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第3話 初なる勝利は苦き味


 散々ハードルの下がったモンスター相手にまさかの門前払いを食らう。


 あまりの意外な出来事に、思わず見つめ合う私と筋肉さんだった。


「……このトカゲ、もしかして古代竜の末裔とかなんとかで、本当はめちゃくちゃ強いんじゃあありませんか…?」


 望み薄だが、聞かずにはいられない。


「いや、初級冒険者が相対するにふさわしい、ごくごく普通の魔物だな。てか古代竜てなんだ?」


 やはり。


 古代竜とか言っちゃったが、言った私本人がそんなオーラをこのチビから感じられない。

 聞くだけ無駄というものだ。


「ま、まだやらせて下さい。これで終わりになんかできません!」


「おお、がんばるな。その意気だ。俺が見ててやるぜ。」


 私は剣を拾うと今度は何度もトカゲを叩く。

 トカゲは暇そうだ。意に介さぬ表情で欠伸なんかこいている。まるで手応えがない。


 次第に手を腫れ上がりそうな痛みが襲う。それでもこんなところで躓きたくない。


 剣の持ち手を変えながら、何度もトカゲを攻撃する私。

 すると鬱陶しそうにトカゲが立ち上がる。


 次の瞬間、私は宙を舞っていた。



「はえ?」



 あとから筋肉さんに聞いたところ、トカゲは尻尾をムチのようにしならせ、私に叩きつけたらしい。

 その動きを私は全く捉えられていなかった。


 私は闘技場の壁まで飛んで行って激突する。

 壁は安全面から硬すぎない素材が使われていたが、全身を強かに打ちつけると流石に痛い。


 私はマンガなら人型の穴が空いているようなポーズで、壁に正面からぶつかっていた。


「だ、大丈夫か、嬢ちゃん!」

 筋肉さんが急いで駆けつけてくる。この人はとことん優しいね。


 へろりと紙が剥がれるがごとく、私は闘技場の床に転げ落ちた。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと油断しただけで……。」


「あー、待て待て。鼻血が両方の穴から出てるじゃないか。

 これはドクターストップだ。嬢ちゃんの負けだよ。」


 筋肉さんが合図を送ると救助班が私の手当にやってきた。

 トカゲは撤収。手当を受けながら私はうなだれる。



 まぁもちろん、このモンスター相手にいくら戦っても勝てる見込みがないことは分かる。


 だが筋肉さんの事前の口ぶりからすると、この子、相当弱いはずだぞ?

 何故無双スキルを手に入れた私が勝てないの?



「まだ力を測れてないから、レベルを落として次のモンスターと戦ってもらう。メグ、気落ちしてないか?」


「はい、気持ちでは負けません!鼻血も引いたみたいです!

 次こそは勝ちます!」


「いい、笑顔だ。期待してるぞ!」


 私は剣を構えると、再び闘技場のスタートラインに立った。



 しかし、その後も戦績は散々だった。


 カエルにはのしかかられーの、コウモリには吹き飛ばされーの、大みみずには締め付けられーの。

 まさに連敗街道まっしぐら。



 筋肉さん、私がやられそうになるたびに慌てさせてすみません。

 これでも私、本気で戦っているんです…。



 もう何度目になるか分からない救助班の治療を受け、とうとうこの日、最後の試合が組まれた。


「最後の相手はスライムだ。嬢ちゃん、どうにか勝ってくれよ。」


 闘技場の向こうにこれはもう魔物というには愛らしい、ぶよぶよの粘体が現れる。


 しかし、私は背水の陣なのだ。この試合だけは負けるわけにはいかない。


 素早く距離を詰めると先手必勝、隙だらけの粘体にえいっ、と渾身の一撃を振り下ろす。


 感触はただ軟かい。


 切れもしない、弾けもしない。ただただぶよぶよの膜越しに液体の軟かさが伝わってくる。


 最弱のモンスター筆頭のスライムでもだめなの?

 負けじと何度も剣を振るうがスライムにダメージは見られない。


 お次はスライムの番だった。ぴょんぴょんずりずり、器用に移動しては、私のことを追い回してくる。


 攻撃が通らない私は逃げるしかなかった。でも私には体力もない。

 闘技場を半周も行かないうちにスライムに追いつかれ組み伏せられる。


 ひえー、お助け!と思ったさなか、筋肉さんから声がかかる。


「そこまで!」


 あー、終わっちゃったかと、しょぼしょぼ筋肉さんのところへ戻る私。


「おめでとう、メグの勝ちだ。」


 え?え? 私、何もできませんでしたけど……。


「スライムは友好の気持ちを示すと核の部分が赤くなるんだ。

 君はスライムを魅了した。立派な勝ちだ。」


「そ、そんな勝ち方もあるんですね……。」


「ちなみにスライムを仲間にできる奴ってのはそう多くないんだぜ。ここら界隈では聞いたこともないな。

 喜べ喜べ。」


 スライムはなおも私に懐いてくる。どうやら私の上に乗りたいようだ。


 手の上に乗せても、肩に乗せても満足せず、最後には私の頭の上に辿り着き、どっかりと腰を下ろす。


「あー……いっちゃあなんだがあれだな。」


「なんですか、ガルドさん。何でも言ってください。」


 頭をかくと筋肉さんは伝えづらそうに言う。


「お嬢ちゃん、スライムに格下に見られているのかもしれないな。

 珍しく人に懐いたのも、そういうわけだったのかなぁ。」


 私の額に怒りマークが浮かぶ。


「ていうことはなんですか。

 私がスライムを使役しているんじゃなくて、スライムに私が使役されているんですか?

 憐れみで仲間になってもらったってことですかー?!」




 スライムによって恵まれた1勝。それは何よりも貴重なものだった。



 

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