1-1. 引き受けたくない①
聖女シェーナが、政略のためにその座を追放され、貴族たちの前で王太子から婚約破棄を言い渡される ――
ラズールがその予定を聞いたのは、当の聖女の誕生日パーティーが開かれる直前、国王専用のトイレの中であった (ちなみに誰もふざけていない。国王専用のトイレは、王宮随一の豪華で清潔で快適で完璧な密室なのである) 。
海軍大佐のくせにこっそりエロ小説家もしている彼はもともと、執筆優先でパーティーのほうは欠席するつもりだった。ミルクくささが残っていそうなお嬢さんの誕生日パーティーも気にはなるが、〆切は守ったほうがよいからだ。
だが 『来てくれなきゃ海軍の動力部にいるトマスくんを、キミのパンツ盗んだカドで軍法会議にかけちゃうけどいいの? 』 と叔父である国王から脅しをかけられてしぶしぶ出向いたところ、パーティー会場に入る前に国王の侍従に呼び止められて専用トイレに連行、もとい案内されたのである。
(そもそもトマスくんの件は本人に2度としない旨を約束させて不問にしたはずなのに、なぜ国王が知っているのだろうか)
―― 個室の中でズボンをはいたままトイレにまたがった国王は、王冠でこりまくった首をコキコキと回すのと白髪の多くなった頭を抱えるのとを半々で繰り返していた。
「あのね、ボクの息子ちゃんが、抜け駆けしちゃったのよ、ラールくん。聖女の地位追放と婚約解消のことはまだシェーナたんには教えないように言っといたのにさあ! わざわざ謝りに行ったのよ、あの子ったら! そのうえ自分がヘイトかぶってシェーナたんの身の潔白を証明するために、あえて婚約破棄宣言するだなんていうのよ! 理由はどうあれ今日はシェーナたんの誕生日なのに! 頭おかしいと思わない? 」
「叔父上よりはまともなのでは? 」
「おかげでね、シェーナたんはあっさりサックリ、次の引き受け先を自分でさがして! とある修道院を選んじゃったわけ。まずいでしょ、わかる? 中央神殿の聖女が修道院よ修道院! …… どうしてシェーナたんもまた、あんな考えナシな引き受け先を選んじゃったのかしら…… こっちはちゃんと次の婚約者選んであげる予定だったのに! 」
「修道院は一種の流行だからでしょう。最近の大衆小説では、虐げられた令嬢の5割が修道院に行くそうですよ」
「もう…… 修道院ってそもそも、フェニカ光神教の施設じゃん? そこにさ、都合で地位追放しちゃたとはいえルーナ神殿の聖女が行くって、マズすぎるでしょ!? いくらウチがゆるゆるの多神教だからって……! 」
国王のいう 『次の婚約者の予定』 とは、すなわちラズールである。少し前から打診は受けていた。
しかも、それをどこから聞きつけたのか、公爵家の執事と侍女長はすでに 『奥様』 につけるメイドの採用を始めてしまっている ――
だがラズール自身には罷免された聖女を引き受ける気などまったく無く、のらりくらりと断り続けていたのだ。
「 ……………… 」
ラズールは腕組みをして国王を見おろし、口にすべきことばを探した。
彼は少年のころにとある経験をして以来、感情というものがほとんど知覚できなくなっている。
現在その胸中は、いわば風すら吹かぬ枯れはてた砂漠 ――
当然、コミュニケーションには不利であるところを、はるか昔のまだ感情を知覚していたころの記憶で補っているのである。
『このシーンではこう言うべき』 ことを、感情ではなく記憶と理性で判断しているのだ。
「ざまぁ見なさい、叔父上」
うっ、とひるむ国王。
彼には25年前、お互いに憎からず思っていそうだったラズールと彼の娘である王女との婚約を政略で無理やりぶち壊した負い目がある ――
だが、すぐに威厳を正した。トイレの上でだが。
