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3 『聖なる池』1

 昼前にルクソールへ着いた。


 マヌアたちの時と同じように、女性ガイド、男性運転手が沙良を待っていた。女性ガイドはアレキサンドラと名乗り、運転手をムハンマドと紹介した。


 沙良はアレキサンドラとムハンマドそれぞれと握手を交わし、車に乗り込んだ。


「ホテルに行く前に、デンデラ神殿に行きましょう。一時間ぐらい走ります。デンデラにある壮麗なハトホル神殿は、クレオパトラ縁の神殿です。彼女と彼女の息子の巨大なレリーフが見事です。期待していてください」


「はい」


「スケジュールの確認をします。今日はデンデラに行って終わりです。お疲れでしょうから、ゆっくりお休みください。明日はテーベに入り、カルナック大神殿とルクソール神殿を見学します。それ以外の時間はフリーなので、博物館の見学やショッピングをなさってください。さらに翌日はネクロポリスに行きます。王家の谷です。三日後からはクルーザーに乗り、アスワンまでクルージングをしながら向かいます。途中、エドフとコム・オンボで下船して神殿を見学します。アスワンに到着したらホテルに移って、ダムやフィラエ島にあるイシス神殿を見学します。さらに翌日、飛行機でアブ・シンベル神殿に行きます。アブ・シンベル神殿が終われば、その足でカイロに戻っていただきます」


 盛りだくさんだ。沙良は頷いた。


「わかりました」


「その日の朝に、一日のスケジュールを確認しますのでご安心ください。移動が多いので、夜はゆっくり休んでくださいね。サラさんは一人旅だから夜更かしされることはないと思いますが」


 アレキサンドラの話を聞いているうちに車は目的地に到着した。


「着きました。デンデラです。ここから少し歩きます」


 周辺は観光客で賑やかだった。沙良はアレキサンドラと一緒に、デンデラのハトホル神殿をくまなく回り、クレオパトラの巨大なレリーフを見上げた。


(これがクレオパトラかぁ)


 息子と並んで刻まれているレリーフのスケールの大きさはもうため息しか出ない。沙良は言葉なくしばらく立ち尽くしていた。


 そして夕方、ホテルに案内された。


 翌朝。


 カルナック大神殿にやってきた。


 巨大な石造建造物にも見慣れ始めていた沙良だったが、カルナック大神殿はエジプトの神殿の中で最大であると言われるだけあり、大きさといい、壮麗さといい、素晴らしいものがあった。レリーフも細かく、とにかく壮大だ。


「すごいぃ!」


「カルナック大神殿はアメン神を祭っていることもあり、多くのファラオが補修や拡張を行った荘厳な神殿です。それだけ神事に大切な場所であり、聖なる場所として尊重されていました」


 巨大な石柱を見上げる。


「トトメス一世、二世、三世、ハトシュプスト女王、アメンヘテプ三世、ラムセス一世、二世、三世、プトレマイオス二世、三世、ティベリウス王など、第十八王朝からおよそ二千年間にわたって、多くのファラオが手がけました」


 沙良は感嘆しながら神殿を見つめている。石柱だけでなく、壁という壁にレリーフが刻み込まれていて、美しかった。


「ここにあるスフィンクスはライオンではなく羊なんですよ」


 案内された参道の両側には、羊の頭をしたスフィンクスが並んでいる。頭の壊れたものも多いが、きれいなものも幾つかあり、それがまたかわいかった。


「へぇ。スフィンクスってみんなライオンだと思ってました」

「崇める神によって違ってきますからね」


 アレキサンドラは説明しながらドンドン進んだ。


「神殿内はギッシリとレリーフで飾られています。これほど見事なものは類を見ません。この巨大な石柱は全部で一三四本あります。そのすべてに細かな細工が為されて素晴らしいです」


 ゆっくりとくまなく回り、やがて二人は『聖なる池』のほとりにやってきた。


 休憩するには景色もいいし、吹き抜ける風が心地よい。多くの観光客たちが一息つきに集まっていた。


「ここにはスカラベの彫刻があります。その周りを七回廻れば、願い事がかなうと言われています。後でサラさんも廻ってくださいね」


「七回も廻るんですか? 目も廻っちゃいそうですね」


 そう答えた時だった。


 突然肩から斜め掛けにしている鞄がズン! と重くなったのだ。


「!」


 沙良は声を出す間もなく、いきなり激しく下に引っ張られた。


「サラさん!」


 アレキサンドラの悲鳴が辺り一面に轟き渡った。


 沙良の体は激しい水飛沫を上げつつ、背中から『聖なる池』に落下した。


「サラさん!」


 周囲にいる観光客たちも口々に叫び、助けを求めた。


 辺りは騒然となった。監視員たちや警備員たちがバラバラと集まり、沙良を助けようと動き始める。


 落ちた沙良の体は浮き上がってくることがなく、それほど汚れてもいないのに、まったく姿を見ることができない。


『女の子が落ちたんだ!』

『確かに見ました! 間違いなく落ちました』

『東洋人だ。東洋人の女の子だった!』


 いろんな国の言葉が飛び交う。


 観光客たちの証言を頼りに水の中に潜る警備員たちだったが、沙良の姿を確認することはできなかった。


 周囲が騒然となっている頃、水中の沙良は逆に茫然となっていた。沈んでいく自分を感じていた。なにかが体を引っ張っている気がする。


(なに、この力?)


 下を見ると、底と思われる部分がほんのり光っているような気がする。


(池の底が光ってる?)



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