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さっきの手紙の

作者: 三駒丈路

「感染症の脅威は未だ収束の兆しを見せない。飲食店の方々のご心痛を思うと、記者である私も身を切られる思いである……と。ま、こんなもんかな」

 私は文書を保存して、伸びをした。例の感染症が蔓延してもう二年。収束するかと思えば変異を繰り返し、感染対策として様々な規制がされている。特に飲食店は直撃を受けており、そちらの関係者は大変だろうと本当に思う。でもまぁ、我々文筆業の者にとっては、対岸の火事なのだよなぁ。我々の仕事ができなくなるわけじゃないしなぁ……。


 などと、思っていたのだ。あの感染症に、とんでもない変異が起こるまでは。

 ある日、ある研究施設の研究員が感染した。通常のウイルスなどシャットアウトできる施設であり、生物の出入りなどない。感染など起きるはずのない場所だった。

 では、どのように感染したのか。導き出された答えは「情報感染」だった。あろうことか、かの感染症ウイルスは、ネットワークウイルスと融合変異していたというのである。

 いや、あれって全くの別物だろ? と、みんなが思ったが、他に考えようがないとのこと。我々も受け入れるしかない。


 そしてこの新感染症はさらなる変異を見せる。ネットワークを介さずとも、感染者が書いたり入力した文字を見るだけでも感染するようになってしまった。つまりは、ネットワークで情報を得たり誰かが書いた文字を見たりするだけでも、感染する可能性が出てきてしまったわけだ。この場合のネットワークには、テレビやラジオなどの媒体も含まれるらしい。……なんでもアリか。この感染症。

 そんなわけで、私は仕事ができなくなってしまった。文字を書くことが規制されてしまったら、文筆業はどうやって暮らしていけばいいのか。対岸の火事は、盛大にこちらに燃え移ってしまった。

 しかし、飯は食わねばならない。何かできる仕事はないかと探していたら「情報飛脚」という求人があった。

 何だろうと思い問い合わせると、ネットワークも文字情報も使えないので、重要な情報を言葉で伝言リレーして東京大阪間を走る、国の仕事だという。前の走者から聞いたことを憶えて次の走者に伝えるわけか。何というアナログ。江戸時代かそれ以前だな。

 だが、その仕事なら私にはうってつけだ。私は元陸上部だった。記憶力も良い方だと思う。私は志願し、採用された。


 そして、情報飛脚の仕事が始まった。前の飛脚から言葉を聞いて十キロ程度走り、聞いたそのままを次の飛脚に話す。言葉はセキュリティのため暗号のような意味不明のものなので、憶えるのは大変だったが、そのうちに慣れた。私の仕事は完璧なはずだ。

 ……だけど、東京大阪間で何十人かの伝言ゲームだからなぁ。ちゃんと伝わってるのか。

 その後、何十回何百回と私は情報飛脚をこなした。しかし、こなしているうちに、妙なことに気づいた。伝える言葉の内容を詮索することは禁じられているのだが、最近どうも似たような言葉が東京大阪間で往復しているような気がするのだ。

 ……おそらくその内容は「さっきの手紙のご用事なあに」的なことなのだろう。それが延々とやりとりされている。

 まぁ、国が無駄なことをしてるのはいつものことだしな。無駄なことでも、仕事は仕事だ。私は今日も走る。この感染症、早く収束してくれないかなぁ、などと思いながら。


 ところで、この駄文を読んでいただいたあなた。体調にお変わりありませんか?

 新潟日報の読者文芸コントに投稿していた作品。22/04/10に「選評」されたもの。

 投稿する者としては「選評」に載っちゃうというのが一番イヤなのだよなぁ。

 一番いいのはもちろん本文が載ること。五千円(図書カード)がもらえるし。

 まったく載らなければ、忘れた頃に本文が載ることもあるのだけど、「選評」に載ってしまうとその機会もなくなってしまうからなぁ。

「選評」では「このあとに面白いオチがあれば」とのこと。うむむ。私の書くようなものの場合、原稿用紙四枚だと設定説明でかなり使うからこれでもだいぶ絞ってるのだけども。

 まぁ、箸にも棒にもかからないよりはいいか。

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