「それでだね、ラールくん。王妃が幾人かの女性たちの意見を取りまとめてくれた結果なんだけどね、シェーナたんの新しい婚約者、やっぱりキミ 「お断りです」
「そんなぁ! 即座に断らなくても 「前からお断りしているはずです。地位追放に婚約破棄にこんな品行不良の爛れたおっさんと再婚約とは、いったい何の罰なんですか。ああ、そこに控えている侍従のダミアンくん。陛下に突発性認知症の疑いが出たのですぐに宮医を呼んでくれたまえ」
「いや違うからダミアンくん! そこでまじに医者呼びにいったりしない! …… ねえ、ラズール。キミだってそろそろ、結婚してもいいでしょ? これ以上トシとるとさすがにマズいじゃない、ねえ? 」
「余計なお世話です。大切なものは2度と作らないと決めている。彼らが不幸になりますのでね」
「ふうん…… 大切なものが不幸に、ねえ…… 」
これこそまさに異世界からこの国に転生してきた者がしばしば言う 『厨2』 的な思い込みというものであろう、と国王は考えた。
そもそも、目の前で国宝級の不機嫌顔をさらす齢40のこの甥に 『大切なものを作らない』 というのがまず無理なように、彼には見える。
「そういえばさー、突然だけどルーナ・シー女史ってキミとも親交あったよね? 彼女、以前からちょいちょい王族不敬な言動が目立つと思わない? 」
「彼女を罪に問うなら、ロティから一生絶交される覚悟でなさるんですね。彼女は僕よりむしろ、ロティと親しいですから」
ロティとは国王の長女、リーゼロッテ王女のことである。
その昔、隣国のマキナ王家と政略結婚するためにラズールとの婚約を解消したひとだ。だが革命でマキナ王家が滅んだためにその縁談もまた自然消滅して、今は国内で侯爵夫人をやっている。
ちなみに、マキナとの縁談がなくなってもラズールとの婚約がもとに戻らなかったのは、婚約解消後の彼の素行が悪くなりすぎたためだ。
「ふん…… じゃあ、キミがちょくちょく通ってる趣味の悪い場末の娼館。女主人がファラザっていったっけ? そこに近々、原因不明の出火が起こっても良い 「僕に殺されたいんですか、叔父上? 」
「じゃあやっぱり…… 海軍動力部のトマスくんを上官の私物窃盗の罪で 「やめなさい! 」
「…… 鳥肌立てるくらいに嫌悪してるんだから、別にいいじゃん」
「鳥肌は単なる生理的反応ですよ、叔父上。
いいですか ―― トマスくんの実家のベーム男爵家は現在、現金収入のほぼ8割をトマスくんの稼ぎに頼っています。軍法会議にかけられたら免職は確実…… あなたはトマスくんの年老いた両親にすりきれたカーペットまで売り払わせたうえ、あの家にたった2人しかいない、すぐサボりたがるが給料低いから文句は言えない使用人を路頭に迷わせたいんですか。彼らに次の雇い主など現れるはずもない」
「えーだってさー。かわいい甥っ子のパンツ盗んだヤツとその家族だよ? 見つかったときには、彼、ひそかに着用してシコってたんでしょ? ヌキかたがヘンタイっぽくてこわーい。ぶるぶる」
「 そ れ で も ダ メ で す 」
「…… よく、それで 『大切なものは作らない』 とか言えるよねー、ラールくんったら」
「当然です。僕にとっては現実のすべてがどうでもいい」
「えっ、ほんとうに」
こと人に関しては驚異の記憶力を有し、迷惑をかけられても際限なくかばいながら 『どうでもいい』 と言い切る ―― これが厨2こじらせ的なやさぐれでなくて、なんだというのだろう。
だが、いいトシして恥ずかしくないのかな、とは国王は思わなかった。
かつて政略でヒドい目にあわせたことはあったが、彼は個人的にはこの甥を愛している。
ラズールは何歳になっても不良少年のようなメンタルを抱えたク◯面倒な男だが、そろそろ卒業して幸せになってほしいのだ。
「じゃあ聖女シェーナたんとの婚約、ヨロシクね。あっこれ命令だから」
