第22話 我待ち受けるは甘い罠?
筋肉さんに引き続き、こわごわながら商会の建物に入る私たち。
建物の中に入ってすぐはロビーになっていて、様々な人たちがテーブルを囲んで商談らしきものに熱を入れていた。
お客を待ちつつ時間を潰している人もいるようで、何人かが私たちに一瞥をくれる。
興味ありげにジロジロ見つめてくる人もいれば、すぐに手元に目線を戻す人など様々だった。
筋肉さんは私たちに向き直り、告げる。
「気後れしてないか?
堂々と、胸を張れよ。なに、俺がいる、そう損な取引はさせないさ。」
そこで、はい、と手を上げ質問するフラン。
「そういえばガルドさん、代替競売人の取り分の相場についてだけど、どの程度支払うのが普通なの?」
筋肉さんはそっけなく答える。
「そうだな、多いのは売れたアイテムの額を10として3程度だな。
競売人に商才があるなら4、逆なら2も有り得る。」
「私たちが苦労して持ち帰ったアイテムなのにそんなに取られちゃうんですか……?」
リリエラはちょっぴり不服そうに呟く。
それは物の見方だな、とガルドさん。
「別に競売人を使うのは義務じゃない。
納得いかなければ今日みたいに4人の1日を潰して自分で売り払うのも構わないさ。そうする人もいる。
ただ商人はさすがにそこのところ違うぞ。人脈もあるし、相場にも鼻が利く。
各アイテムについて誰がそれを欲しがっていて、どの程度の額なら引き出せそうかお前らにわかるか?
どこにいってどういう話を引き合いに出す?
嬢ちゃんたちが在庫も抱えず売り切ることができた商品なら、商人なら倍の値で捌くことができたかもしれないんだ。
まぁ言い過ぎかもしれないし、そうでないかもしれない。」
倍の値で売れるなら競売人に代金を支払っても、むしろ手に入る額は多くなる。その上で自由な時間ができるならいいことずくめといったところだ。
「何事も経験だ。一度は競売人を使ってみるのをおすすめするよ。
さて、これからカウンターの方で入会の手続きを始められるよう話をつけてくる。
悪いがちょっとその前にお手洗いも行かせてくれ。
手続きが始められそうになったら戻ってきて俺が呼ぶから、それまでみんなここで待っててほしい。」
そうしてトイレの方に消えていく筋肉さんをみんなで見送った。
カナはワクワクしているようだった。
「ふふふ、私たち着実に冒険者の道を歩き始めているわね。
ちょっとの失敗だって気にやしないわ。私たちには素敵な冒険者ライフが待っているんですもの。」
私も不安はあるがカナと同じ気持ちだ。ここで経験を積みながらバリバリ稼いでやるんだ。
「ちょいとみなさん、いいかな?」
ふと後ろから声がかかる。
振り向くと三十代くらいの痩せたおじさんが立っていた。
「ここを利用するのは初めてかな?
専属の代替競売人をお探しならどうか最初はわしと組んでみるのはどうかな?」
目を見合わせた私たちだが、物怖じせずフランが対応する。
「話が良ければ考えなくもないわ。おじさん、名前は?」
「トントというよ。ここだけの話、わしは初心者に格安で代替競売人を請け負っておるのじゃ。」
「競売におけるおじさんの取り分はいくらほどですか……?」
今度はリリエラだ。
「1:9じゃよ。こんなに安く仕事を受けるのは他にはいまいて。」
1割のみの支払い!
筋肉さんの話でもここまではなかった。
さすがの安さに食いつく私たち。
「本当に?何か裏があるんじゃないの?」
「商会の商人は代替競売人を請け負うとき、証書を交わすんじゃよ。
契約違反をすれば商会を追放されて食い扶持を失う。約束は反故にできんよ。」
本当ならこれはかなり美味しい話ではないか。
「さぁさ、わしはこの後野暮用があって少し時間がない。悪いが早く契約を検討してはくれまいか。」
契約書を受け取り、目を通す。
契約内容は初めに商会規定の、専属の代替競売人の登録料を支払うこと。
そして説明の通りアイテム売買の際には、1:9の割合分でトントさんと私たちが競売品の売り上げを分け合うということだった。
話におかしいことはなさそうだ。
私たちは頷きあうと、ペンを受け取り、契約を交わそうとしたそのときだった。
「やめな、嬢ちゃんら!」
戻ってきた筋肉さんに止められ、リリエラがペンを落とす。
「また初心者泣かせのあこぎな商売をやってるんだなぁ、トントの親父よ。
悪いがこのパーティは連れていかせやしないぜ。」
「へへへ、ガルドの旦那の息がかかっていたのかい。
こいつぁ、どんだ毒餌だったな。」
「俺だけじゃない。カロス様もお目をかけてらっしゃるパーティだ。
滅多なことをしてみろ、ただじゃすまんぞ。」
トントさんは契約書を胸元にしまうと、くわばらくわばらと言いながら頭をかいて机を離れて行ってしまった。
「ガルドさん!あのトントって人は1:9で仕事をしてくれるって話だったんですよ。
途中で追い返すって、そんなことないじゃないてすか!」
くってかかるリリエラ。珍しく饒舌だ。
あー、そうだな、とガルドさん。
「嬢ちゃんらは知らないんだろうが、あのトントは初心者を騙して専属契約させ、契約料をかすめ取る常習犯なんだ。
考えてもみろ。他の人が3で生活してるとこを1でまともな生活ができるか?」
たしかに。不当に安いのは何か裏があるからだ。
「トントは最初の契約料さえ手に入れば、あとはろくに仕事をしないんだ。
1割では稼ぎにならないから、託されたアイテムなんか投げ売り同然なんだな。
そうして多くの冒険者から多重に契約を重ねて上澄みだけ掬い、冒険者の方から契約解除するよう誘導するんだ。
これがここらでは有名なトントのやり口だ。
それでもいいなら引き止めやしないぜ。あいつを追って契約してくるんだな。」
ガルドさんの種明かしが終わり、私たちはがっくりとうなだれた。
やはりここは一筋縄ではいかない場所。
改めて自分たちの未熟さを思い知らされるのであった。




