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サモン/ドライブ  作者: 文大事
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第1章 3.入れ墨の男

     3.入れ墨の男


 山村と九条の二人は、とあるフィットネスクラブの事務所に来ていた。

「ここがクォンライ財閥の、前線基地だということは分かっている。責任者をだせ。今すぐ!」

 山村は一般の客もつかう扉を開けるなり、そこにお客がいるにもかかわらず、そう凄んでみせた。

 若い受付の女性が戸惑い、怯えていると、店の奥から出てきた筋肉質のインストラクターが、不審者とみなして山村のことを追いだそうとする。でも、山村は左手の甲をさしだし、そこに浮かぶ紋様をみせた。

「警察……公安だよ。大人しく責任者をださないと、もっと酷い捜査をするぞ」と、まるで意に介さないばかりか、さらに脅してみせる。彼のやり方は公安……ヤクザのそれだ。

 それでも警察の肩書が恐ろしかったのか、奥へ通され、四畳半程度の従業員の待機所……みたいなところで待つ。ほどなくして、ひょろ長で、顔の長さを少しでも隠したいのか、丸メガネをかけた男が現れた。

「公安の山村さんですか? 責任者の飯島です」

「在日か?」

「いえ、この国の生まれですよ」

 微妙な言い回しだけれど、答えになっていないそれを聞いても、山村は動じずに話し始めた。

「ここが、クォンライ財閥の前線基地だってことは調べがついている。お前たちが敵対する組織、個人の情報が知りたい。理由は分かるだろう? トンガン公司が襲われた。その捜査をしている」


「わ、私たちはトンガン公司とは……」

 渋るひょろ長の男に、山村は顔をこすりつけんばかりに寄せた。

「なぁ、家宅捜索をしてもいいんだぞ。何なら数日、数ヶ月をかけ、念入りに……。お前たちの関連組織、団体も、だ。別に、お前たちをパクろう、というんじゃない。オレは面倒な捜査をサボりたい。お前たちは、自分たちの組織を襲った奴を懲らしめたい。これはウィン・ウィンの取引だろ?」

 相手も素人ではないようだけれど、山村とは年季がちがう。飯島は静かにポケットから小さなチップをとりだす。

「これは我々が把握する、敵です。だが、これがすべてでも、絶対でもない。今回の事件と関係あるか、さえ……」

「当然さ。でも、すんなり出てきたってことは、お前たちも動こうとしていた、ってところだろ?」

「身内がやられたら、やり返すのが掟」

「三合会の流れを汲む、お前たちらしい考え方だが、この国でそれをすれば、犯罪者として取り締まる。パクられたくなければ、仕返しなど諦めて、俺たちに協力するんだな」

 山村は念を押すよう、そう威圧する。脅しと、宥め透かしを織り交ぜた公安らしい駆け引きで、収穫を得て、彼らはそこを後にした。


「相変わらず、汚いやり口ですね」

 地下駐車場に下りてきて、九鬼が無表情でそうつぶやくと、山村はチップを九鬼に渡しつつ「キレイも汚いもない。結果がすべてだよ」

 車にのりこむと、そこにチップの挿入口もあるけれど、小さなモニタ付きの端末を介して、チップを挿しこむ。

 すると、すぐに「ビーッ‼」という警報音がして、九鬼もため息をつく。

「やはりウィルス付きです。ご丁寧に、そのウィルスに感染しないと、中を開けられない仕組みです」

「かの国らしいやり方だな……。できるか?」

「この程度は、定型のあいさつ文のようなものです。問題は、一度壊してそれをどこまで復元できるか……、できました」

 九鬼はその小さな端末でワクチンをくみ上げ、あっさりと突破してみせた。彼女はホライゾン家のメイドであり、かつ召喚士として、特公に籍をおく変わり種であり、ハッキングの技術も有していた。

