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2.友人をなくした俺は日めくりカレンダーに励まされる

俺は憔悴していた。

今しがた友人を目の前でなくしたのだ。

友の名は優理。突然家までついてきて世話を焼き始め、俺を健康に導いた恩人。本当にいい奴だった。


夜のニュースでは、クリスマスツリーを見ようと道路に飛び出した少女がトラックにひかれそうになり、間一髪で助かったと報道された。


優理のことなど少しも報道されない。当然だ。トラックにひかれる寸前か直後か、消えてしまったのだから。


あの事故で彼の存在を証明するのは、事故にあった少女の「お兄さんが代わりにひかれた」との証言だけだ。

報道では事故のショックによる記憶違いだろうと結論づけられた。違う、確かに優理は少女を救ったのだ。


結局その日は料理も食べずに眠った。どうにも起きる気にもなれず、気がつけば翌日の夕方だった。


ふと、部屋で何かが光っていることに気がつく。窓辺の多肉植物だ。小さな電飾がタイマーで点灯したようだ。優理の仕業だ。窓辺の日めくりカレンダーが目に入る。人気ドラマ「お助け、福山係長」のカレンダーだ。 

12月25日:まずは食せよ

おっさんが白米をかき込む写真。急に空腹に気がつく。続けて、今日の日付は…

12月26日:客人は大事に

おっさんの作り笑いの写真。なんなんだよ。


ピンポーン。ハッとする。勢いよくドアを開ける。鈍い音の後、舌打ちが聞こえ、姉の(かずら)が額をさすって顔を見せた。

「痛ぇよ」


「母ちゃんが心配してたぞ。電話したのに全然出ないって。大晦日には実家に帰るのか?」

言いながら葛は部屋の様子を見て驚く。

「健美、彼女できたの?部屋、綺麗じゃん」

葛は何度か家に来ていて、元の惨状も知っている。

「ん、別れたか?」

俺の憔悴した顔を見て言う。


友達だよとだけ言って、

「夕飯食う?」と聞く。

「え、いいの?」と葛。


優理が作った料理を準備する。ローストチキンにサラダ。優理の定番野菜スープにドリアだ。

「うまいね」葛は喜んで食べていた。昨日の夜から食べてない分、俺もがっついた。少し落ち着いて、ポツポツ優理の話をした。

葛は食べながら黙って聞いた。


「でもさ、死体が無かったってことは生きてるんじゃない?」ケーキにフォークを刺しながら、葛は言った。

「今確かなのは、優理君がいたことと、事故のあとに消えたこと。死んだ事実はない。」

そうだろ?と葛は豪快にイチゴを頬張る。


はっと顔をあげる。多分俺はこの言葉を聞きたかった。2人で後片付けをしたあと、葛は帰っていった。


翌朝。もう大丈夫。きっと優理は生きている。俺は福山係長のカレンダーをめくった。


27日:信じて進め

朝日を背に歩み出すおっさんの写真。


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