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I am Aegis / Origin 1  作者: アジフライ
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第5話【精霊の力】

前回、 エルはとある喫茶店にてグラスと言う女店主に出会い、 彼女の知る精霊族の魔法を習う約束をした。

「精霊族の魔法かぁ……どんな魔法なんだろう……」

シュラスさんは黒曜等級の冒険者達を集めた遠征討伐部隊に参加するから四日は帰って来れないらしい……シュラスさんなりに私に気を遣ってくれたのかな……

そんなことを考えながらエルはグラスの喫茶店へ向かった。

喫茶店に着くと店は臨時休暇で休業になっていた。

「えぇ……どうしよう……グラスさん、 どこにいるんだろう……」

エルが困っていると店の中からグラスが顔を出した。

「おっ、 来たね! 」

「グラスさん! 良かったぁ……」

「精霊族にとって大事な精霊魔法を継承するんだから店なんてやってる場合じゃないものね! さっ、 行くよ! 」

「えっ、 行くってどこに……? 」

成されるがままにエルはグラスに付いて行った。

…………

着いた先は街から少し離れた森の中だった。

こんな所まで連れてきて一体何をするんだろう……

「……さぁて……エルちゃん、 精霊族の魔法こと精霊の力は一体どうやって手に入れると思う? 」

「え……確か……自然の中に潜む精霊と契約して力を貰うんですよね? 」

「その通り! 良く勉強してるのね」

精霊族の魔法というのは正確には魔法ではない。

精霊族の扱う力というのは精霊自体が持つ自然的エネルギーの一部なのである。

そして精霊族の者はある程度の成長を過ぎるとその種族に合った自然的エネルギーを持つ精霊と契約をし、 力を得る。

こうして精霊族の魔法は完成される。 あとは扱う本人の魔力と訓練次第でどこまでも成長する。

「でも精霊はかなり繊細な生き物だからね。 そう易々と力を与えたりはしない……」

「じゃあどうすれば……」

するとグラスはエルの胸に手を当てた。

「……エルちゃん、 あなたの心次第よ……精霊は心が清く、 優しい者にしか力を貸さない……」

「私の心……」

そしてグラスはエルから少し離れ、 適当な場所へ立った。

「エルちゃんは少し離れてて……」

「は、 はい! 」

言われた通りにエルはグラスから離れた場所に移動すると……

「……風の精霊よ……今我ら精霊の民の声を聴き……今こそ姿を現したまえ……『我らは自然と共に心在り……』……」

グラスは祈りの姿勢でそう唱える。

すると辺りの木々は風で揺らぎ始め、 太陽の光が所々に差し込み始めた。

次の瞬間……

「……わぁ……! 」

グラスの周囲にエメラルドのように輝く謎の光の玉がいくつも出現した。

あれが……風の精霊……?

エルが呆然と眺めているとグラスが話した。

「これが風の精霊達よ……精霊族を滅ぼし掛けた人間達が追い求めた力の正体……」

「これが……」

「さぁ、 あとはあなた次第……この光の玉のどれかに手を当てて」

グラスにそう言われてエルは光の玉に手を当てた。

するとエルの周囲に風が巻き起こった。

この感じ……温かい……

エルは光の玉から謎の温もりを感じた。

しばらくすると風は止み、 光の玉も空高くへ舞い上がってどこかへ消えてしまった。

「……えっと……これって……」

「契約成立ね! エルちゃん相当気に入られたみたいよ」

「そ、 そうなんですか! ? 」

意外とすぐに終わっちゃった……これで私も精霊の力を使えるようになったのかな……?