「ですから僕は知りません」
「あっそ。じゃあ、トマスくんは軍法会議、ルーナ・シー女史は王族不敬罪で事情聴取、ファラザの娼館は不審火で焼け落ち 「今すぐ殺しましょうか、叔父上? 」
「できるもんなら、やってみなー? ってね」
ラズールが国王をにらみつけ、ちっと舌打ちしてみせたとき。トイレのドアの外から声がした。
「おおおおおっ! 公爵閣下! ワタシからもお願いいたしますぞ! 娘は、シェーナは……! ここで引き受けていただかなければ、修道院で一生、ひとり寝の枕を涙でぬらすミジメな生活に……! 」
そういえばトイレに入る前に、人が膝を折って丸まった形になった不審物がいたな、と思い出すラズール。
どうやら聖女の実の父親が国王に嘆願に乗り込んできていたようだ。
―― 聖女はもともと隣国フェニカの神職系貴族の血筋だったが、迫害を受けて曾祖父の代にルーナ王国に移り住み、平民として貧民街で暮らしていたと聞いている。手の甲に女神の印であるあざが発見されたために聖女に任ぜられたのだ。
そのとき父親にも男爵位と宮廷役人の職が与えられたわけだが ――
娘が聖女になったことでやっと手に入れた地位を一代だけのものにしたくない、といったところだろう、とラズールは父親の心境を推測した。
「お父さん…… 何も、結婚だけが人生ではありませんよ」
「お父さんなどともったいないぃぃ! ヴォロフと呼び捨てで結構ですぞ、公爵閣下! 」
「それに、彼女なら、聖女でなくてもツッコミ専門のコメディアンとして人気者になれるかと」
「閣下……! もも、もしや、娘のことをご存知で? 」
「ええ。6年ほど前に、暴漢に襲われかけたところを助けたことがありますが」
「そっそれだ! 閣下、実は……! それ以来、娘は閣下に恋い焦がれておりましてですな。部屋じゅうに閣下のブロマイドを貼って、毎日、話しかけておるのですぞ! 」
「ツッコミの練習なのでは」
「いやいやいや、それはもう、熱烈に! 閣下への愛を! 語りまくっておるのですぞ! 」
「よし、じゃあ決まりだね、ラールくん。シェーナたんと婚約、これ命令」
「公爵閣下ぁぁぁ! ぜひにぜひに、シェーナをお願いいたします! 」
トイレの上には無茶な命令かましてくる国王。外にはお願いを泣き叫ぶ不審物あらためヴォロフ男爵。
―― このシチュエーションを過去の感情にあてはめるなら、とラズールは自身の記憶を検索し、一瞬で答えを出した。すなわち。
(めんどくさいね)
うざいおっさんたちに (自分もおっさんだが) 、たかだか婚約程度で抵抗するだけの気力はラズールにはなかった。そして、政略で一方的に次々と婚約者を変えられる聖女が気の毒になってもいた。
結婚が幸せで婚約者がいないことが不幸などと、いったい誰が決めたのだろう。
ためいきをついてみせつつ 「…… かしこまりました」 とうなずけばまた、トイレの内外から歓声があがる。やはり、めんどくさい。
「条件があります。婚約は暫定であり、彼女にふさわしい相手が見つかるまでの間のみです」
「えーっ、ラールくんでいいじゃん! 代わりの人なんてボク、探す気ないけど? 」
「こちらで探しますよ。彼女を幸せにできる者なら、相手は王族でなくても別にいいでしょう。政略で罷免した聖女に未練がましい真似はダサいですよ、叔父上」
「だってさ…… ルーナ女神様の手前さ。 『シェーナたんの聖女の地位は都合があって取り上げちゃったけど王族とちゃんと結婚しますよ。実質は聖女扱いしてますよ! 』 って形にしといたほうがいいよね。それに、実際いい子だしさ」
「…… 僕は、聖女の印だとかいうあのアザは単なる神の気まぐれ以上のものではないと考えますがね」
「ちょっと王族がさらりと女神否定発言しないでくれる、ラールくん? 」
