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第七話「思い出話」(1/3)

 夏祭りに行くことが決まった唯斗たち。人魚姫の謎を知るために、住職の話を聞く必要があった。夏祭りの開催は明後日。その前日、唯斗たちは苗島の家に居た――。

   1.



 夏祭りが明日と迫るその日、指田を除く三人は昼間、苗島の家にお邪魔していた。


「じっちゃん」


 苗島が兵吉じいさんを呼ぶと、縁側から返事をする声が聞こえてくる。


「オレの浴衣ってどこ置いたか知ってる?」

「物置きちゃうか」

「一階?」

「あぁ」

「わかった、ありがとう」


 唯斗とヒメは一階にある居間で座っており、苗島が兵吉じいさんに浴衣のありかを聞くと、すぐに廊下に出て物置きへ向かう。


 二人がお茶を飲んで待っていると、兵吉じいさんが縁側から話しかける。


「唯斗も大けえなったな」

「これでもまだ、一七〇には届かないですよ。でも、確かにそう思います。昔、あんなに兵吉じいさんが大きく感じたのに」

「はっはっは……儂も小さくなるんや、歳をとるとな」

「それでも兵吉じいさん、まだ七〇代ですよね? そりゃ、もう若くはないですけど、それでもまだ現役でできることはありますよ」

「孫や小さい子らに、老人の長話をするくらいなら現役やな」

「それだけ記憶力も衰えてないってことですよ」


 二人が小さく笑い合いながら喋ってるのを不思議そうに見ていたヒメが、二人の付き合いは長いのかと聞いてきた。


「俺と兵吉じいさん? 長いといえば長いんじゃないかな。苗島と関わり始めてそれほど立たずに会ってるし、それからもよく遊んでもらってたし」

「真司が他のやつと遊びに行っとる時も、ここまで足運んでたな」

「家に居ても、あんまり良いことないですから」

「それが今では少のうなった。寂しいことやが、ええことでもある。それこそ、唯斗に女ができるなんてな――」

「それは誤解です!」

「はっはっは……友だちも女や。付き合う付き合わんは関係ない。女との関係は持っとけ」

「はぁ……そういうものですか。というか、それなら指田さんも女性では?」

「指田んとこの娘は、あれは()()()やな」

「保護者……」

「否定もできんやろ」

「……そう、ですね」

「まぁ、指田んとこの娘が助けてるうちはまだ子供や。子供はようけ遊んどけ。大人になれば、嫌でもやることはやらなあかんなる」

「兵吉じいさんも、子供の頃はよく遊んでいたんですか?」


 ヒメのお茶を啜る音が聞こえた。


「儂もようけ遊んだ。今じゃその頃のやつらは全員町を出たが、今でも思い出に残っとる。青春言うもんはな、かけがえのない時間や。あの頃の片思いも、あの頃の諍いも、あの頃の戯れも、全部が思い出に残っとる。そうやって今の自分を作るんや。でもな、一度成長してからそれを知るとろくな大人にならん。唯斗はその点、環境は悪かったがその他に恵まれた。やから、その恵まれているうちに楽しんどけ」


 兵吉じいさんは襖の向こうで座っており、影でタバコを吸っているのがわかった。


「……ヘーキチジーサンは、唯斗の子供の頃を知ってるのか?」


 それは、子供の頃という記憶がないヒメにとって、一つの興味深いことであった。


「……唯斗は暗いやつやった。真司が連れてきた時も、儂を見て自信なさそうに会釈してきたんや。あの時期の子供言うたら、誰にかんでも明るいもんや。それがあんなんってなれば、なんとなく想像もつく」

「でも、俺の人間関係の苦手さは生まれつきじゃ?」

「それは今の話や。子供っちゅうんは大体藤原の兄弟みたいになる。大人しくても弟の方くらいか、どこかに明るい部分を持っとる。やが、唯斗は儂が話しかけてもその片鱗すら見せんかった。真司には見せてたようやが、どうも大人を信用してない節があった。それで一回、唯斗の親について調べてみたことがあった。案の定放任主義の、ろくでもない教育方法やった。放任が悪いとは言わんが、その子に合った教育方法がある。それも確かめずに自由にさせるだけさせて、本人を助けん。最後には子供残して()()や」


 唯斗の表情が暗くなったのが、ヒメにもわかった。


「何があったんかは知らんが、ろくでもないのは確かや。指田んとこの娘が放っておけんなるのも納得がいく。青春を間違えた姉の方は、唯斗に構わんかった。守らなあかんはずの大人が、よりにもよって自分の弟を放置する。一時期、唯斗の表情が暗いままやった。今でこそマシになったが、それでもどこか暗い。ヒメ、お前がそんな唯斗を変えたんや」


