番外編〜カー君をさがせ!〜
ぼくは夏休みになると、よくおばあちゃんの家にあずけられた。ぼくは4つうえの姉さんとちがって、かあさんがよういしたごはんを食べず、ほうっておくとカップめんとか、おかしばかり食べてしまうからだ。
それなのに、ぼくはおばあちゃんの作るさんさいご飯はよく食べた。だっておばあちゃんが、
「このお山でそだったものを食べると、てんぐさまの力をもらえるよ」
っていうから。
おばあちゃんの家のうらには大きなお山かあった。ぼくはよくお山であそんだ。でも、お山であそぶときは決まりがあった。
①くらくなる前にかえる
②山のものはもちかえらない
③とりいの先にはいかない
①はくらくなると、まいごになってしまうからだ。
②はよくわからない。だっておばあちゃんはさんさいをとってきているもの。
③はもっとわからない。だってとりいの先をのぞいても、どこまで見ても、いつものお山のふうけいにかわりないもの。
今日もぼくはお山であそんだ。トンボをおいかけて、うさぎを見つけて、小さな花を見つけた。
はっと気がつくと、いつのまにかとりいの前だ。今日はなんだかざわざわするぞ。足もとで小さく、カサカサいう音。びっくりして見ると、小さなとりのひなだった。くろいはねにつぶらなひとみ。
からすの子かな。おかあさんがいないのかな?
ぼくはかわいそうになってその子をつれてかえった。ぼくがねとまりしているへやに、しんぶんしで小さな巣をつくっていれた。
「きみのなまえは『カー君』だ」
ぼくはなづけて、たいせつにそだてることにした。
そのはずだった。
つぎの日にはおばあちゃんにバレてしまった。おばあちゃんはいつもぼくをおこしにきてくれる。それでバレた。
「山のものはもちかえらないやくそくだよ」
おばあちゃんはそういって、なきわめくぼくをしかって、カー君をつれていってしまった。
ぼくのカー君。ぼくのカー君。たいせつにするってきめたのに。
おちこむぼくにおばあちゃんはやきとうもろこしをつくってくれた。でも、ぼくがほしいのはとうもろこしじゃない。カー君なんだ。
何日かして、ぼくはカーくんをさがしに行くことにした。カーくんの足に、友だちのしるしとして、みどり色のひもを巻いたから、きっと会えばわかるはず。今日おばあちゃんは村のあつまりでるすだ。
きっと大丈夫。見つかる。いや、見つける!
ぼくはとりいの前まで山みちをのぼった。きっとおばあちゃんはカー君をここにもどしたはずだ。この先は行ったことがない。だって行かないやくそくだったから。でも、ぼくは友だちをたすけるんだ。わるいことじゃない。これは、ぼくの夏のだいぼうけんなんだ!
いっぽ、とりいの中にふみ出すと、きゅうにざわざわしてきた。夏なのにひやあせがながれた。
あ、れ??
ぼくはこわくなった。でも、カー君をみつけるってきめた。ぼくはひっしでカー君をよんでさがした。あちこちやぶをかき分けたり、木にのぼってさがしたりした。
ひと休みしようと、きりかぶにこしかけようとしたら、
「ぼうず、なにしてるぅぅ」
ひとつめの大男がぼくをのぞきこんできた。
「ひぃいぃ」
ぼくはぜんそくりょくでにげた。大男がとおってこられないようなひくいやぶをくぐってにげた。しだいに足おとはとおくなる。
いきを切らしてひらけたばしょに出ると、しらがのおばあさんがいた。
「いま、ばけものがいて、たすけてください」
おばあさんがふりかえった。手にはなた、あたまにはつのがはえていた。にまにまわらっている。
やまうばだ!!
ぼくはひきかえそうとした。しかし、うしろにはすでに大男のけはいがあった。
いちかばちか。ぼくはちかくのしげみにもぐりこんでいきをひそめた。
大男とやまうばははち合わせたようだった。
「うまそうなぼうずがにげてこなかったか?」大男は言った。
「にげてきた、にげてきた。うまそうなこぞうだったなぁ。ありゃ、あたしんだ」ぎろりとやまうばは大男をにらんだ。
「おれにかてるかぁ?」大男はめきめきとゆびをならす。
「なめてもらっちゃぁ、こまるのぅ」やまうばはふてきにわらった。
ふたりはむきあった。やまうばは、なたをポイとすてた。大男はぶきをもっていないからだ。ばけものたちにもスポーツマンシップがあるようだった。
そこからはすごかった。ふたりはすもうのようにくみあって、おしたり、おしかえしたり。わざをかけようとしたり、かわしたり。ごかくだった。はくねつするしょうぶに、ぼくはこうふんした。
「いいぞー!おせおせやまうば!大男もふんばれ!!」ぼくはいつのまにかしげみからかおを出しておうえんしていた。
ふたりがこちらをみた。
しまった。ぼくはあおくなった。
「みいぃつけたぁぁ」
おそろしいえみでふたりがとびかかってきた。もうだめだ。そうおもったら、
「ばかだなぁ」
こどものこえがして、ぼくのからだはちゅうにうかんだ。あっというまにじめんがとおくなり、ぼくはお山の木を見下ろしていた。ぼくのせなかをつかんでとんでいるなにかを見た。かおは子どものようだが、どうも目はにんげんのものではないようだ。くろい大きなつばさがはえていて、やまぶしのようなかっこうだ。のぞきこむと、ゲタをはいた右足くびには見おぼえのある、みどりのひもがあった。
「もしかして、カー君なの?」ぼくはきいた。
「ちがうけど、そんななまえできみはよんでたね。ぼくがなにかわかる?」こんどはカーくんがしつもんした。
「からすてんぐ!」ぼくはこたえた。だって、すがたが、おばあちゃんがよんでくれた昔ばなしの本のままだもの。
「せーかい。ぼくはね、アニキたちに早く1人前だとみとめてもらうために、ひなにばけてだましたんだよ。」カーくんはにやにやしていた。
でも、ぼくはそんなかおが気にならないくらいかんどうしていた。おばあちゃんはお山にはてんぐがいるっていってたけど本当だったんだ!すごいぞ!