「否定なんてしていませんよ。ただ、聖女をクビにする口実が前の冬の流行病というのは、横暴だと考えてはいますが。そもそも神は歴史上いちばんの殺戮者ではありませんか ―― あの流行病も恵み深きルーナ女神様にとっては単なる思いつきに過ぎなかったかもしれぬというのに、その責任を聖女ひとりになすりつけるとはね…… 政略のためにはなんでも使うお歴々の体質は、変わりませんな」
「あれ? もしかしてラールくん、怒ってるの? 」
「とんでもない。冷静に皮肉っているだけです。では、失礼しますよ。王宮ホールに行かねばなりませんのでね。まったく、王太子も…… 女の子をみなの前で婚約破棄するなど考え無しもいいところだ」
「いや、ハインツにはハインツなりの気遣いというのが、あってだね。あれなんか最初と言ってることが逆転してないボクたち? やっぱり気が合う肉親どうしだよね? ね? 」
「うっさいだまりなさい。そんなもの、僕にも彼女にも、どうでもいいことでしょう」
すべてのことがどうでもいいと公言しながら、他人 (特に女性) には親切。それがラズールという男である。
凹まない程度の力で扉を蹴り開ける彼を、国王はトイレにまたがったまま、慈愛深く眺めた。
「あのさ、ラールくん。結婚式が終わるまではキミ、長期休暇をとることになってるからね? 」
「僕を実質退職に追いやるおつもりですね」
「いや、そうじゃなくてさ……。もしね、キミがさ、もし、シェーナたんのことが気に入ったらさ…… キミもそろそろ、幸せになっていいんじゃないかな、って…… 」
「それも国王命令ですか」
「え…… いや…… うん、そーそー命令! 」
「でしたら、承りかねます。命令違反の処分は、お好きにどうぞ」
「………………! 」
今度こそ本気で絶句した国王にイヤミたらしく優美な礼を見せつけ、ラズールはトイレをあとにした。
足元では、再び不審物と化したヴォロフ男爵が、平伏したままの姿勢で片手だけを上げ、なにかの紙をひらひらと振っている。
「公爵閣下……! まことに光栄でございます! つきましては、大変におそれいりますが、こちらの婚約届出書にさささ、サインをっ……! 」
「準備がいいね」
「それはもう! 娘のためですからぁっ! 」
「しかし、お嬢さんの署名がありませんね」
「ああああっと、それは……! サプライズ! そう、サプライズで喜んでもらおうと! なにしろ今日は、誕生日ですからなぁ! 憧れの公爵閣下と婚約とか、いやーんお父様あたし嬉しすぎて泣いちゃう、と最高のプレゼントに……! 」
「そのようなタイプには見えなかったが…… 」
「あっもうこんな時間です! 急がないと、婚約破棄が始まってしまう! 娘を救えるのは閣下しかおられませんとも……! 頼みましたぞ、公爵閣下! 」
―― なんにしても、聖女に最適な結婚相手が見つかるまでのことだ。
しかたなく婚約届にサインし、聖女が地位追放と婚約破棄を宣言される予定のパーティーが開かれている王宮ホールへとラズールは足を急がせた …… が。
それも、一瞬のことだった。
王宮には顔見知りの侍女やメイドがたくさんおり、彼女らは道をあけて礼をとりつつも、ラズールのほうをチラチラとうかがっているからだ。
「やあ、ブリギッテ。髪型を変えたね」 「はい。ヘンではないでしょうか? 」 「いいや。よく似合っていてかわいいよ」 「うふっ。かわいですか? ほんとうに? 」 「もちろんだよ。ああ少し毛がほつれているね…… よし、これでいい」 「あっ…… ありがとうございますぅ…… 」
「元気そうだね、ツェツィー。さては、彼と仲直りできたのかな? 」 「はい! 彼がほら、このペンダントくれて謝ってくれたんです…… もしかして、閣下の入れ知恵ですか? 」 「さあ、なんのことだろうね? 」 「…… ありがとうございます、閣下」 「さあね」
