第49話 願いよ届け、魂晶に
体を熱い血流が流れていく感覚。
間違いない、このモンスターは久々に対峙する『ボス』だ。
そしてどういう風に玉虫色のドラゴンを攻めていくか、頭の中に次々とスキルが浮かんでくる。
これはリクビさんと戦ったときと同じく、『覚醒―変幻自在』も発動している証に違いなかった。
リクビさんとの戦いの後、この状態が何なのか気になってタロンにスキル欄を見てもらったことがある。
変幻自在は強い感情が引き金となって、私のスキルとして発現するということだった。
あの日だけじゃない。ずっと助けてもらっていたね、タロン。
今私は、タロンの命を背負って、自分の潜在能力全てを解放しているんだ。
「イグルさん、お願いがあります。どうかこれから起こることを決して他言しないで下さい。
私たちは普段は力ない駆け出しのパーティ。誰かに利用されたり、何かを強要されれば抗う術を持たないんです。」
ヘヘっ、とイグルさんが笑う。
「大層な自信家なんだな。駆け出しパーティなんざにさせることなどありゃあせんで。」
返事を下さい、と真面目に問いかけるフラン。
「……約束しよう。口外しない。
それよりそこの岩を越えるとやつが目を覚ますから十分気をつけろよ――」
私はイグルさんの言葉が終わるのを待たず、空中に飛び立っていた。
私の背中と腿には、魔力を凝縮練成した赤いマナの結晶が張りついていた。
結晶は私の意のままに火と水の魔法を同時に噴射する。そうして生み出された爆発的な蒸気は、私の軽い身体を宙へと跳ね上げていた。
ドラゴンは侵入者を感知し、目を覚ましていた。
しかし、これだけ急に距離を詰められることはなかったのだろう。すっかり私の強襲に無防備でいた。
「ドラゴンさん。あなたの命、頂戴します!
あなたに恨みはないけれど、私には返さなければならない恩義があるの!
斬『桜散花』!!」
威力を最大限にまで高めた剣技で、ドラゴンの首元を叩きつける。
虹色に輝く硬い鱗に守られたドラゴンの皮膚は容易に切断を許さない。
どうやら鱗とその下の弾力ある皮膚が威力を分散させ、高い斬撃耐性を誇っているらしい。
だが、それでも私は引くことをしなかった。
マナの蒸気をこれでもかというほど蒸かし、ドラゴンの首に圧をかけ続ける。
「わ、わ、わたしはぁぁあ!めげたりしないぃぃ!
メグだからぁ!
みんなに助けてもらってばかりの女の子だからぁあ!!!」
思うまま膂力を剣に乗せ、ドラゴンに食らいついていく私。
するとパリンと何かが弾ける感触があった。
鱗だ。
威力を逃がしきれず弾けた鱗が、次々に粉を吐きドラゴンから剥がれ落ちる。
その刹那、私の剣はドラゴンの首に深く食い込んでいた。
やがてドラゴンは断末魔の叫びをあげるとマナに還っていった。
辺りを静寂が包む。
「やったわ、メグメグ……!」
「わーい、メグちゃんの勝利ですぅー。」
「たまげたなぁ……本当に打ち倒してしまうとは。」
大量のドロップ品、スキルや経験値獲得のシステム音。今はそんなものに構っている暇はなかった。
「イグルさん、夢の欠片はありますか?どうぞお納め下さい。そして魂晶の作成を急いでお願いします。」
「あ、ああ。持ち帰れないほどある。
だが俺もそっちの顔を立てよう。素材は持てる分だけにして、すぐに魂晶を打ち始める。」
私たちはアイテムの回収もそこそこに、すぐにドラゴンの洞窟を後にした。
イグルさんの小屋。魂晶の完成を固唾を飲んで見守るオカリナ。
「そんなに見つめられても早くできたりはせんぞ。むしろ手元が狂いかねん。」
理屈じゃない。そわそわして気が休まらないから見ているんです。
「そういえばメグ、お前は『紫瞳の勇者』というものを知っているか?」
寡聞(謙遜でなく)にして知らない。
聞くとシドウとは紫の瞳とのこと。いみじくも私が対ボス無双で力を発揮するときがそうだ。
「古い昔話だ。たびたび語られる英雄の話さ。
彼らには共通点があってな。
普段は力もなく役に立たないが、いざというときには人知を超える無類の力を発揮し、周りの皆を助けていたらしい。
所詮、語り部の世迷い言だと思っていた。……だが俺は今日まさに『本物』を見たよ。」
まさにメグメグにピッタリの寓話ね、とカナ。
「お前さんも普段は頼りないんだろ?
でも紫瞳の勇者はその力のなさを、人を引き付ける魅力でカバーしていたらしい。縁を大切にしろよ。
……さて、魂晶が出来た。持っていけ。」
待ちかねた魂晶。私は半ば奪うようにイグルさんの手から受け取る。
「ありがとうございました!
私、救いたい友達のもとへ行ってきます!!」
本当にお世話になりました!とオカリナ一同で挨拶する。
プリチーアイで移動する最後の瞬間、イグルさんは柄にもなく、拳に親指を立てて私たちの成功を祈ってくれていた。
カロスさんに魂晶を託して、どれくらいの時が経ったろうか。
タロンの治療が続けられているまさにその部屋の前で、私たちは永遠とも思える時間を過ごしていた。
そして時は来る。
部屋の扉を開き、カロスさんが出てきた。
「た、タロンは?!」
「……自分の目で確かめなさい。」
雪崩のように部屋に押し入る私たち。
中央のベッドに目を閉じ、仰向けでピクリともしないタロンがいた。
「そ、そんな……。」
「タロンちゃん……!」
そこへ後ろからカロスさんの声が掛かる。
「悪趣味ですよ、タロン。がんばってきた彼女たちに一芝居打つなんて。」
すぐにひょっこりと起き上がるタロン。
「でへへ、ごめんね、みんな。おいらみんなのお陰で、すっかり元気になったよ。
ありがとう。」
うわぁぁん、とリリエラがタロンに抱きつき、それはもうぐにぐにと色んな方向にほっぺたを引っ張る。
「心配したんだよ、タロンちゃん。生きてて良かったぁ……。」
フランも後ろで腕組みをしながら毒づく。
「本当にバカね! リリエラの次は私よ。
しっかり復活できたか、ほっぺの耐久テストをしてやるんだから!!」
「じゃあその次は私。タロ芋のくせに生意気なのよ。」
そんな私はタロンが生きていた嬉しさと驚きで、言葉を話せないまま号泣していた。
こうして私たちは無事に大切な仲間の命を助けることができたのであった。




