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ウィード  作者: 山木 拓
2/22

1-2


 拠点に戻ると、すでに多くの仲間が待っていた。「遅かったな」同僚のホセが最初に声をかけてきた。「ついにお前がやられたのかと思ったぞ」軽口を続けた。「ああ、命かながら、なんとか生き延びた」「その割に傷一つないな」「精神攻撃で、殺されかけたんだ」「そんな魔物いないだろ」ホセは笑いながらウィードの肩をたたいた。「そこ、うるさいぞ」二人を上司のメテオ隊長が咎めた。

「さて、今日も駆除を無事に終えたわけだが、各人報告しろ」

 「ホセ、下等6匹、中等1匹です」「リンド、下等4匹、中等0匹です」順番に数を伝えた。ウィードはその間自分の持ち帰った耳の数を確認していた。袋の中に入れたまま目で数えるのは難しく、2回ほど数え直していた。途中、報告が止まった。「次は誰だ。おい、次は誰なんだ」メテオ隊長が荒々しく声を上げると、自分の番が来ている事にやっと気が付いた。「ウィード、下等13匹、中等0匹です」おお、と周囲が声を漏らした。メテオ隊長も感心しながら、「お前が中等0匹とは珍しいが、まあ中等を見かけない日もあるからな」と少しだけフォローを入れていた。そして再び沈黙になった。「またか、次はだれだ」今日ウィードが助けた新入りが俯いていた。「0、です。ブレオ、0です」絞り出すような声だった。メテオ隊長の目の色が変わった。

「ゼロ、ゼロだって。ありえないぞ。いくら新人だからって、そんな情けないことがあるか。訓練を積んできたんだろう。よく合格がもらえたな」

 「あーあ、やっちゃった。いつものパターンだ」ホセは他人事のようにその場を眺めていた。「申し訳ございません」新入りは再び声を絞り出して謝罪したが、メテオ隊長は止まらなかった。

「いいか、俺たちはこれで給料をもらっているんだ。国民の税金をもらっているんだぞ。お前はそれをなんとも思わないのか。お前が何も成し遂げずに金をもらっていると知ったら、国民たちはどう思う。しかもお前がもらう給料は、今日結果を残した先輩たちとさほど変わらないんだぞ。つまりお前は先輩たちの給料泥棒だ」

 過去誰かが失敗した時と同じような内容で怒鳴っていた。ウィードはこうなる事が分かっていた。だからこそ、隣の新人に言った。「ちゃんと耳の数はちゃんと確認したのか」「いえ、そもそもゼロですので」

「おい、何をこそこそ喋っている、給料泥棒のくせに」

 メテオ隊長は間を置いて声量を落とした。ウィードはため息をつきながら手をあげた。

「隊長、申し訳ございません。この新人の耳袋をあらためてもよろしいでしょうか」

「まあ、いいだろう。お前の頼みであればな」

 新人から耳袋を取り上げ、ひっくり返して中身を落とした。そこには、ウィードが先ほど自分で落とした羊の魔物の耳があった。

「この羊の魔物は、彼自身の手によって、彼が弱らせました。しかしとどめの際、偶然近くで活動していた私が止めを刺してしまったのです。そのため彼は私に手柄を譲るためこの中等の魔物を自分の駆除数として数えなかったのです。本来彼の手柄であったものを私は横取りするつもりはございません。であれば、彼の今日の結果は中等1匹という事になるのではないでしょうか」

 メテオ隊長はこの話を黙ってきいていた。「そうだな、お前の言う通りだ」険しい表情が、とたんに柔らかくなった。

「ブレオ、お前の今日の駆除数は中等1匹だ。新人がこのような結果を残すのは素晴らしい事だ。次も期待しているぞ」

 その後全員が報告を終え、解散となった。その場から動けなくなっていたブレオに、ホセとウィードは声をかけた。「隊長って怖いよな。俺も時々アレをくらっちまうよ。キツイ人だよな。新人なんだからもうちょっと手加減してやってもいいのに」ホセは頭の後ろで手を組んでいた。「ただ隊長は間違ってはいない。俺たちは国を守るためにやっているんだ、いつまでも新人じゃいられないぞ」ウィードは片膝をついて、子供をあやすように話していた。「まあ、そういう事だ」立ち上がって、ブレオに背中を向けた。

「あの、さっきはありがとうございました」

 「さて、何のことだ」二人は自分の宿に帰っていった。


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