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サモン/ドライブ  作者: 文大事
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第1章 1.召喚士/召喚獣

   第1章


     1.召喚士/召喚獣


 転移したが、ここは異世界……?

 近未来といってもいいけれど、街並みはぼくのよく知るそれだし、きちんと西暦も通用する。暦では今、2001年であった。

 要するに、並行世界の少し前の時代に、ぼくは転移してきたようだ。

 多くの常識が共通するものの、科学技術はこちらの方が圧倒的に進化し、何よりここでは魔法が当たり前につかえた。かといって、魔法は物理法則を覆すほどの効果はなく、生活を少し便利にする程度だし、道具もそれに合わせている、といった程度の利用である。

 並行世界でも、大分前にその袂を分かち、遠からずといえど、近づくこともなく、並行をたもったまま今に至る……といった感じだ。

 転移者であるぼくには異世界でも、読み手からすれば近未来作品として、それほど違和感もないだろう。そして、ここではぼくのような転移者が、そう呼ばれることはなかった。

 ぼくのことは、蔑みをもってこう呼ばれる。〝召喚の獣〟――と。


「本庁、特公のホライゾン 聖月です」

 ここで本庁というのは警察庁、特公とは特殊公安機動警察隊をさす。

 相模県警に属する彼らからすれば、そこに現れたのが若く、見目麗しい少女だったことで嘲り、蔑視の感情で場が支配される。この異世界でも、この国の男尊女卑、中高年男性によるセクハラや、若者軽視が蔓延る。ただ本庁から派遣されたホライゾンが、この現場で組織上は上に立つ、というだけだ。

「こちらはバディの薬切 輝真」

 ぞんざいな紹介だけれど、誇大にされて色々と詮索、期待されるよりマシ……と、自分を慰めた。

「対象は?」

 仕事モードのホライゾンは辺りを見回すも、現況ははっきりしていた。恐らく現場責任者だろう、彼女に近づく高齢の男性は「東浜署の武藤です」と自己紹介し、奥にある扉を指さした。

「犠牲者は五人、ドライバーは見当たりません。暴れる召喚獣は、奥の会場に封じてあります」

 ここは港湾の近くにある高層のホテルで、その上層階にあるパーティー会場の前には、多くの警察官が中に向け、射撃をつづける。

 彼らが手にするのは、拳銃よりやや小さい、魔力銃(エッジガン)――。弾丸は所有者の魔力で、数十メートルも飛べば形を崩すほどの脆さだけれど、魔力が尽きない限り、弾丸は無制限で、連射も可能。反動による衝撃も少なくて、フルオートの拳銃よりも格段に便利である。


 その警察官たちが入れ替わりで、パーティー会場となった大広間の入り口から中に向け、魔力銃を撃ちつづける。

 人間なら一発で、意識を吹っ飛ばすものの、今は威嚇射撃、もしくはその威力で相手を押し返す力しかもっていない。

 聖月が中を覗くと、全高は三メートルほど、腕は左右に二本ずつあり、二本の足で歩く獣がいた。やや前傾姿勢で、前に突きだされた顔は硬質のマスクのようで、五つの切れ長の目が、放射状に配されている。口はなく、むしろそのマスクの下から血が滴るところをみても、マスク全体が口となっているようだ。

 襟足の辺りから上に、もう一本の首がのび、その上にもう一つの顔が乗る。それが辺りを監視するよう見渡すので、まったく死角がない。

 タイルを貼ったような、鱗のようなものが全身を覆い、パーティー会場のライトでキラキラと輝いて見え、華やかさに彩を添えるのも、血の惨劇となった状況にもよく合っていた。

