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汝、暗君を愛せよ  作者: 本条謙太郞
第1部「自由への道」 第1章 サンテネリ王国の無能王
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無能な王と国家

税について話をしよう。

辛い話だ。身を切るような辛さ。

手の傷がいい感じで癒えてきたのに、心の傷を開くようなことをしよう。


日本に生きたぼくは二つの立場で税を払ってきた。個人と法人。

個人としては所得税と消費税、固定資産税、相続税。法人としては法人税と消費税、固定資産税、その他諸々。どっちも税理士や財務系の部署に任せていたから細かいことはよく分からないけどね。

細目は置いておいて、ざっくりと直接税と間接税を払ってきたわけだ。


サンテネリでもこの形は変わらない。

直接税は収穫税と財産税。収穫税は生産した農作物の10分の1を領主に治めるという、税の最も古い形。財産税は家屋と土地、そして家畜にかかる。

間接税は、酒、たばこ、塩、国内関税、国外関税、葡萄、印刷物などなど、長いリストがある。ほぼ全ての商品にかかる消費税は存在しない。


まぁここまではいいよ。

ここからが頭が痛くなるところなんだ。

まず、王国は直轄行政区と地方行政区に分かれている。直轄行政区は国が代官を派遣して運営を行っている。ただし、実際の徴税業務はその地方の有力者に委任契約がなされている。で、地方行政区にはその区独自の税制がある。国は、割り当てた税額を地方行政区から一括で納付してもらう。

地方行政区ってなんだって? ガイユールとかアキアヌのことだよ! つまり、実質権力を保持した大領の支配者がいる地域。国の中の国だね。さっき言った間接税のところに「国内関税」ってあるでしょ? 国の中の「国」だから、ものの移動に関税がかかるというね。

で、この地方行政区も実のあるものと形骸化したものがある。形骸化したものというのも分かりづらいよね。ぼくもよく分からない。形式的には地方行政区なんだけど、直轄行政区と同様の税制が敷かれている地域。有名なところでは、サンテネリ王国軍の実質的保持者デルロワズ公領とかかな。他にも小規模なところは色々ある。

で、この二つの地域にそれぞれ直接税と間接税が存在する。


直接税はさ、何となくイメージしやすいよね。農民が収穫物を馬車にのっけて役所に納める、みたいな。実際は金納だけど、まぁ分かる。

間接税がやっかいなんです。例えば現代日本の消費税。定価100円(税抜)のものは110円(税込)になってるよね。消費税10円。これは一旦それを売った会社がもらって、後で会社が個人の代わりに国に納入する。厳密には後じゃなくて先払いだったり、その考え方も色々あるみたいだけど、取りあえず物を売った会社が個人の代わりに支払うことだけ分かればいい。


で、サンテネリでもそれをやるのかというと、そんなマンパワーはありません。帳簿も精密じゃないし領収書も全てそろっているわけじゃない。一つ一つの会社、あるいは個人がいくら売ったか把握し、監査するシステムもマンパワーも国にはない。だからざっくり「このくらいだろ」と国が決めて徴収する。誰に?

徴税請負人の皆さんです。

この人達が「このくらいだろ」の額を一括で支払ってくれます。代わりに彼らに「実際の徴収権」をプレゼントします。あ、あと、国の無茶振りをときには引き受けてくれるので、彼らには直接税・間接税の免税特権をプレゼント。

気前いいと思う? でも実はそうでもなくてね。彼ら請負人の皆さん、徴税代行権を持っているわけでしょ? それはつまり安定した巨額の収入があるということ。だから、その代行権を担保として債券を発行するわけだ。利息を付けて。それを小金持ちの皆さんが買う。お金が集まる。膨大な金が。

で、その膨大な金を国に貸してくれる。利子付きでね。

要するに個人が発行する国債? あ、国も発行してます。でも負債がやばすぎてこっちは売れません。投機銘柄です。

じゃあ、この徴税請負人の皆さんってどういう人たちなんだろうね。すごいお金持ちだよね。

ガイユールとかアキアヌだよ! もちろん他にもたくさんいるよ。平民達の中にもいる。でも、でかいのはそういう大貴族なんだ。







聞いていると頭が痛くなってくる。税金を取り立てるシステムってやばいね。現代日本でもだいぶわけ分からないのに、サンテネリに至ってはもう。何次受まであるんだってくらい請負の請負みたいになってて、それぞれに期限付きの契約書が結ばれてる。

無理。


で、大まかに大まかに言えば、とにかく一本化したいんだ。国の中の国をなくして全国統一税制を打ち立てる。同時に徴税請負人のお仕事を国家の一部に組み込みたい。徴税請負制度ってつまり、税の中抜きだからね。それをなくすことが出来れば税収はすごい増える。


これ、どうすれば出来ると思う?