「でもここからが大変だからね! 使えるようになった精霊の力を少しでも出力を出せるように訓練しないといけないからビシバシ鍛えるよぉ! 」

「は、 はい! 」

そしてエルとグラスは精霊の力を扱う訓練を行った。

…………

カルスターラから少し離れた野原にて……

「さぁてエルちゃん、 精霊族の魔法を使う上で最も重要な精霊の力を手に入れたけど……その力をどうやって使うかは知っているかな? 」

「い、 いえ……流石にそこまでは……」

「あははっ! まぁそりゃそうよね、 精霊の力の使い方は私達精霊族の血を持つ人間しか伝えられてないしね」

通りでどの本にも載っていなかった訳か……ここからは精霊族の人にしか分からない力の使い方……ワクワクする……!

エルは心を躍らせているとグラスは早速精霊の力の使い方の説明を始めた。

「まぁ基本的に魔法を発動させるのと同じよ、 体を巡る魔力を感じながら精霊の力を意識すればいい」

「精霊の力を……意識する……とは……? 」

早速よく分からないのが……

エルの言葉にグラスも腕を組み、 悩む表情をした。

「そこなのよねぇ……何て言えばいいのか……『自然』? を心で感じるってことらしいけど……これはイマイチ私にも分からないのよ……」

グラスさんにも分からないって……それじゃあグラスさんはどうやって魔法を使ってるの……

「でもグラスさん、 あの男の人に絡まれた時……凄い力を感じたのですが……あの時はどうやって……? 」

エルが聞くとグラスは苦笑いした。

「あぁ……見てたんだ……あの時は何となくだったし、 普段もそう……だから分からないの……」

普段って……一体何に使ったんだろう……

心の中でそう言いながらエルは『自然』について考えた。

それにしても……精霊の力を使うのに必要な『自然』って一体何だろう……何となくと言われてもなぁ……

するとグラスはこんな話をした。

「そういえば精霊族の中で……『自然とは……常に我らの内と外に在るもの……』っていう名言みたいのが残されてるんだけど……私はこういう難しいのは分からないんだよねぇ……」

「内と外……」

「まぁ……私から教えられるのはこれだけ……実際私が幼い時もこれしか教わってない……あとは試しに試し、 失敗を重ねて成功へ近付ける……それしかない……」

「そう……なんですか……何とかやってみます……」

そしてエルは四日もの間、 森の中で精霊の力を使うための修業を続けた。

四日目の早朝……

「……自然を……感じる……」

エルは森の中で精神統一するように岩の上で座っていた。

……自然を……感じる……感じる……

「……っ……駄目だぁ! ! 分からない……自然を感じるって言われても……」

エルが頭を抱えているとグラスが現れた。

「随分と頑張ってるみたいね……でも行き詰ってるみたいだねぇ……」

「エメさん……自然を感じろっていきなり言われたって分かりませんよぉ……」

「まぁそれもそうよね……私でも三年は掛かったもの……」

さ……三年……そんなのたった四日じゃ無理に決まってるかぁ……

エルは深くため息を着くとそこにシュラスが現れた。

「何だ……まだやっていたのか……さっさと旅に出たいと思っていたのだが……」

「シュラスさん! 帰ってきたんですか」

「あぁ来た来た……」

グラスはシュラスを見るなり嫌そうな顔をした。

「ここからは戦闘のベテラン様に任せる方が良さそうね……私じゃ修業やら何やらを付けるのは向いてないしね……それじゃエルちゃん、 後は頑張ってね」

「あ、 ありがとうございました! グラスさん……」

そしてグラスはその場から立ち去った。

「……それで……自然を感じろという事だったな……」

「あ、 はい……」

シュラスさん……分かるのかな……?