 開いたリストを、車に備わったモニタに映しだす。

 でも、一部の組織名が文字化けを起こし、読めなくされていた。

「これはデータが壊れたのではなく、意図的にマスキングしたようです。恐らく自分たちにのみ通じる、符牒にしたのかもしれません」

「外部流出にそなえ、文字化けさせた……? だからあっさり、シャッポを脱いだのか……?」

「シャッポを脱ぐ?」

「シャッポは帽子。帽子をとって首を垂れる、降参という意味だよ。もっとも、今回はそう見せかけただけだが……」

 若い彼女に、慣用句だと思ってつかった言葉が通じない。山村も頭を掻いた。


 そのとき、彼女たちの乗る車をノックする男がいた。

 毛糸の帽子とマスクにより、顔のほとんどを覆っており、黒い長袖のTシャツの袖先、その手の甲には入れ墨が彫られていて、その紋様をみせびらかすよう、車の窓にぐっと押し付けている。

「逃げろッ!」

 山村は車から飛びだした。その途端、車ががくんと大きく揺さぶられ、ドアの一枚が引き剥がされていた。

「九鬼⁈」

 山村は銃を構えて、入れ墨男に向けると、そこに九鬼をさがす。ただ、九鬼もすでに車をとびだし、距離をとって詠唱をはじめている。

 見ると、入れ墨男の傍らには、全長二メートルを超え、イノシシのような四つ足の体に、背中辺りからキノコのような、傘になったものが生え、そこが顔であるらしい召喚獣がいた。

「顔は、あの傘の部分か……?」

 山村はすぐに魔力銃を発射する。ただしそれは、召喚獣ではなく、召喚士に向けてだったけれど、その召喚獣が前に立ち塞がった。入れ墨男は車の影へと隠れ、イノシシ型の召喚獣が、山村に向かって突進してくる。

 九鬼が詠唱を終えるまで、山村が敵を引きつける。召喚士でない彼は、召喚獣と戦う術をもたないけれど、時間稼ぎぐらいなら……。魔力銃は、突進する勢いを弱めることぐらいなら、できるはず……。

 しかし、イノシシ型の召喚獣の勢いは凄まじく、魔力銃の銃弾があたっても、山村が盾にした車を、先端につきでた二本の角のようなものを突き刺し、撥ね飛ばしてしまった。


 屈みこみ、小声で長いこと詠唱をしていた九鬼が、徐に立ち上がった。

 彼女も召喚士――。でも、サモンもドライブも唱えない。長い詠唱の中に、すでにそうした文言をふくむからで、魔法陣すら不要とする。

 言霊召喚――。でもそこに召喚獣は現れず、イノシシ型の召喚獣も、彼女に向けて突進していった。

「醜い召喚獣ですね。滅びて下さい」

 九鬼がそう呟くと、走っていたイノシシ型の召喚獣は、急に地響きをあげて倒れてしまった。全身が痙攣して小刻みに震え、キノコ状となった頭からは、激しく緑色の体液らしきものを噴きだす。

「相変わらず、恐ろしい召喚魔法だな……」

 痙攣する召喚獣に近づいた山村も、そういって額の汗を拭う。車の影に隠れていても、車自体を跳ね飛ばしてしまう相手を。一瞬にして地べたにはいつくばらせたのである。

 そして、召喚士である入れ墨男が隠れた車の裏へと回りこむと、そこで入れ墨男も同じように痙攣して倒れていた。

 サモン(召喚)とドライブ(操作)は異なる魔法だ。召喚するだけだと、召喚獣とパスがつながっていない状態。ドライブをして、初めて意思を伝え、思いのまま操ることができる。でもそれは五感をつなげることと同義だった。

 召喚獣が痙攣するほどの苦しみが、入れ墨男を襲った。手錠をかけると、そこには

麻酔針が仕込まれ、入れ墨男は気を失ってしまう。召喚魔法は強力であるため、身柄を完全に拘束し、安心して事情聴取ができりょうになるまでは、こうして眠らせるのが常識だ。

「こいつ……クォンライ財閥の手の者……か?」

「わざわざ駐車場で襲いますか? やるならビルの中でもできた。関与を疑われたくなければ、駐車場をでて襲うでしょう」

「逆……クォンライ財閥を狙う、パーティー会場を襲った犯人と同じ……もしくは仲間か?」

 山村も腕をくむけれど、もう一つ頭の痛い問題がのこっていた。

「車……廃車かな」



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