電子レンジとミルク
最初からこうすればよかったのだと、電子レンジの前で腕を組んでいた。
庫内から漏れるオレンジ色の光。
つくづくと、理想を求めて本質を見失いがちな自分にため息が出る。
何を求めていたのだ。
ココアに。
カフェオレに。
ロイヤルミルクティーに。
言わずもがな。
最小公倍数なのか。
最大公約数なのか。
この場合は後者か。
ああ、難しく考えるのはやめにしよう。
そうだ、簡単なこと。
──私はただ、暖かいミルクが飲みたかっただけなのだ。
一定の低い音を出しながら、電子レンジは静かにマグカップを温める。
その場を離れてなにかをするほど時間はかからず。
しかしてその場で待ち続けるには、永い時に思えた。
腕を組んで右往左往。
福音は唐突に訪れる。
予想された残り時間が現れ、止まっていたかのような時間に終わりが迫る。
何が始まるわけでもない、終わるわけでもない。
温まったミルクが完成するだけの残り時間に、高揚と焦燥が募って。
泡立つ。
今まさに吹きこぼれようとする際に向けて、カウントは進む。
──5。
────4。
──────3。
────────2。
──────────1。
0。
待ちきれなかった子供のように停止音とともに扉を開け、マグカップに手を伸ばす。
カップから伝わる暖かさに強張った肩の力を抜かれ、後ろ手に扉を閉じた。
急かされるようにリビングに滑り込む。
ソファに沈んで、半分口を開けたままテレビを見ていた彼女の肩を小突いた。
少し不機嫌そうに振り返った顔を覗き込んで、一口、ミルクを飲む。
甘い。
思わずほころぶ口元に、邪魔された彼女が一層不機嫌そうな顔で見上げていた。
その頭を、少しだけ乱暴に撫でる。
最初からこうすればよかったのだと、彼女の前でほほ笑んでいた。
「なぁ、結婚しないか」
──私はただ、彼女と過ごしているこの時間が、たまらなく愛おしかっただけなのだ。