05 呑気
そんなわけで、やがて起こりうる何ごとかに備えて少々警戒気味の、僕。
でも、そんなことはお構いなしに、我が家の乙女たちは今日も呑気に元気。
「これはこれで気持ちいいよねえ、フィグミさん」
『高いところは少し苦手なのですよ、フィナさん』
時は深夜、所は我が家のお庭。
たくさんの魔導ライトに照らされて、
ゆるりゆるりと飛んでおります。
あえて言うならナイトフライト。
あれが噂の新型飛行魔導具。
『試作型ミニチュアパーツ絨毯』
略称『シミージュ』
アリシエラさん製作の"妖精さんサイズ"で"ふたり乗り"の"空飛ぶ乗り物"です。
いえ、お話しを聞いた時は、もっとメカニカルな乗り物を想像していたのですが、
なんと言いますか、"ハンカチくらいのサイズの写真たてを横に寝かせたモノ"に、
おふたりが四つん這いで乗っているのですよ。
正確には、ハンカチ程度の大きさのふかふか絨毯の四辺を金属の細い枠で補強したモノ。
用途は、まさに魔法の絨毯。
ですが何せ、あのサイズ。
確かにアレで飛べそうなのは、あのおふたり以外にあり得ない。
ただ、飛んでる姿はどう見ても、
自由自在の空の旅、では無く、
お子さま向けの安全第一な遊園地のアトラクション。
まあ、おふたりが楽しそうならヨシッ、かな。
「このくらいのスピードだと、全然怖くないよねえ」
『怖いのは高さ、ですよ』
うん、本当にのんびり速度で飛んでおります。
それもそのはず、あの魔導具が出来ることは、上昇・下降と浮遊のみ。
前進移動する際はフィナさんの人力頼り、いや、妖精力頼り、なのです。
つまり、フィナさんの背中のちっちゃな羽根がパタパタするたびに微速前進、
おかげであんなスローペースな安全飛行魔導具に。
「そろそろ着陸しようか」
『では、操作を』
えーと、操作といいますか、フィグミさんが、乗っている絨毯を優しくぽんぽん叩いております。
そしてぽんぽんされるたびに少しずつ高度が下がるのです。
ちなみに、上昇したい時は、すりすりなでなでするそうですよ。
どこまでも平和な乗り物なのです。
「はい、無事に着地、っと」
「でも、これってもしかして、乗り物じゃなくてハンモックの親戚なんじゃないかな」
『でも、脚を伸ばすとはみ出しちゃいますよ』
やはり、来歴が呑気だから、あんなに呑気な乗り物になっちゃったのでしょうか。
元は、いわゆる魔法の絨毯なのです、アレ。
正確には魔法の絨毯の"切れ端"
……
元々の所有者、というか、発見者は、
ロイさんのご近所のおじいさん。
飼い猫とふたり暮らしの悠々自適な老後ライフを過ごしておられます。
ご趣味はにゃんこのお世話と骨とう屋巡り。
たまのお出かけは乗合馬車に乗ってヴェルクリの街へ。
おじいさんの今日の探し物は、寒がりにゃんこのための厚手の敷き物。
いつもの通り骨とう屋巡りをした後で、端切れが豊富な古着屋に行く予定。
骨とう屋の変わり映えしない品揃えをいつものように念入りに見てまわるおじいさん。
ふと目についたのは、大きな壺の下に敷かれていた、絨毯の端切れ。
大きさも厚みももこもこ感も、実ににゃんこ好みで良い感じ。
すっかりそれが気に入ったおじいさん、店主と交渉して格安で入手。
で、家に帰ってにゃんこの寝床のそばに敷いたら、おネコさまはそれなりにお気に召したご様子。
絨毯にすりすりしてるにゃんこに安心したおじいさん、夕飯の準備を始めます。
今日の夕飯はヴェルクリで買ってきたご馳走。
もちろんにゃんこにもご馳走をお裾分け。
いつものお皿にちょっと贅沢なねこまんまをたっぷり、
いそいそとにゃんこのところへ行くと、
ふわりと浮いてる絨毯の上にすやすやおねむのにゃんこ!
腰を抜かさんばかりのおじいさん、
にゃんこを降ろして絨毯を引っ掴んで、急ぎ村長さんの家へ。
にゃんこの安全が第一のおじいさんから絨毯を譲り受けたロイ村長、
まあ、この手のブツはあちらの領分、ということで、
ロイ村長から絨毯を渡されたのは、
ナイスバディネコミミ魔導具技師アリシエラさん、
考えることは当然、空飛ぶナニカ。
この端切れサイズで飛ばして楽しいモノは……
というわけで、空飛ぶ端切れ『シミージュ』爆誕。
はて、以前聞いた話しでは、『システマ』の技術を応用した新開発の安全装置を完備、
だったはずだけど、どっからどう見てもただの端切れ……
『これですよ、サイリさん』
これって、フィグミさんが背負っているリュックサック?
『危険が迫って来たら、ここのヒモを引っ張ると、安全な場所に『転送』出来るそうですよ』
なるほど、確かにちょっとだけ『システマ』っぽいですね。
って、あれ?
フィナさんは装備してないんですけど。
「僕は飛んで逃げられるし」
なるほど、とっても合理的、だけど何だか理不尽な……
そんな感じの新作魔導具『シミージュ』
まあ、ビュンビュン飛び回られてもちょっと困っちゃうし、
我が家の家風には合ってるのかも。
ちなみに、積載可能重量を聞いたら、おふたりから怒られちゃいましたよ。
いえ、知りたかったのはあくまで技術的な興味からで、
決しておふたりの体重がどうとかじゃありませんから。