シンプルな解決策があるよ。

国の中の「国」である独立行政区を滅ぼします。軍事力で。

できるかな?

無理だよ。

完全な内乱だからね。中央大陸列強オールスターズ、全方位からの介入を招く。

さらに、王国軍の主体はデルロワズ公家だって話したけど、兵の全てがそうなわけじゃないし、将校達にもガイユールやアキアヌ、その他大領に領地を持つ貴族は多い。軍も割れます。近衛軍? 規模が小さすぎて無理。


奇跡的に他国の介入を招くことなく軍も分裂せず滅ぼせたとしよう。そうすると徴税請負部門が消滅することになる。土地を得たところで何にもならない。そこから収益があがらなきゃ。これまで二次受け三次受けをやってくれた地方の名士の皆さんが動いてくれるだろうか。難しいね。次にやられるのは自分たちだって分かるでしょ。


だからゆっくりゆっくり進めて、気がついたら! って状況にしなきゃいけない。

その第一歩がガイユール公領との「国内関税」の撤廃。

流通を阻害する税金を取っ払うことで商売を大きくしよう。そうすれば税の上がりも大きくなる。国にもガイユールにも。

もちろん理論的な話に過ぎない。ガイユール公領側からすれば、今確定して得られているものをあえて手放し冒険する必要もない。何よりも、それは公領の独立性のひび割れ、最初の一筋だ。


ぼくはゾフィさんの「後見」と引き換えにそれを求めて、ガイユール公はそれを飲んだ。あ、トップ会談で電撃決定とかそういう話ではありません。もっと前から実務者会議を繰り返してきたので。

実施も明日から即というわけじゃない。()()()()()()辺りに実施される。







国の中の「国」をなくし、国債を()()で発行する利害関係者の皆さんをどうにかする。国家がその役割を代わりに担う。

これは一つのゴールだ。


それを達成するためには、サンテネリが「国家」にならなければならない。

なぜ国の中に国が存在するのか。それはサンテネリが一つの王国として認知される一方で、超巨大な”ルロワ大公領”としても認識されている状態だからだろう。


現代日本を知るぼくから見ると、サンテネリ王国はとても歪な組織に感じられる。だって、国家のトップである家宰はその名の通り「ルロワ家の使用人頭」だし、軍は数百年前からの盟友にして親族デルロワズ家のほぼ独占領域。内務や外務はまだマシだけど、それにしたって一部の家の持ち回り。近衛はバロワ家。比較的開かれているのは財務監くらいのもの。多かれ少なかれ国家の重要機構は全部ルロワ家とその親族、家臣団の「家職」なんだ。代々。財務が緩いのは成立が比較的遅かったからかもしれないね。恐らく初期は家宰の領域だったんだろう。


世襲とかそんな生やさしいものじゃない。国家はルロワ家の拡大形なんだ。

で、ルロワ家の象徴は王。つまりぼくだ。だからぼくを害することはルロワ家を害することであり、国家を害することに繋がる。


一方で、国家の政策決定がどうなされるか。それも話しておこう。

政策は全て御前会議で決定がなされる。各部門の中で案が作成され、諸卿の会議を経てぼくに上奏され、ぼくが勅命を発する。

勅命は貴族会という名の組織に送られて承認を受け、成立する。

最後のところね。貴族会。

要するにルロワ家以外の貴族達の集会なんだ。ここで承認を得るというプロセスは、サンテネリが諸侯の集合体であるというその成り立ちを物語っている。

ちなみにほぼ形骸化しています。

だって陸軍卿デルロワズ家や家宰フロイスブル家、近衛軍バロワ家のような「こっち側」の家も貴族なので。貴族会に形式的に名を連ねる大量の家は今ではほとんど「こっち側」に取り込まれてしまった。


ただ、取り込まれていない家ももちろんある。それが「国の中の国」として残っている。


サンテネリ王国の領域とルロワ大公領(およびその配下)が完全に一致しているならばそれで問題はない。ガイユールやアキアヌが独立王国でサンテネリとは別の国なのであればそれも問題ない。分かりやすい。