エルがそう思った矢先、 シュラスは手を前に出した。

すると次の瞬間、 シュラスの手のひらに小さなつむじ風のような物が発生した。

その風はみるみる大きくなり、 辺りに暴風を起こした。

「シュラスさん、 これは! ? 」

「見ての通り精霊魔法だ……自然の力を感じ取るというのは至って簡単だ……」

そう言うとシュラスは手を閉じ、 風を止めた。

「自然を感じる……すなわちそれはエネルギーを感じ取るということだ……魔力と似たものだ……」

「魔力と……似ているんですか? 」

そしてシュラスはエルに精霊魔法の全貌を説明した。

シュラスが言うには精霊魔法を使うには自然的なエネルギーを感じ取る事が重要、 分かりやすく言うと『温度』『電気的刺激』『空気の流れ』『湿気』等といった人間が感じ取る事の出来る自然的な刺激を感じる事である。

火を使いたければ空気中の温度を感じ、 電気を使いたければ自身に流れる電気エネルギーをイメージする……

あとは精霊との契約による恩恵を頼りにすればいいのみ……むしろそれが無ければその感覚は無駄な物なのである。

普段から精霊魔法を使うことがない精霊族以外の者はそう言った感覚を見出すのは大変難しいと言える。

「まぁそんな感じだ……あとは感覚を鋭敏にするように訓練すればいい……エルの場合、 空気の流れを感じればいい……」

「空気の……流れ……」

「お前にはセンスがある……それさえ掴めれば後は使える……」

空気の流れ……気流……

エルは意識を集中させる。

……風……

すると次の瞬間、 エルの周りに強い風が巻き起こった。

「こ……これは! 」

「そうだ……それでいい……空気の流れを感じ取り、 それをどうしたいのかをはっきりとイメージしろ……あとは実践あるのみ……」

「は、 はい! 」

これが精霊魔法……凄い……魔法とは違う力を感じる……凄く濃いエネルギー……!

