第19話 どきどき、わくわく、フリマの準備
フリーマーケット当日。
4人でカロスさんの言っていた待ち合わせ場所に向かう私たち。
今日はタロンには休みをやっていて天界に帰っている。
今回売るつもりのアイテムはスライムヘルムが5つとスライムの核が10個だ。
本当は前のダンジョン攻略でスライムヘルムを6つ獲得した。
だが、1つはぷるんつが成長したときの装備用にとっておこうとみんなで話し合って決めたのだ。
今はまだヘルムが大きすぎて、ぷるんつにはぶかぶかである。
みんなでゼリーを平らげきった私のアイテムプールは現在6個フル稼働できている。
そのうち5つそれぞれにヘルムと核が入り、残りの1つに核が2つ入っている。
これだけの重さのものを苦労せず運べるとは楽ちんでいいね。
余った核3つはリリエラが武者修行がてら担いで移動している。なかなか重そうだ。
本人が持つって言い出したよ。いじめじゃないよ。
「たしか、この辺りだけれど……ずいぶん繁華街から離れてきたわね。」
きょろきょろとしながら不安げなフラン。
「カロスさんは自信ありげだったし、きっと考えがあるんだと思うよ。なんだかんだで頼りになる人なんだから。」
本当はすごく不安になってきた私だが、ついフォローを入れてしまう。
すると聞き馴染みのある声が通りの向こうから聞こえてきた。
「おーい、オカリナの皆さん。こっち、こっちです。」
カロスさんの姿を認め、はーいとにこやかに手を振り返した私の顔が瞬時に固まる。
カロスさんは地べたに敷いたござの上に座っていた。
ちゃぶ台に並べられたたこ焼きを召し上がりながら片手にコップを掴んでいる。
あと焼酎瓶でもあれば立派な出来上がったおっさんだ。
ていうかコップの中身、お酒じゃないでしょうね。
「カロスさん、おはようございます。晩酌中ですか……?」
小首をかしげるとカロスさんは冗談だと受け取ったようだ。
「面白いこと言いますね。これは水ですよ。少し遅い朝食です。
晩酌は夕餉に嗜むから晩酌なのでしょう。ふふふ。」
このひとのものさしは普通の人と違う故に、晩酌だと答えられるのも半ば覚悟していた。
それにしてもなぜござの上に座っていらっしゃったのか。
そのことを問うとカロスさんはからっと答える。
「これは場所取りなんです。
パーシードのフリーマーケットは決められたエリア内ならどこでも店を出すことができます。
いい場所は早い者勝ちなんですよ。
今日私たちはこの場所でフリーマーケットに挑みます。」
しかし、こちらも訝しげにカナが尋ねる。
「カロス様、ここってずいぶん繁華街から離れているんですけど、本当にいい場所なんですか……?」
それにはどんと胸を叩くカロスさん。
「たしかに飲食物や雑貨を扱うにはこの場所は向かないでしょう。
だが心配には及びません。
この界隈は北に行けば装備品業者の溢れる道。
また西に行けば合成アイテムの素材が集う界隈。
その入口となるここにヘルムと核を並べておけば多くのその手の目利きの目に止まります。
そんな好立地な場所を選んでおいたのですよ。」
カロスさんがウィンクする。テンションも高そうだ。
お次はリリエラが値段の設定について訊く。
「あ、あの……売るアイテムはこれぐらいの値段でしょうか?」
パチパチと算盤を弾くとカロスさんに見せるリリエラ。
ぐっと眉を寄せてカロスさんはそれを見る。いつに見ない険しい表情だ。
なんなら本職よりも気合が入っているかも。
「その値段は少し良心的に過ぎますね。
ヘルムは希少性があります。1つだけ並べるようにして値段はもう少しふっかけましょう。
核は素材として引く手あまたなんですよ。こちらも同じようにこのぐらいまで引き上げましょうか。」
素早い手つきで算盤を弾き直すカロスさん。
「こ、こんなに……。元の値の8割増しじゃないですか……!」
「フリーマーケットの強者はバカみたいに言い値で買う人ばかりではありません。
これはあくまで見せ値です。交渉しだいでどこまでなら下げられるか、予め示し合わせておくといいでしょう。
ある程度はけるならこの値段で、2時間経ってもさっぱりなら値を下げて呼び込みをすると良いでしょう。
もっともこれだけ強気な勝負ができるのも、あなた達の稼いだアイテムが良いからなんですよ。」
おおー、と感嘆の息を漏らすオカリナメンバー。
カロスさん、こちらの業種に転職されてはいかがでしょうか?
そしてカロスさんは自前のアイテムプールにちゃぶ台を片付け、ござの上にヘルム1個と核2個を並べるように指示した。
「さて、私がでしゃばるのはこれくらいにしましょうかね。
フリーマーケットは戦闘とはまた違う、いい経験が得られる場所になりますよ。
交渉、見定め、時には妥協することもあるでしょう。
あなたたちはまだ若い。いろいろなお客さんに揉まれてみるのがいいですね。
私は後ろで成り行きを見守っています。どうしても困ったら声をかけて下さいね。」
ゴクリ、とつばを飲み込み見つめ合う私たち。
カロスさんは大きなサングラスを取り出してかけると背後に下がってしまった。
手伝ってもらえない負け惜しみに言っちゃう!
そのサングラス似合ってないんだから!!
向こうから次第に人の流れができてくる。
フリーマーケット、戦闘開始だ。