「それじゃ、ぼくをだませたから、カー君は1人前なんだね!!ぼく、はじめてからすてんぐに会ったよ!それに、こんなふうに空をとぶのもはじめてだ!カー君すごいよ!ホントすごいや!!」
ぼくがほめちぎると、カー君はきゅうにモジモジしだした。先ほどまでぐんぐんたかくとんでいたのに、ゆっくりと下におりていった。
きがつくといつものとりいの前だった。あたりはくらくなりはじめていた。カー君はぼくをおろすと、うつむいていた。
「ぼく、こんなにほめてもらえたことなかったんだ。」カー君はいった。
「ぼく、本当はきみをお山の上の1本すぎのてっぺんにひっかけてやろうとおもってたんだ」カー君はつづけた。
「そうだったの?じゃ、なんでかえしてくれたの?」ぼくはきいた。
「はずかしくなったんだ。おなじこどもをだまして、いたずらして、1人前だっていうのが。きみがいっぱいほめてくれたからはずかしくなったんだ。」カー君はまだモジモジしていた。
「でも、やっぱりぼくはカー君がすごいとおもうよ。だって、まよわずここまでつれてきてくれたし、とぶのもすごくはやいんだね。」ぼくはにっとわらった。
「つきすけだよ。」
ぼくはえっ?とききかえす。
「ぼくのなまえはつきすけだ。なぁ、いたずらしようとしてごめんな。よかったら友だちになってよ。」
からすてんぐとお友だちに!!ぼくはまいあがりそうなくらいうれしかった。
「いいよ!いいよ!ぼくはけんみだよ。よろしくね!」
ぼくたちはわらいあってバイバイした。
おばあちゃんの家にかえったぼくは、おばあちゃんとかおをあわせるなりおこられた。とりいの先にいったのがばれた。こんなにおこられることははじめてだった。ぼくはかなしくてないた。なきやまないぼくにおばあちゃんはおしえてくれた。
①くらくなるまえにかえらないといけないのは、お山にはばけものがいて、とりいのそとまで出てくるんだよ。
②山のものをもちかえってはいけないのは、それがばけものがだいじにしているものかもしれないからだよ。ばあちゃんはお山のみこだから見分けがつくんだ。
③とりいの先にいってはならないのは、そちらがわはばけもののせかいだからだよ。とりいの先にいけば、ひるまでもばけものが出るんだよ。
「おまえがぶじにかえってきてよかった。」
こんどはおばあちゃんがおいおいないた。
ぼくはとてもはんせいした。だから何日かはお山にはいかなかった。でも、もう夏休みもおわってしまうから、ぼくはつきすけに会いに出かけた。
とりいの前にいくと、ゆかたすがたの子どもがまっていた。
「けんみ、やっときた!」つきすけはわらった。
「きょうはにんげんの子どものすがたなんだね」ぼくがいうと、
「にんげんとあそぶからね」と、つきすけはわらった。
それから、つきすけとおいかけっこしたり、かくれんぼしたりしてあそんだ。つきすけはお山のしょくぶつにもくわしくて、たべられる木のみなどをたくさんおしえてくれた。
たくさんあそんでおわかれのじかん。ぼくはあしたにはじぶんの家にかえるのだとつたえた。つきすけはとてもさびしそうだった。つきすけはゴソゴソとなにかを出した。すずのたくさんついたがっきのようだった。
「これ、このあいだのおわび。」
「なにこれ?」
「てんぐのまもりすずだよ。子どものてんぐがこまったときにならすと、おとながたすけてくれるんだよ。でも、ぼくはこれをつかわずに1人前になる。だからこれはけんみがもってて。」
「にんげんのぼくがならしても、おとなのてんぐはたすけてくれないんじゃない。」ぼくはきいた。
「だいじょうぶ。けんみがこれをならしたときはぼくがぜったいにたすけるよ。」つきすけがいった。
「えぇ!ありがとう。だいじにするね。」ぼくはとってもうれしかった。ぼくはつきすけと、またぜったいに会おうとやくそくした。
つぎの日、ぼくはぼくの家にかえった。だいじにだいじにすずをかかえて。
これが、ぼくのなつのぼうけんだった。きっと、どこにでもある、よくあるはなしだ。