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06 出陣


 ユルいのは大歓迎だけど、当然それだけではダメ、それが異世界社会人のお約束。


 サイリ家一同、社会復帰計画、第二陣。


 満を持して家長、"若仙人"サイリ、出陣。



 いえ、満を持して、ですよ。


 決して最後まで呑気してたからではありませんよ。


 プリナさんはとっくに謹慎前のペースを取り戻していましたし、


 ちっちゃいペアはいつも通りあんな感じですし、


 必然的に最後に残っちゃっても、誰が僕を責められましょうか。



 で、今日は日勤です。


 お世話になっていたギルド関係者の方々に、まずは仕事復帰の挨拶回りを。



「行ってらっしゃい」


 はい、行ってきます、プリナさん。



 そろそろ行ってらっしゃいのご挨拶に、ちゅう、がプラスされても良いんじゃなかろうか、


 なんて、朝っぱらから不埒なことを考えながら、エルサニア王都へ。



 ……



 エルサニア王都、商業ギルドに到着。


 ギルドの中は、あいも変わらぬ賑わい。


 なんだか、ようやく帰ってきたって感じに、


 目頭が熱く……



 って、違うぞコレ、


 物理的に目がイテェ!



 職員さんたちが換気におおわらわ、


 警備員さんたちに取り押さえられているのが、約1名。


 これってもしかして、テロ!?



「サイリさん、こちらへ」


 ロミエスカさん、何ごとですか、これ。



 ……



 担当のロミエスカさんに連れられて、事務所脇の個室へ避難。


「すみません、せっかく来ていただいたのに、こんな状況で」


 何ごとですか、あれ。


 まさかギルドを狙った毒ガス自爆テロ。



「いいえ、さっき警備員に取り押さえられていた発明家さんの試作品が暴発したのですよ」


 暴発?



「護身用の催涙ガス発生魔導具とのことでしたが、ガス貯蔵具の強度不足で催涙ガスが漏れ出してあの惨事に」


 へえ、でも、悪くはなかったですよ、あれ。



「?」



 あれだけの催涙感は、商品化出来たら評判になりそうですし、ヒット作になるかも。


 そのためには、一般の人たちが普段持ち歩いて多少乱暴に扱っても大丈夫なくらいの強度アップが必須。


 もちろん、ガス貯蔵タンクだけじゃなく、外装も、ですね。


 いや、せっかくだから外装自体の見栄えを工夫して普段使い出来るようおしゃれ感アップで商品性を増して、訴求力アップ。


 有名デザイナーとかに依頼しちゃっていい感じにプレミア感に火がついたら、ぼったくりプライスでもお貴族さまたちに大ヒットの可能性すらアリ。


 ただ、あの手の護身グッズの問題は、襲う側も入手出来ちゃうってことなんですけどね。


 つまりは、襲う側と襲われる側が購入して2倍売れちゃう使い捨て商品ということで、売れ行きマシマシのメガヒットに!




「さすがは王都全ギルドのギルドマスターも一目置く、『無限ダメ出し監査アドバイザー』サイリさん、ですね」

「ブランクを感じさせない見事な慧眼、しかもあの一瞬で」


 うわっ、久しぶりに聞きますね、ロミエスカさんのそれ。


 勘違いしてこちらに貢いで、じゃない、持ち込みしてくる開発者は数知れず。


 さすがはシュープリームクイーンこと"誉め殺しの女王"ロミエスカさん。


 マスターのオルガナさんも頭が上がらないと言われている、商業ギルドの影の支配者、ですね。



「もう、サイリさんたら」

「それではまるで、私が商業ギルドを牛耳る"お局さん"みたいじゃないですか」


 いえ、こんな若くて綺麗な方を"お局さん"扱いなんてしたら、全ギルド共有の特殊処理班にひっそり"処理"されちゃいますって。



「まあ、お上手、うふふ」


 いえいえ、あはは。




 こういうアレな小芝居で場を和ませることも、外仕事を円滑に進めるための重要なスキルなのです。


 もっとも、僕の口がここまで軽く回るのは、家族友人やロミエスカさんくらい親しくなれた人たち限定ですけどね。


 内弁慶、で合ってましたっけ。



 そして、加減をわきまえずに暴走して、相手から愛想を尽かされるまでが、僕なのです。



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