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第29話 縄操りの妖狐チホ


 ずい、と前に出るチホ。


「あねさま!ここはチホにお任せあれ。手出し無用に願います。

 見たところ、こやつら大した実力のものではございませぬ。調伏にはチホ1人で十分ですナ!」


 やってみよ、と一歩引くリクビさん。

 チホは長い縄を手に私たちと相対する。


 正直、戦闘開始!とやる気になった私たちだが、それで戦闘力が上がるはずもない。

 手加減ならウェルカムこの上ないですナ。


 アイコンタクトで、私の瞳はどう?とカナに問いかける。

 答えは首振り。チホでは対ボス無双発動とまではいかないらしい。



 まず先手を取ったのはなんと我らが魔法使い、フランだった。呪文を唱えた後、火球がチホを襲う。


「単発の魔法など怖くないですナ!

 縄技『旋風縄』!」


 チホは手前で縄を扇風機のように回転させる。

 飛んでいった火球はそこで阻まれ、チホに到達することはなかった。


「なんて技。火勢を凌ぎきったわ!」


「ふふふ、この程度当然ですナ。

 ……おや、縄が一部焼ききれている……?


 対魔法用に薬を練り込んだ縄ですが、魔法以外の火力の底上げがあったようですナ。敵ながらあっぱれ、なかなか侮れないですナ。」


 なんと火炎札にも利点があった。

 対魔法を想定した防御には、なかなか効果があるんだね。

 不発に終わった攻撃だが、敵を警戒させる効果があったらしい。


 チホはジリジリと、間合いを詰めながら私たちの様子を伺っている。


 しかし動かない私たち。


 正しく言いましょう。手詰まりなんです。動かないんじゃなくて動けないんです。


 だって近づいたら縄でバシバシやられそうだし、火炎札は効果薄な上、有限。

 そよ風組での練習試合で分かります。このチホって子の一挙一動足運び、相当な手練れですよ?分かってます?


 

 そう時間をかけることもなく、チホは事情を察したようだ。

 一瞬、憐憫の情を思わせる微妙な表情になった後、それを振り払い今度は攻めに転じてくる。


「食らいなさい、縄技『自縄自在』!」


 チホから放たれた縄が鋭く伸びる。

 しかしそれは少し明後日の方角に飛んでいく。私たちの誰もその先にはいない。



 はずだった。



 空中の何もないところで急に縄が方向を変えた。


 縄は側にいたフランを捉える。手と足をあっという間に絞め上げ、自由を奪ってしまった。


「なんで?!急に縄が折れ曲がって……。」


 フランの問いにチホは答える。


「ふっふっふ。チホの自縄自在は自由に飛んでいる縄の方向を変えることができる縄技。


 旋風縄で魔法の狙撃を防ぎながら、自縄自在で巧みにオールレンジ攻撃を行う。

 それがチホの遠距離攻撃合戦におけるスペシャリストたる所以ですナ!」



 確かに防御に攻撃に隙がない。


 あれ?でも今、縄は出払ってるぞ。視線の先には徒手のチホ。

 顔を見合わせると目が怪しく光る私たち。


 カナ、リリエラ、ぷるんつが揃って拳に力を入れ、チホににじり寄る。


「あ、待って、今タンマだから!

 リュックの中にスペアの縄があってね。え、こんなときにファスナー噛んじゃった。なんで?!ほんと、ほんと十秒まっ」



 命乞いも虚しくオカリナの前衛3人にフルボッコにされるチホ。

 フランの縄を解いて、もきゅー、とダウンした彼女を念のため縛り返す。

 一丁上がり♪



 なんと強敵を撃破出来た私たち。いやー、やってみないとわからないもんだね。相手がアホなのもあったけど。


 一部始終を見終わり、ため息を付きながら前に出てきたリクビさん。


「全く、間の抜けたところはなかなか変わらんな。

 いつもあれほど戦闘中は手持ちの縄を全て近くにおいておくように言ってあったのに……。


 修練は誰よりも積んでいるのじゃから、驕らず精進するが良い。……さて。」


 リクビさんは私たちをじっと見据える。


「前回ここに来たときに残っていた匂いで分かる。お主じゃな、メグ?

 ここのボスを倒した手腕、隠しきれるとお思いかな?」



 そんなことを言われても、現在私はスライムも倒せないペーペーですよ。

 期待に添えることはできないのです。



「妾には地域を穏便に平定する役目がある。

 実力も隠し、本来の目的も話さないとなれば、嫌でも本気を出させてあげようかの……自然譚『氷瀑牢』!」


 フラン、カナ、リリエラの足元から氷塊がせり上がり、あっという間に3人を包みこんだ。

 カチコチに凍ってしまった彼女たちは、蝋人形のように固まり微動だにしない。



「フラン!カナ!リリエラ!

 リクビさん、卑怯ですよ!用があるのは私じゃないですか!!」



「神をして卑怯などとは過ぎた口じゃな。

 お主には少なくとも炎の心得がある。氷は効かないじゃろう。

 故に腹を割って頂くのにはこれが最善最短合理的。


 さて、試しに炎で彼女らを溶かしてみるか?

 でしたら妾も加減などできぬ。氷像は欠けやすい故、結果彼女らがどうなるとも保証できないじゃろうな。」


 人質を取るような真似。これが神様のやり方か。


「さぁ全て話せ。彼女たちはこのままでは十分と保たんぞ。」



 リクビさんの言葉を聞いて頭が真っ白になる。


 許せない。



 腹の底からふつふつと感情が迫り上がってくるのが分かる。

 これは怒りだ。


 私は剣を構えるとリクビさんに差し向けた。


「私はあなたを倒し、ここから誰ひとり欠けることなく出ていきます。ご覚悟を。」



 リクビさんは珍しいものでも見たように目を細める。



「これはこれは。お主があの『紫瞳』の……。」



 囚われた3人を救うべく、私とリクビさんの戦いが始まった。


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