でも現実は、ガイユールもアキアヌもかなりいい感じでサンテネリ王国に融合しつつ、一方で封建諸侯としての実体を維持し続けている。アキアヌとか酷いよね。あそこ完全な王家連枝なんだけどな。元々独立していた地域に落下傘方式でトップだけ送り込んでも上手くいかない最高の実例です。


やりたいことはつまり、独立系の皆さんにもサンテネリを「我が国」と心から思って欲しい。そういうことなんだ。ほら、銀行とかでよくあるでしょ。合併した後も旧○○銀行組と旧△△銀行組が争ってるやつ。昔の所属を捨てられない。

ガイユールやアキアヌさんにとって、サンテネリ王国は未だにどこかしら、昔しのぎを削ったルロワ公領なんだよね。この意識を変えたい。


取締役会のポストを弄るしかないね。ガイユール銀行やアキアヌ銀行出身者にもちゃんと入ってもらう。そして旧ルロワ銀行の色を薄める。


そして「我らがサンテネリ王国」を作りあげる。

ルロワ大公国を壊して、サンテネリ王国として再生する。貴族も平民もサンテネリ王国の民となる。

その結節点として王が機能する。


最近ぼくは、こういう話を家宰や他の皆さんとしている。求められているビジョンへの返答として。

皆超優秀な人たちだから心の底では分かってる。だけどサンテネリ王国は長い歴史の上に現在の形になったんだ。家同士の因縁も根深い。

推進するには勇気がいる。ガイユールだってアキアヌだって他の大領だって分かっているはずなんだ。サンテネリが倒れたら自分たちも終わりってことくらい。


みんな分かってるけどやりたくないこと、その背中を押すことしかぼくにはできない。


あ、この方向性が上手くいくとぼくの個人的な目標も達成できます。

ぼくは完全な象徴になれる。

国民統合の象徴。

あれ、どっかで聞いたことあるフレーズだな、これ。







さしあたってゾフィさんには元のお家に住んでもらうことにした。

ガイユール公は「光の宮殿(お手元)に是非」みたいなこと言ってたけどそこは断固拒否。

理由はね。まず、うちに来られても相手をする時間があまり取れない。ブラウネさんやメアリさんは形式上侍女なので接触機会は多いけど、いくら何でもゾフィさんを侍女にするわけにはいかない。王様の一日は朝から晩まで仕事なので、無役ではずっと放置することになってしまう。ならば実家のお屋敷で自由にしてもらった方が全然いい。


次に、これも深刻なんだけど、宮廷費がね、その、ね。

これを言うと「ではガイユールで負担します」と返されること確実なので言わない。体面があるんです。ルロワ家も一応貴族なので。財政難の象徴としてみられてしまう。


最後に、これこそ口が裂けても言えない最大の理由。

14歳は本当に厳しい。

ぼくの肉体年齢は20歳です。それでも中学生と大学生なのでアウトだけど、かろうじてお兄さんと妹的感覚でいけるかもしれない。

で、精神年齢はもっと全然上です。兄妹よりは父娘に近い。かなり後者寄り。見ているとかわいらしいなと思うけど、それはリアルな配偶者候補としてではないんだ。若いアイドルとかをテレビで見て感じるかわいさ。

正直に言うとメアリさんやブラウネさんも結構厳しいよ。社会人っぽい見た目だからまぁ何とかなってるだけで。会社で言えばブラウネさんは新卒、メアリさんは2〜3年目くらいだからね。好いてもらえればそれはうれしい。でも、おっかなびっくりなんだ。ほら、新卒の子と話すのってちょっと緊張するでしょ? あれ。


皆頭がいいし身分差があるから何とか成り立っている関係といえる。

ぼくの心の平穏のためにゾフィさんには少なくとも後6年くらいは待ってもらいたい。でもそこまで待たせると確実にガイユール公(お父さん)の疑心を招くから譲歩を重ねてあと3〜4年。


実際のぼくが心から安らげる年代は20代後半から30代半ばくらいなんだけど、サンテネリでそこまで未婚の人ってほぼ居ない。あと世間的、つまり肉体年齢的に見ればパパ活ならぬママ活に近い形になってしまう。

地味に辛い。


まぁ、仮に理想のご婦人がいたとしても何も出来ないんだけどね。

全てが政治なので。


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― 新着の感想 ―
わかるなぁ。これ正直そう。若い子きつい。中学生ぐらいなんで特に。
おっさん過ぎて面白いけどちょっと辛い もう少し肉体年齢に引っ張られたりしないんだろうか・・・ なろうではくたびれたおっさんがブームなのは分かるけど・・・
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