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第五話「サマー・ビーチ・バカンス」(1/5)

 イワシとの再開を済ませ、砂浜から帰った三人に届いたのは――。

   1.



 苗島から連絡があったのは、その日の夕方であった。アパートに帰ってきた三人は、晩御飯は何がいいという話をしていた時、唯斗のスマホに苗島からのメールが届いたのだ。


 メールの内容は要約すると、明日海水浴をしに行こうぜ! というものであった。


「えぇ……」


 唯斗も困惑した表情を浮かべて、最初は断ろうと思っていた。しかしメールの内容を読み進めると、それに至った経緯が書かれている。


「実はさ、藤原んとこのガキどもが、隣町のビーチで海水浴をする予定があったんだとよ。だけど、親の都合でキャンセルになって、用意してたものも全てパーになったらしいんだ。でも、それじゃあんまりだって言ってごねたらしくて、その結果見守る人間が居るなら行っていいって言われたんだとよ。それでオレんとこに来て、頭下げてきたんだよ。最初は断ろうと思ったけどさ、親まで連絡してきやがって、断りづらくなったんだよ。仕方ないから引き受けてやったんだがさ、流石にあの二人組を一人で見張れる気がしなくてな、唯斗にも手伝ってほしいんだよ。ついでにヒメっちも連れてこいよ、こうなったらみんなでバカンスを楽しもうぜ!」


 苗島がただ一人で誘ってきているのであれば断ることもできたが、流石に小さな子供が関わっているとなれば話は別だ。苗島が断りづらくなったように、唯斗もこの誘いを断りづらい。


「仕方ないなぁ……」


 唯斗は頭を掻きながら、「ヒメも行くって言ったら考えてやるよ」とメールを送り、スマホを閉じた。


「誰から?」


 指田が聞いてくると、唯斗はありのままを話す。ヒメも横で聞いており、ついでに行くかどうかを聞いてみた。


 ヒメの反応は唯斗が行くなら、といったもので、なんとも反応に困る答えだが、それは半分行くようなものでもあった。


「いいね、それなら私も付いていこう」

「指田さんも? でも、バイトは――」

「明日まで休みだから」


 指田はそう言うと、立ち上がってクローゼットを開く。クローゼットの中には服などがあり、その中に一つだけあったものを取り出す。


「じゃじゃ〜ん」

「水着……ですか?」


 それは淡い黄色の水着で、指田の持っている唯一のものでもあった。


「実はこういう時のために買っておいたんだけど……使う機会なくて腐らせかけてた。でも、やっと陽の目を浴びるチャンスが訪れた。それに、藤原さんのところの息子さんでしょ? あそこの子はやんちゃも居るし、私も居た方が安心できるでしょ。ヒメちゃんのこともあるし。それに、私これでも車の免許持ってるので――」


 指田の提案に、唯斗は納得した様子を見せる。幸いにもアザや腫れなどは薄れてきていたので、ここまで条件が揃っては行く以外の選択肢はなかった。


「唯斗の水着は家だっけ……なんだったら今日、買い物ついでに取ってきてあげるよ」

「いいですか?」

「任せなさい」


 唯斗は感謝を伝えると、苗島にメールを送る。


「いいよ、ヒメと指田さんも行くってさ」


 ◇◆


「綺麗な海! 美しい波の音! そして――ビューティフル! おっぱ――」


 そう叫び始めたサングラスをつけた苗島は、背後から放たれた猛烈なチョップによって言い切る前に気絶させられる。


 耳を塞ぎたくなるような音が聞こえた後、苗島は後ろへ倒れた。


「はいは〜い、パラソルの下で涼みましょうね〜」


 苗島にチョップを放ったのは、五人をレンタカーで運んでくれた指田であった。


 そのまま指田によって、パラソルの下まで砂浜に跡をつけながら引きずられていく。


「あはは……」


 唯斗は苦笑い、ヒメは何が起きているのかわからないといった表情で引きずられていく苗島を見ていた。


 ここは隣町にあるビーチで、海水浴場として近くでは人気のある場所でもあった。といっても近所での話で、本当に有名なところとは比べ物にならない人の少なさではあるが、それでも十分な量の人は遊びに来ていた。


