するために女子の間で始まったものだと知っていた。

 そもそも私は首謀者の子と、ほぼ(しゃべ)ったこともなかった。私のことなど眼中になかっただろう。もし私がれれや、ろろだったとしても、やはり同じ結果になっていたに違いない。


 私は自分の名前をそんなに好んではいないが、フルネームは好きだ。童子山(どうじやま)といういかつい名字が、るるという甘めの名前を中和させている。もし将来結婚することがあっても、改姓したくないと思う。


 ら行とはいえ三番目、完全に巻き込まれた形の私だったが、正直いじめに関してあまり気にしていなかった。心底くだらないと思っていたからだ。


 せっかくだからと私は机の上にジュニア小説を積み上げ、読書キャラに転じることにした。当時の私は眼鏡を掛け始めたばかりで、都合のいいキャラ変だった。

 本を読むようになったら成績も上がるのではないかと(ひそ)かに思ったが、それはなかった。


 そんな感じで見事教室内で孤立した私だったが、例外的に一人、そんな状況の私に積極的に話しかけてくるようになった子がいた。

 それが瀬加(せか)一図(ひとえ)、ひとちゃんだ。


 ひとちゃんは当時、男女混合のグループにいて、そこから抜け出しては私の席にまでやって来て、「変なシールを見つけた」とか「面白い猫の描き方を発明した」とか、どうでもいいこと話して去っていくようになった。


 繰り返し行われる一方的なひとちゃんの語りに、私もだんだんと期待して待つようになっていく。少しずつ(うなず)いたり、関西人らしくツッコミを入れたりしていくうちに仲良くなった。


 やがてひとちゃんと一緒に新田(しんでん)物朗(ものろう)、物朗きゅん…………………………物朗くんが…………………………やってしまった……。


 ……そう、私は物朗くんのことを、誰にも聞かれない心の中で物朗きゅんと呼んでいる。絶対に何があろうと本人にだけは知られたくない。

 もし私の心を読める超能力者がいたら、どうかこのことは口外しないで欲しい。


 物朗きゅんに対して、特段恋情を寄せているとか、そういうことではない。心の中でそう呼ぶようになったきっかけも、もう覚えてもいない他愛もないことだ。

 だからどうか後生だから誰にも言わないでください。お願いします。


 とにかく私たち三人は、もう長い付き合い離れることなくここまで来ている。ひとちゃんも物朗きゅんも二人とも家が近所だし、学校外でも仲良くしている。

 転移者という特殊な立場になってしまったが、三人一緒ならばなんでも乗り越えられる気がする。


     ☆★☆★☆


「強制参加ではないからな? 決してパワハラではないからな? パワーでハラスメントはしていないからな?」


 私とひとちゃんでがらくたをダンボール箱に箱詰めし、それを物朗きゅんが運んでいる中、市島(いちじま)姫姫(きき)先輩が言った。


 放課後、八木(やぎ)先輩と日吉(ひよし)先輩も加わった先輩たちに呼び出された私たち三人は、生徒会室引っ越しの渦中にいた。


 扉の横に積み上げられたダンボール箱を見ながら、この前物朗きゅんの家で遊んだ引っ越しのゲームみたいに、荷物をぽんぽん投げられたらいいのに、なんて考える。

 だいたい、このがらくたの物量はなんだ。おおよそ生徒会の備品とは思えない、用途さえわからない物品の数々が出てくるわ出てくるわ。


「先輩、この荷物どこに運ぶんですか?」


 重そうなダンボール箱を抱えたまま、物朗きゅんが言った。


「部室に運ぶんだよ」


 『あんたが主役』と書かれたたすきを着け、安っぽい三つ編みのカツラを被った市島先輩が返した。

 どちらもがらくたの中にあったものだが、先輩のツインテールと三つ編みが重なって、髪型がごちゃごちゃして見ているだけで鬱陶しい。


「部室? 新しい生徒会室に移動するんじゃないんですか?」

「新しい生徒会室?」


 市島先輩と八木先輩が、ぽかんと顔を見合わせる。(つか)の間の静寂の後、八木先輩が口を開いた。


「もしかして、わたしたちが生徒会のメンバーだと本気で思ってたの?」


 いつも生徒会室にいる市島先輩たちを、私はてっきり生徒会役員か何かだと思っていた。時々生徒会長みたいな偉そうな物言いをしていたし。特に市島先輩。


「この学校には生徒会がないから、勝手にここを使わせてもらってたんだけど、怒られちゃってさ。とりあえず移動場所を確保できたから、そちらに引っ越すんだよ」


 市島先輩が言う。

 生徒会がない? どういう意味だろう。


「生徒会がないって、どういう意味ですか?」


 私が思ったのと同じことを、物朗きゅんが尋ねてくれた。物朗きゅんのこういうところが好きだ。

 いや、好きって言ってもそういう意味ではなくて。そういう深い意味ではなくて。今言おうと思っていたことを、物朗きゅんは高い頻度で先に言ってくれる。そこに相性の良さを感じているという、ただそれだけのことだ。

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