「どうしたんだい、ギーネ。僕の顔になにかついてる? 」 「いえ…… 閣下が聖女様と婚約なさるとか、侍女のかたがたが噂していて。真実の愛で王太子殿下から略奪したって、ほんとですか? 」 「もちろん。彼女にはひとめぼれだよ、僕は」 「うっそぉ! きゃぁぁあ! 素敵! お幸せになってくださいね! 」 「ありがとう。そういえば、近々、騎士団の公開演習があるね。リュクスくんが、君は来るのかと気にしていたよ」 「えっ…… リュクスさまが…… どうしよう。あたしオシャレなんてなにも…… 」 「…… ロティの侍女にでもきみのことを、頼んでみてあげよう。自信を持つんだよ? きみはそのままでも、じゅうぶんかわいいのだから」 「本当に!? ありがとうございます、閣下! 」
「ああ、掃除中なのだから、わざわざ礼などとらなくてもいいよディート。頑固そうな汚れだね。どれ」 「ちょっと、公爵閣下!? やめてください! ほかの子たちにやっかまれちゃうから! 」
―― そう。ラズールは、誰に対しても見境なく親切であったのだ。それも、ハタ迷惑なほどに。
こうなった原因は、彼の胸中砂漠にある。
自らの感情を知覚できないために人間らしい喜怒哀楽とは縁遠いところにいる彼はいわば、常に感情飢餓の状態だ。したがって、他人の感情はすべて、彼にとっては御馳走のようなものなのである。
彼が特に好物にしているのは、優しい甘いキラキラした楽しい ―― 喜怒哀楽でいえば、喜と楽にあたる感情。
そうした感情を間近で味わうことを狙っているから、彼は他人に異様に親切にするのだ。
もっともこれだけであれば、ただのめちゃくちゃ良い人、とも評価できよう ―― だが、しかし。
親切にして返ってくる感情はいずれも、しょせんは他人のもの。
味わっても満たされるのは一瞬だけなので、次々とエサを求めて他人に際限なく親切にしてしまう ――
言うなれば彼は、感情を喰らう善意モンスターであった。
「ん? ほかの子も手伝いが必要なのかい、ディート? …… 残念だが、さすがにそれは時間がないな。かわりに、みんなで分けるといい」
「わあ、ヴェルヴェナエ・ドゥルシスのチョコレート! ありがとうございます! 」
メイドたちにあげるオヤツも、もちろん常に最高級品 ―― 徹底した親切の垂れ流しぶりから、彼についた称号は 『国一番の女たらし』 。
これは彼がことに女性に親切であり、その結果増えた女性からのアプローチを、後腐れなく相手が遊びと割りきっている場合に限り誰かまわず受け付けたせいである。
ラズールにとっては 『理由もないのに断ると女性に恥をかかせるから』 という感覚なのであるが、当然ながら、人々の ―― 特に男性貴族たちからの評判はよろしくなく、やっかみも込めて女たらしの悪名をつけられてしまったのだ。
(ちなみに男性への親切が女性向けほどではないのは、ラズールが20歳前のきらきらしい美青年であったころに男女別なく優しさをふりまいていたところ、女性のみならず男性のなかにもなにかを誤解してトマスくん状態になる者が多数いたせいである。ラズールの嗜好的に男性は受け付けられなかったので、以降、男性への親切は自粛しているのだ。)
こうして、だらしなく親切を (女性限定で) 垂れ流しつつ、ラズールがゆっくりと王宮ホールにたどり着いたころ ―― 王太子による聖女の地位追放と婚約破棄イベントは、すでに始まっていた。
というか。
「―― はいはい。聖女解任ですね? きっちり承りました。では私はもう、王太子様と婚約している必要もないわけで、ついでに婚約破棄ですね? 」
「サクサク話を進めないでくれ……! 」
聖女が、王太子に詰め寄り気味に地位追放と婚約破棄をもぎとっていた。
―― なんだ、これ。