第23話 新米パーティ、新米商人
逃した魚は大きかった……という話はよく聞くが、それはトントさんにとっての話だったようだ。
私たちからしたら逃がした魚は獰猛なピラニアか何か。早くリリースしてしまって良かった、とすべきところだ。
そう、面倒見のいい筋肉さんにまたもや助けられてしまったのです。
救世主たる筋肉さんは意に介していない様子で私たちに話しかける。
「嬢ちゃんら、あっちのカウンターに来るんだ。
商会を利用するための登録を行うぞ。」
へい、と舎弟のように連なって筋肉さんについていくオカリナ一行。
カウンターには受付嬢と呼ばれる女性が待っていた。
向かいの席には代表としてカナが座る。私たちは立ちながら話を聞く。
「こんばんわ。
あら、新規のパーティと聞いていましたが可愛らしい女の子のグループなんですね。ふふ、よろしくお願いしますね。」
受付嬢さんは私たちより、何歳か上のように見える。雰囲気を持った女性だった。
しかしそれを見てなぜか吹き出す筋肉さん。
「はは!受付嬢の姉ちゃん、猫被ってるな?
いつも海千山千の冒険者相手にブイブイ言わしてるんだ。そんなよそ行きの言い方もないだろう。」
え、この人、芯から清楚で慎ましい方とお見受けしたのですが、そうでないの?
受付嬢さんは眉一つ動かさず筋肉さんに言葉を返す。
「ガルドさん、またあのときのような辺境送りのクエスト、見繕いましょうか?」
私たちにはわからない話だ。
しかし、こらかなわん、と首をすくめる筋肉さん。過去に何かあったのだろう。
「さて、本題を頼むよ。この子らのパーティの商会への登録を頼む。」
にこにこ顔のまま受付嬢さんは説明に入る。
「商会の登録は簡単です。最初に決められたこちらの登録料を支払って頂くだけです。」
示されたのはなかなかの金額。リリエラの眉毛がへの字になる値段だった。
「登録料は何もしなければ年ごとにも発生します。
しかししっかり活躍されているパーティは街や国から冒険者として身分を保証されるので、以降の登録料は免除されるんですよ。
この規定についてはダンジョン攻略を終えた機会にでも。」
なかなか登録料がお高いのね、とカナ。
「ええ。
本当は商会も登録料など無しでやっていきたいのですが……運営を登録料と公的な補助だけでやっているので、いかんせん何ともし難いです。
駆け出しのパーティには負担になりますよね、ごめんなさいね。」
しかしここまできた私たちだ。この出費はたしかに痛いが想定内。
しっかりと支払い、無事商会利用のための登録を終わらせた。
登録を終えた私たちに受付嬢さんから登録証が手渡された。
様々な施設を利用するのに必要なものらしい。
「よし、次は専属競売人となる商人探しだ。
といっても今日は時間も遅い。最悪見つからないかもしれんが覚悟しておけよ。
あっちに馴染みの商人がいたから声をかけてやる。
ベテランだし腕は間違いないぞ。さぁさぁ競売人を受けてくれるかな〜。」
またもや移動する筋肉さんの後を、産まれたてのひよこのようについていく私たち。
筋肉さんは1人の商人に声をかける。
「グルスの旦那、久しぶりだな!
実はこの子らのパーティが新しく専属競売人を探しているんだ。乗り手になってくれんか?」
グルスと呼ばれた眼鏡をかけた商人は、挨拶を返すと私たちをしかめつらで見つめる。
「あんたが連れているとなると、新米の新米だろ?
ダメだね。こちとら年末で体が1つじゃ足りないくらい忙しいんだ。
相手はできん。」
私たちは文字通り、お眼鏡に叶わなかったようだ。
近づいてくるものは詐欺まがい。優秀な商人には門前払いとなかなかに厳しい。
「そこを何とかならんかねぇ?なんなら他の商人を付けてやってくれてもいいんだ。」
するとグルスさんはふむ、と考え込んだ。
「そうだな、君たちにはちょうどいいかもしれない。
ナツココ、ナツココ!こっちに来なさい。」
少し離れたところに呼ばれたとおぼしき少年がいた。
少年はぴょこりと振り返り、慌てて駆け出すと派手に転げてしまった。
だがそれを気にすることなく、すぐに起き上がるとこちらに駆けてきた。
「お呼びでしょうか、グルス師匠。」
「なに、専属競売人を探しているパーティがいてな。
お前もそろそろ実践の頃合いだろう。
私も忙しくなる時期だから1人でやってみろ。」
はい、と答えるナツココ。
しかし驚いた筋肉さんが待ったをかける。
「ちょっと待った。その子、こっちの嬢ちゃんらより幼いんじゃないのか?
そんなんで商いが務まるのか?」
するとグルスさんは鞄を漁り、数枚の書類を筋肉さんに手渡した。
「今日のフリーマーケットで店を1つナツココに任せた。これがその売買明細だ。
褒められはせんとも、駆け出しパーティに付ける競売人としての資質には問題ないと思うがな。」
受けとった筋肉さんは明細とにらめっこする。
「……このレアアイテム、ずいぶん安く処分してねえか?相場の2割は値引いてる。」
それは説明します、とナツココ。
「今回僕の店は在庫処分を兼ねていました。
蔵出し商品は僕の裁量の範囲で、ある程度値引きが許されています。
といっても無碍に値下げするわけでないのは他の明細を見ていただければ分かると思います。
その取引は他の幅を取る商品数個と抱合せで販売することで、こちらも損をしない立ち回りにできたと思います。
お客さんに納得していただくことで懇意にしていただき、お得意さんを作ることもできました。」
「一回きりの算段しかできない商人はいつまで経っても人脈ができん。
ナツココは脇の甘いところはあるが、そこのところ見極めがなかなかうまいぞ。」
グルスさんも褒める。
はへー、と感心する筋肉さんと私たち。
「ナツココには商売のいろはは叩き込んである。
幼い見た目も、色んなところで可愛がって貰ってるから人脈として馬鹿にできんぞ。
今の時期、商人はなかなか競売人を受けたがらないし、悪くない話だと思うぞ。どうだ?」
正直私たちがこれ以上の商人を探すとなると、かなりの労力を割かねばならないだろう。
他のオカリナのメンバーもナツココを専属競売人として迎えることに異論はなかった。
「ナツココくん、どうか私たちパーティオカリナの専属競売人になって下さい!」
頭を下げるフラン。
「はいっ、こちらこそよろしくお願いします!」
深々と頭を下げ返すナツココ。
その瞬間、背負っていたリュックの上蓋が外れ、辺り一面に中身をばら撒くナツココなのであった。