 スパンコールのようなそれも血で染まり、手には食べ残しなのか、左右に一本ずつ人の足を握り、ふり回すたびに血を飛び散らせた。

 魔力の銃弾があたっても、傷一つ負うことはなく、威力によってやや歩後退するぐらいだ。警察官たちも、何とか会場から出ないよう防ぐのが精いっぱい……という状況だった。


「どこの世界の魔獣だろう?」

 ぼくがそう呟くと、ホライゾンは「どこだって構わないでしょ。性質は狂暴、召喚士の頸木を離れた、野良ってだけよ」と応じ、左手には特別製の魔力銃をにぎり、右手を前にさしだした。

「サモン!」

 窓を拭くよう右手を左右にふると、そこに光とともに浮かび上がったのは、座布団程度の広さに描かれた魔法陣――。複雑な紋様は、いくつもの円と文字を組み合わせたもので、手直しをするよう、一部を消して描き直し、さらに「ドライブ!」と、ちがう詠唱をした。

 すると、彼女の前には牛頭で、二メートル近い大きさの、斧をもつ人型の異生物種が姿を現した。

「行け! ミノタウロス!」

 斧を手にしたミノタウロスは、怖れることも知らず、パーティー会場へと突っこんでいく。


「互角……否、押され気味?」

 傍観者のようにそう呟くぼくに、聖月は「あなたも働きなさい! 市民権を得たくないの⁈」と恩着せがましく言ってくる。

「生きるために市民権を得る。市民権を得るために、命を懸ける……。何か……矛盾なんだよなぁ~」

 ぼくはそう呟き、渋々と立ち上がった。

 ミノタウロスは苦戦中――。聖月は自らサポートするため、銃を構えて突入し、化け物の動きを、銃をつかってけん制する。

 力は互角、素早さはミノタウロスの方が上だけれど、二本の首と、四本の腕はかいくぐるのも大変だ。さらに人の足をこん棒のように振るって攻撃するのだが、ミノタウロスはその攻撃をより大きく避けようとする。

 しかも、ミノタウロスの斧があたっても、化け物は少々の傷ならすぐ回復し、その再生力も厄介だった。

「やれやれ……。ぼくもミノちゃんは好きなので、加勢しますよ」

 会場は、噎ぶような血の匂いばかりでなく、饐えたような鼻につく匂いもする。血のパーティーとなってしまった修羅の巷に、ぼくはまるで買い物をするかのような気楽さで、足を踏み入れた。


「サモン、ドライブ!」

 ぼくが連続でそう呟くと、右手のヒジから先をつつむよう複数の光が浮かび、その一つ一つが魔法陣だ。右手のヒジから先は、鋭い爪をもつ巨大な化け物、鬼のそれへと代わった。

 さらに右目の周りにも魔法陣が浮かび、眼球は縦に細く、鋭くなり、虹彩は金色、全体は赤く血に染まったように鬼のそれに変化する。

 体の一部を、化け物と化したぼくが、ゆっくりとパーティー会場に入ると、その異様な殺気を感じたのか、化け物も人の足をふるってぼくへと襲いかかってきた。しかし見開かれた右目が、まるでその動きをスーパースローでも見るように感じさせる。ぼくは簡単に右手で人の足をうけとめると、一瞬にして肉が弾けとび、骨すら粉々に砕け散ってしまった。

 恐怖したのは化け物の方だった。慌てて飛び退こうとしたが、ぼくの鬼の手が、前を向いたその顔をすでに鷲掴みにしていた。

 化け物が暴れても、右手は固定されたように動かず、右目はまるで値踏みでもするように、化け物の顔を覗きこむ。

「お前は……誰だ?」

 ぼくが意識して発したものではない。でもその尋ねに、化け物は恐怖したように硬直した。

 そして、正面に注意をむけたことで、背後に回りこんだミノタウロスが、斧を水平にふるって、襟足から伸びた首を刎ね飛ばす。

 鷲掴みにされた顔も、少しずつ形を崩していく。憐れな表情を浮かべ、泪すら流す化け物をみつめ、ぼくも呟く。

「悪いな。ぼくも召喚された獣なのに……」

 ぼくは彼らと同じ、召喚獣――。それが召喚獣を狩る、特公に属していた。



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