 ほとんどの人が水着を着ているように、唯斗たちもそれぞれに持っている水着を着ていた。


 苗島は緑のパンツを履いており、サングラスまで持参して付けている。


 指田は昨日言っていた淡い黄色の三角ビキニに、薄い白のラッシュガードパーカーを羽織っていて、黄色リボンの麦わら帽子を被っている。


 唯斗は黒のシンプルなパンツで、白のラインが横の部分に入っている。左手には、指田があった方がいいと言って貸してくれた、完全防水仕様の腕時計をつけている。


 ヒメの水着は指田が行きに買ってくれたもので、指田と同じ色とデザインのラッシュガードパーカーに、水色で揃えたクロスデザインのビキニを着ている。


「ゆい兄〜!」


 そんな二人の後ろから、子供らしい水着パンツ姿の藤原の兄弟が水鉄砲を持って現れる。


「お、良いもの持ってるな」

「だろ! 家から持ってきたんだぜ!」

「ゆいに〜は何か持ってきてないの?」


 せっかくの海ではあったが、唯斗の家にあったものは売り払えるものも全て売り払っている。あとは姉が押さえているか、生活に必要なものだけだ。


 水着は残っていたが、小さな頃に使っていた水鉄砲のようなものは残っていない。母の部屋が片付いていたのも、これが原因だ。


「生憎と……でも、俺は十分だよ。二人で遊びなよ」

「いや、実はもう一丁あってさ――」


 藤原の兄はずっと片手を背に隠しており、やっと出したかと思えばそれはもう一丁の水鉄砲であった。


「これ! ヒメにやる!」

「その流れで俺じゃないのかよ……」


 話の流れを見る限り、明らかに唯斗に渡す流れであったが――子供たちの考えなど成長した後はわからないと、唯斗は諦めと苦笑いで終わらせる。


「私に?」

「おう! ヒメのねーちゃん面白いから、これやる!」


 藤原の兄から水鉄砲が手渡される。色はプラスチックなスカルカラーの緑色で、オートマチックの拳銃をモデルにした水鉄砲である。


 ヒメは渡された水鉄砲を不思議そうに眺めており、藤原の弟から使い方の説明を受ける。


 慣れないながらも言われた通りにやり、水を入れるため海の方へ向かっていく。


 指田のチョップにより気絶していた苗島の方は、近くにあった水場に固定され、頭から水道の水を延々と浴びせられている。


「……まぁ、眺めてるのも悪くないな」


 そう言いながらも、本来の目的は藤原の兄弟を見守る役なので、最初からこうするつもりでもあった。


 最初はヒメを見守ることも入っていたが、見る感じだとそこまで問題もなさそうであった。それどころか、ヒメは人魚姫だ。泳ぐことには慣れているだろう。


 ヒメにも海水浴の内容については話してあり、本人も乗り気で任せろと言っていた。唯斗もそれを信じて安心している部分がある。


「ヒメお姉ちゃん、まずはここにお水を入れて」

「ほう――」

「不意打ちッ――!」

「んっ――!」

「だはは! こんな風に撃つんだぜ! って、うわっっ‼︎」

「こう撃つんだろ? 頭に向けて」

「うわぁ、ヒメお姉ちゃん容赦ないね……。お兄ちゃんもお兄ちゃんだけど」

「うっせぇ! お前も喰らいやがれ!」

「ぎゃっ」


 ヒメも飲み込みが早く、三人はすぐに撃ち合いに発展する。ぎゃははとはしゃぎ回る三人の姿は、友だちよりも姉弟的に見える。


「いいなぁ……」


 唯斗にとってその光景は、叶わなかったものでもある。昔、一度だけこの海へ海水浴に来たことがあった。その頃の唯斗は、まだ苗島と出会う前の十歳の頃。


 苗島と関わりがなかったわけではないが、その頃はまだ友だちというわけでもなく、ただ隣のクラスの子という認識であった。それが故に、その時の海水浴は家族四人で向かったのだ。


 父と母は、姉である優菜に唯斗と遊ぶように言っていた。しかし姉は中学生で、その日はたまたま同級生の子も海水浴に来ていた。そっちに目が行ったことで、元から弟とあまり関わろうとしない姉は、唯斗へ向けて「適当に遊んでろ」とだけ言葉を放ち、同級生たちのもとへと行ってしまったのだ。


 父と母は唯斗のことを見るでもなく、酒を飲んで二人だけの会話に夢中になっていた。


 唯斗の両親は、唯斗に愛情がなかったわけではない。だが、その育て方は周りの親も良いと思ったことはなかった。必然と家でもコミュニケーションの機会が少なく、唯斗は学校でも孤立していった。


 誰も唯斗には構わず、誰も唯斗とは遊ばない。両親でさえ唯斗のことをしっかりと見ようとはせず、放任主義を貫いている。


 孤立していく唯斗を一人置いて、それぞれがそれぞれの世界で娯楽を楽しんでいる。誰も手を差し伸べようとはしなかった――。


「唯斗」


 ただ一人を除いては――。


「誰……ですか?」

「あはは、無理もないよね。名前は聞いてたんだけど、生で見たのは私も初めてだよ。こんにちは、優菜の弟くん――」

 あがとき

 どうも、焼だきるまです。


 遂に始まりました、水着回です!


 前半のラストを飾る、人魚姫らしい回がやっと来た感じですよねー。第五話は5分割の予定ですので、気長に楽しんでいただければ幸いです!


 気が付けば三月も終わりが間近まで迫ってきました。新社会人、進学、新学期が始まるかと思われますが、小説を読むくらいのゆとりを持ちつつ、ぼちぼちがんばっていきましょう!


 合間時間などがありましたらぜひ、人魚姫を読んであげてください。では、また次回お会いしましょう!

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