第10話 弾ける戦闘、華々しく
剣を構え進む私に、大きな声で応えるアレスさん。
「はっはっはー、まだ威勢の良いのがいたか!
かかってきなさい!!」
私も剣を構え、やや低い姿勢で進む。
「メグと申します!推して参ります!」
止まったような時の中。
動きが視える。
アレスさんの元へ辿り着くと、私は剣を横に薙ぎ、斬りかかる。
アレスさんは剣筋を見極め、他の生徒と同じように後ろに最低限の動きをもって紙一重で躱した。
しかしその動きは織り込み済みだ。剣を翻してアレスさんの頭部に一撃を加えるべく、熟練の剣士のように勝手に体が動く私。
瞬間、アレスさんは私の意外な剣の運びに思うところがあったようだ。拳で横から剣身を弾く。
「アレスさんが剣を躱さずに弾いた……。」
隙をついたとはいえ、アレスさんにこれまでとは違う対応をさせた。周りにどよめきが起きる。
「メグメグー!すごいわよー!」とカナ。
「メグちゃん、素敵ですー!」
顔を赤らめて必死に叫ぶリリエラ。
みんな応援してくれてるんだ…がんばらないと!
アレスさんは豪快に笑い飛ばす。
「はっはっはー!今の折衝でわかるぞぉ!
これだけの使い手がここにいたとはなぁ。
メグといったな。どれ、わしも剣を抜かせてもらおうか!」
アレスさんは腰に携えていた剣を抜くと片手で構える。
そして不思議そうにつぶやくのだった。
「それにしても嬢ちゃんはさっきの模擬戦の先鋒の子じゃろ?
見させてもらったが、足運びも力もてんで話にならなかったと思うがなぁ。」
正直な感想、やや傷つきます。まぁもう慣れましたが。
「アレスさん、今の私が秘めたる本当の私の力です!
いざ、尋常に勝負です!」
「こいっ、小童!老いても歴戦の将。
このアレスが直々に稽古をつけてやる!」
じりじりとアレスさんに対峙する私。
しかし睨み合っていても仕方ない。先だって仕掛けていく。
やぁっ、っと上段から剣を振り下ろす。どう対応されても不利にはならない自信があった。
対して剣には剣でとアレスさんは受けてくる。
腕に尋常でない衝撃が走るが、私の手は悲鳴を上げることはない。
やはりこれはもう『対ボス無双』のスキル発動を信じて良いだろう。
何度も切りかかっては突いていく私。それを凌ぐアレスさん。
アレスさんは力を推し量るようにあえて私に攻撃させているようだった。
幾巡かのやり取りが続いた。
やがて私の剣がアレスさんの頬に一筋の傷をつける。
血がたらりと垂れ、アレスさんはそれを舌で舐め取る。
感動の声を上げる外野の声。
アレスさんに傷をつけた彼女に私は勝ったのよ!と模擬戦での先鋒の子が宣う。
「やれやれ、辺境にまで来てみるもんじゃな。
わしのほうが追い詰められることがあろうとは。
嬢ちゃん、少し本気で行かせてもらうぞ。」
フッ、と息を吐くアレスさん。
途端、アレスさんの猛攻が始まった。
切る、突く、薙ぐ、叩きつける、そしてまた切る。
相手の動きは目で追える。しかし、拙い糸を手繰るような対応を迫られる私。
一歩間違えれば試合終了の危険が一撃一撃に籠もっている。ここはこらえどころだ。
「メグー、負けないでー!!」
「メグちゃん!ファイトですー!」
窮地に立たされた私に、オカリナのみんなの悲鳴や声援が上がる。
しかし今の私にはおおよその相手の体力も読めていた。
これだけの猛攻、そう長くは続かない。
今は攻めの綻びを待ってから反撃に転じる、雌伏のときだ。
しかし、アレスさんは不敵に笑う。
「不思議なことじゃな。
嬢ちゃんは技術や力は秀でたものがあるが、どこか不思議と戦い慣れていない様子が見受けられる。
戦いは剣でのみ行うものではない、そうじゃろ?
そこに付け込む甘さがある。」
まずい!今になってアレスさんの言わんとすることが分かった。
攻めに転じなくては。
しかし苛烈な猛攻は不自然な体勢になった私に自由を許さない。
そして振り下ろされた剣を受けた返し、アレスさんは私を思いっきり空中に蹴り上げた。
「自らの体格差や体重差は織り込み済みではなかったようじゃな。実戦を繰り返して精進するんじゃよ。」
とたん宙に投げ出される私。
そう、もちろん空中では身動きがとれない!
追撃を加えるべく、アレスさんもこちらへ翔んだ。
剣を振りかぶったアレスさんが迫る。
オカリナや他の生徒たちも思わず目を覆う。
その時だった。
『フレイムストリーム』
え、何?
『いいから。フレイムストリーム。唱えて。』
何物かの声。だが危機はもうそこまで迫っている。
言う通りにするしかない。
「フレイムストリーム!!」
とたん炎の豪流が私の前から吹き出た。
それはアレスさんを飲み込むと、地面にしたたかに叩きつける。
「炎の……魔法?」
私は目の前に起こったことを飲み込めていない。
そしてこちらも驚きつつのフランが補足する。
「それも上位の魔法、よ。」
魔法をもろに浴びたアレスさんはよろよろと立ち上がって言う。自分で自分に回復魔法をかけながら。
「はーはっは!いやー、わしの負けじゃ。
空中で身動きの取れないのは、わしのほうじゃったとはな!
それにしても剣戟に足の捌きに加えて、これだけの魔法が使えるとはなんたる驚き。
嬢ちゃん、軍で働かんか?わしが口を利くぞ??」
軍。
……それだけはごめんだ。
命令遵守で厳しい隊律のもと動く兵卒なんかより、自由で気ままな冒険者が私には向いている。
「すみませんが軍で働くつもりはないんです……。
今日のこともどうか軍の方には内緒にしていただけると助かるんですが。」
なんじゃ、つまらんのう、とアレスさん。
軍のこともそうだが、対ボス無双のことが広まったらいろいろと面倒事に巻き込まれるに違いない。
私は対ボス無双のことはオカリナの中だけの秘密にすることにした。
その場にいたみんなにも、今見た戦いはビギナーズラックということで、どうかどうかと口止めをお願いして回った。
そうして無事、『対ボス無双』発動下での初戦は終わった。
するとシステム音が鳴り響く。
『アチーブメント、『初の撃破相手がボス』を達成しました。
あなたが初の達成者です。新たにスキルが付与されます。』
『レベルが7上がりました。新しく14ポイントがスキルツリーへ割り振り可能です。』
何々?色々起きすぎてよくわかんないよ!
「さっき聞こえた声も誰なのか分からないし……。」
『その質問、まとめておいらが説明するよ!』
なんの前触れもなくメグの前に現れた精霊?天使?のようなもの。羽が生え、2頭身でぷかぷかと浮いている。
びっくりしてつい腰を抜かしてしまったメグなのであった。




