第六話「人魚姫のうた」(4/6)
唯斗とヒメが投影機を求めて動くように、他もまたそれぞれが目的のために動き始める――。
4.
アクアショップで働くヒメの姿は、町の人々を引き寄せる魅力があった。店長の目に狂いはなく、ヒメを求めて店に訪れる者が居た。
「ヒメちゃん、今日もがんばってるんだね」
「オッサン、昨日ぶりだな」
「いらっしゃいませ! コラっ、ヒメ……オッサンって……」
「はっはっはっ! いいっていいって、こんな可愛い子にそんな呼ばれ方しても悪い気は起きねえよ。魚よりもこっち目当てまであるんだから、目の保養よ」
「ありがとな、オッサン」
今日は珍しく居る店長も、後ろで笑っている。うちの自慢の看板娘だと豪語して、取り敢えず今日の目的を尋ねる。
実はこの中年男性、ヒメに釣られて店に訪れたその日、ヒメに言われるがまま観賞魚を飼いだしてしまったのだ。
「いやぁ、ヒメちゃんを見に来たんだが、まぁ他にもあるにはあるな。せっかくの観賞魚なんだから、もう少し水槽内も拘りたくてな。水草ってやつだったか? 何か良いものあるか?」
「水草ですね、それなら俺が――」
「いや、ヒメちゃんのセンスでお願いしたい」
「ワタシ?」
「あぁ、元々ヒメちゃんのおすすめで飼うことに決めた観賞魚だからな。今日の朝も、玄関に飾ってるのを見た時に目が冴えたよ。家の中には綺麗なものを置かねえとな」
ヒメはまだバイトを始めて出勤日数は一週間もないが、唯斗はあえてヒメに任せることにした。それがお客様の要望でもあったからだ。
「これとか――」
お客様に提案するヒメを後ろで見守りながら、店長と唯斗が隣同士で話し合っている。
「だいぶ慣れたよな。雇ってよかったよ」
「まだまだ不安なところもありますけどね。でも、店長がそう言ってくれるならよかったです」
「雇ってよかった点は他にもあるぞ」
「はい?」
「あんただよ。ヒメを雇ってから、唯斗も変わった。前よりも明るいっていうか、お前人間関係得意じゃなかったろ」
「……はい」
「接客もできてはいたが、もう少し明るさは欲しかった。それがヒメが来てからというもの、ヒメの明るさもあるがお前も今まで以上に明るくなってやがる。アクアショップという性質上、物静かなイメージはあるが、やはり店員が明るいのは大切だ。俺は前よりも、今のこの店が好きだぜ? できればもっとシフトを入れてやりたいくらいにな」
「そう……ですか。はは。いや、そうですね。俺も少しだけ、ヒメが来てから毎日が楽しいんです。いつも、周りが僕を誘ってばかりでしたから。こうして、自分で誰かを引き連れたりするのは……楽しいですね」
店長がそうだろうそうだろうと背中を叩いてくると、店の裏へと戻っていく。
「まぁ、若いんだ。青春は今のうちに味わっとけ。すぐ俺みたいにぽっちゃりしたおっちゃんになってしまうからな」
「何言ってるんですか、結婚もしてる癖に」
「あっはっは、結婚だけがゴールじゃない。でもまぁ、悪くもない。お前もヒメちゃんのこと好きなら、誰かに持ってかれる前に告っとけよ〜。あの感じだとすぐに持ってかれるぜ〜?」
そう言って店長は店内から姿を消してしまう。
「な――」
「どうした? ユイト」
唯斗の後ろから、接客を終えたヒメが聞いてくる。
「……ナンデモナイ」
◇◆
銀行にはしっかりと金が入っており、唯斗は引き下ろすとヒメと共にリサイクルショップへと向かう。
「とーえいき! とーえいき!」
「嬉しそうだな」
「やっとこの日が来たんだからな」
「実行日は明日だぞ。今日は買ったら、まず家で使えるかどうか試す。それで明日の朝、指田さんのアパートに行く」
「鍵はあるのか?」