 突然話を振られ、ヒメも首を傾げる。


「私が?」

「お前さんが来てから、唯斗が前よりも明るうなった。性格的な面はいつも通りやが、笑うことが多くなったやろ」


 唯斗は何も言わない。


「今このタイミングが、唯斗を変えるターニングポイントや。やから、楽しめよ」


 兵吉じいさんの話が終わると、苗島が浴衣を持って現れる。


「あったぜ」

「真司」

「どした? じっちゃん」

「最近、動きの怪しい連中が外を歩いとる。唯斗とヒメからあんまり離れてやるな。今日はここに泊まってけ」


 兵吉じいさんの突然の提案に、唯斗も戸惑う。


「どういうことですか?」

「夏祭りは行ってええ。むしろ、住職からしっかり話は聞いた方がええやろ。やがな、どうも騒がしい。夏祭りが終わった後も、一旦ここへ来い。儂もここに住んで長い。こうやって家におってばっかやが、人脈やなんやと色々あるんや。子供は大人の言うことを聞いとけ」


 兵吉じいさんはそう言うと、杖を取り出して玄関に向かう。


「儂は外出てくる。ゆっくりしてけ」


 ガラガラと玄関の閉まる音が聞こえて、三人は呆然とする。


「なんだ? じっちゃん。なんか今日変だったな」

「ヘーキチジーサンはいつもあんな感じなのか?」

「いや、じっちゃんは長話こそするけどあそこまで不思議な感じじゃない。なんだろな?」


 ◇◆


「面倒くせぇなぁ」

「なんで俺たちがこんな虱潰しに探さなきゃいけねえんだよ」


 ガタイのいい男が二人、町の中を歩きながら愚痴を吐いている。


「いっそ脅して、町全体に協力させればいいんじゃねえの?」

「若頭からの指示だ。今だけは大人しく従えだとさ。タイミング見計ってんだろうよ」

「面倒くせ」

「そもそもあいつの話が本当なら、今頃人魚姫は国のやつらに引き取られてんじゃねえの? と思うが」

「これで無駄足だったらマジで殴りてえよ」

「あ?」


 すると、ポケットに入っていたスマホが鳴る。


「もしもし」

「やあ! おれだよ」

「チッ。やあ、じゃねえよ。こっちはお前の要求通り、虱潰しに人魚姫の情報聞き出してんだよ。ちったぁ敬語くらい使えねえか?」

「あはは、敬語は長らく使ってないなぁ。それより、虱潰しに探してるところ悪いんだけど、無駄足だった!」

「あ?」

「情報が出た。そこで依頼したいことがあるんだ」


 電話の向こうの男は、陽気に依頼内容を続ける。


「君たちヤクザでしょ? だったらテキ屋とか屋台関係って君たちのメインウェポンだよね〜」

「それがなんや」

「実はさ、さっき無駄足になったってことなんだけど。ターゲットが夏祭りに参加することが判明した」


 男はなんともなさそうにそう言った。しかし、それは極道の怒りを買う。


「さっきから素直に聞いてやったら……お前俺ら舐めとんのか⁉︎ 散々人の足をこき使って歩かせやがって、己らの力でやれるんなら、最初からこんなまどろっこしいこと依頼すんなボケ!」

「まぁまぁ、おれの方もこの情報が入ったのはさっきなんだ。仕方ないだろう? 元より君たちにも利がある依頼なんだ。そんなことより、君たちも屋台出すよね?」

「……俺たちじゃねえ」

「え?」

「屋台の管轄は真鳩のおやっさんがやってる。俺たち若頭派は、近寄ることすら許されてねえ」


 電話越しに男の頭を掻く音が聞こえる。


「ねえ、君たちもバカじゃないと思うんだけど、一人か二人くらい真鳩? のところに潜り込ませてる人いないの? その人なら屋台にも行けるでしょ」

「……あれは切り札だ。変なとこに使って、今後の派閥争いで使えなくなっちまったら問題が起きる。使えねえよ」

「金を出すって言ったらぁ?」

「おめえも闇金から借りたんだろ! 臓器でも売るってか? そんなにポンポン金を出すやつを信用しろってか⁉︎」

「いやぁ、若頭さんなら信用してくれたけど……」

「あのな、こっちは暴力が当たり前の世界なんだわ。あまり変なことばっか言ってるとマジで殺すぞ?」

「あはは、生憎とおれも殺すの得意なんだよね。知らない? おれ有名人だって聞いたんだけど」

「あぁ?」

「二年前のバラバラ殺人事件、犯人は現在も逃走中。その後、多数の殺人事件を引き起こしている――」

「……」

「じゃ、よろしくね!」


 電話が切れると、男は唾を飛ばして来た道を戻る。


「どこへ?」

「真鳩のおやっさんとこに潜り込んでるのに話つけてくる。お前は一応、一人で町の中を捜索しとけ」

 後書き

 どうも、焼きだるまです。


 気が付けば第七話と、時の流れが早く感じます。私は残りのストックを知っているので、四月末までなんとかなるか……? と頭に「?」を浮かべながら移動作業をしている次第です。


 恐らく四月下旬には完結すると思われるのですが、最終話の方がちょっと投稿方法特殊になる可能性が出てきまして、中旬は超えると思うのですが、このお話とも今月でお別れになりそうですね。


 さて、しかしまだこのお話は続きます。第七話は短いですが、八〜九話はいつも通りの長さで作っておりますので、今作の小休憩程度に第七話を読んでいただけると嬉しいです。


 では、また次回お会いしましょう!

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