「合鍵がある。二年前に両親が亡くなった時、いざとなった時に駆け込める場所がないと心配だからって、指田さんが俺に渡してたんだ」
「つまり、二個目の鍵?」
「そういうこと」
そんな話をしていると、すぐにリサイクルショップに辿り着く。中へ入り、レジまで向かう。
「鈴野唯斗さまですね、少々お待ち下さい」
店員はそう言うと、店の裏に向かう。
「ヒメ、歌の方は大丈夫なのか?」
「あぁ、寝る前に軽く練習しておいた。歌詞も問題ない」
「そっか」
店員が投影機を持ったまま、レジに現れる。
「こちらですね、五千円となります」
唯斗は財布から、五千円札を取り出す。
「五千円札一枚、丁度となります。袋はどうされますか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました〜。それではこちら、レシートになります」
レシートを受け取り、唯斗はヒメに投影機を持たせる。
「買ったのは俺だけど、買うと決めたのはヒメだ。しっかり持てよ」
「おう」
ヒメは任せろといった表情で、両手でがっしりと投影機をホールドした。
「ありがとうございました〜!」
リサイクルショップから出ると、寄り道はせずに家へと向かう。
「取り敢えず、電池は家にあるから問題ないはず。最悪買いに行けばいい。それよりまずは、投影機がしっかり使えるか試さないとな」
「唯斗はこういうの使ったことあるのか?」
「あんまりないかな。おもちゃ的なものはあるけど、投影機は触ったことがない。多分、そんなに難しいものでもないと思う」
そんなこんなで家に辿り着くと、なるべく窓の少ない暗い部屋を用意する。
「ここならいけるかな……」
そして、電池の種類を確認して棚から電池を探す。
「あった」
「それはなんだ?」
「電池、餌みたいなもの。機械だって栄養がないと動けないんだよ」
「なるほど」
電池をセットし、蓋をして電源をつける準備をする。
「このスイッチを押せばつく。用意はいいか?」
ヒメは頷くと、薄暗い部屋の中で投影機が起動する。すると、部屋の壁や天井にうっすらと夜空の星々が現れ始める。
「おー!」
「思っていたよりも本格的だな。今は部屋に若干の光が差し込んでるから薄いけど、多分ちゃんと暗くしたらもっと綺麗に映るはず」
「ユイト、部屋の中に星空がある」
「そうだな」
ヒメは目を星のように輝かせながら、しばらくは投影機によって映し出される情景を眺めていた。
「……さて、そろそろいいだろ。本格的な実行は明日だ。せっかくだし、この後のワクワクは明日に取っておこうぜ」
「わかった」
唯斗はスイッチを押すと、星空はパタリと消える。ヒメは音符を浮かべたような気分で体を揺らしており、唯斗もその姿を見て満足する。
「さて、取り敢えずこいつは前に買ったやつと一緒に置いておこう。あと、いきなり指田さんのアパートへお邪魔するのは流石に失礼だから、何か上手いこと理由をつけて連絡しておくよ」
「シンジも来れそうか?」
「任せろ、どうせあいつは暇だから」
唯斗は親指を立てると、投影機を置いて部屋を出る。それに対してヒメも後を追うように付いていく。
実行日の明日まで、二人は準備をしながら眠りにつくことにした。その日の晩御飯は少しだけ豪華で、金が入った日の特別な料理だ、と唯斗は話していた。
後書き
どうも、焼きだるまです。
この後書きを読んでいる人は居るのでしょうか。なんなら邪魔とか思われてそうですよね。
後書きを書いていない作品も見かけることがあり、何が正解か正直よくわかんない現状、正解はどこにあるのやら。
気が付けば合計文字数も10万を突破。一冊の文庫分くらいありますが、後半はまだ始まったばかりです。明日の投稿もお楽しみに!
では、また次回お会いしましょう。