エルはシュラスに言われた通りにするとあっという間に精霊魔法を使えるようになってしまった。

シュラスさん……本当に何でもできるんだなぁ……というよりシュラスさん、 精霊魔法使えたんだ……

「さて……ギルドに行くぞ……実践練習として何か依頼を受けるぞ……」

「はい! 」

そしてエルとシュラスはカルスターラのギルドへ向かった。

カルスターラのギルドへ向かう途中……

「そう言えばシュラスさん、 精霊魔法なんていつから使えるようになったんですか? 」

「それは言えん……精霊族との約束だ……」

「そ、 そうなんですか……じゃあ、 どうして精霊魔法を使おうと? 」

「伊達に伝説を名乗っていないんだぞ……精霊魔法の一つや二つ、 使えるようにしておかなければ様々な戦闘に対応しかねる……」

「……それもそうですが……」

何ていうか……シュラスさんって何気に戦闘狂なんだなぁ……

そんなことを思いながらエルはシュラスと共にギルドへ向かった。

…………

ギルドへ着いたエルとシュラスは依頼の掲示板を見ていた。

「……さて、 どうしたものか……エルでも見合った討伐依頼が中々無いな……」

「う……ごめんなさい……」

「気にするな……」

いつものことだけど……

すると二人の背後から何者かが声を掛けてきた。

「あの、 貴方はシュラスさんですよね! 」

「ん……何だ……」

声を掛けてきたのはエルと同じ年齢程の新人冒険者のパーティだった。

私と同じ新人……なんだろう……

すると新人冒険者達はシュラスに握手を迫ってきた。

「あの、 大ファンです! 」

「私達もシュラスさんと同じような冒険者を夢見ているんです! 」

あぁ……典型的なファンの人か……シュラスさんは……

エルはシュラスの方を見ると……

「……」

エルから見てシュラスは少し困ったような表情をしているように感じた。

しかしシュラスは新人冒険者達に握手を返した。

「……冒険者は甘い考えが命取り……慣れ合いをする暇があるなら戦闘経験を積んだ方がまだ為になる……」

「は、 はい! 」

「ありがとうございます! 」

シュラスは新人冒険者達に助言? をすると新人冒険者達はその場を去った。

「意外です、 シュラスさん……こういうのは苦手だと思ったのですが……」

「実際苦手だ……だが嫌いではない……」

そう言いながらシュラスは掲示板に貼ってあった丁度良さそうな依頼の紙を取った。

カルスターラから離れたとある洞窟にて……

エルとシュラスは洞窟に巣食っている魔物の討伐に来ていた。

「……気を付けろ……魔法で明かりを灯しているとは言え、 死角が多い……常に警戒していろ……」

「はい……」

しばらく洞窟を進んでいくと無数のムカデ型の魔物が現れた。

「ひぃぃ虫……! ! 」

虫……苦手なんだけど……

するとシュラスはエルに指示を出した。

「エル、 イメージを崩すな……常に冷静になれ……」

「は……はい……」

空気の流れを感じて……空気の刃をイメージして……

すると次の瞬間、 エルの周囲に空気の刃のようなものが発生し、 魔物の群れの中へ飛んで行った。

空気の刃は魔物の体を次々と切り裂いていった。

「……上出来だ……さっきので使い方は大体理解していたようだな……」

「い……意外と疲れますね……」

「使い慣れない力を使うんだ……多少の疲労は仕方あるまい……疲労回復の魔法を掛けてやるからこのまま行くぞ……」

「はい! 」

そしてエルとシュラスは洞窟の奥へと進んでいった。

エルとシュラスはしばらく魔物を倒しながら洞窟の奥へ進んでいくとムカデ型の魔物達の巣に辿り着いた。

そこは無数の不気味な形をした卵があちこちに産み付けられており、 異臭を放っている。

「うぅ……鼻がもげそう……」

「じきに慣れる、 我慢しろ……それより……」

するとエルとシュラスの前に巨大なムカデ型の魔物が現れた。

あれって……どう見ても女王だよね……

「あれがボスだ……エル、 一人で殺れるか? 」

「や……やってみます……」

するとシュラスは走り出し、 剣で次々と辺りの卵を切り裂いていった。

それを見た巨大な魔物は怒り狂ったようにシュラスを追いかけ始めた。

「俺が注意を引く! 今のうちに殺れ! 」

「は、 はい! 」

……あれ程大きいと今の私の精霊魔法じゃ威力が足りない……それなら……!

そう考えたエルは杖を構え、 風の魔法を発動させた。

それと同時に精霊魔法も発動させ、 より大きな空気の刃を作り出した。

「いっけぇ! ! 」

次の瞬間、 巨大な空気の刃は魔物の方へ高速で飛んで行った。

空気の刃はブーメランのように魔物の体を駆け回り、 魔物の体を輪切りにしていった。

「……よくやった……通常の魔法と精霊魔法を組み合わせ、 威力を補うとは……中々器用だな……」

エルの元へ戻ってきたシュラスはエルを褒めた。

「咄嗟に思いついたので不安でしたが……上手くいって良かったです! 」

「さて……残りの卵も潰すにはここ一帯を焼き払えば一発だろう……一度ここから出るぞ……」

そしてエルとシュラスは洞窟を出たのち、 洞窟の中を炎で焼き払った。

「……命有る者達よ……許せ……」

「……シュラスさん……あんな虫の魔物にも慈悲の心を向けるのですか……? 」

エルの素朴な質問にシュラスは答えた。

「どんな魔物だろうと命はある……そして生きるためにこうして隠れて巣を作る……そんな行為に罪はない……だが、 人間は己の繁栄、 生存の為……そんな勝手で命を奪うんだ……」

「……なら……どうしてシュラスさんはそんな命を奪うような人間を否定せず、 協力する形で冒険者をやっているのですか? 」

「……人間にも人間なりに生きるために命を奪う……魔物も生きるために命を奪う……これはごく自然的な生態系の決まりだ……精霊族を滅ぼした人間達も、 自らの繁栄のためにやったことだ……俺はそんな人間の勝手を否定はしない……」

……なるほど……シュラスさんの言う事には一理ある……

「あと……俺が冒険者になったのは余計な面倒を避けるためだ……こんな力を持った奴を国が放っておく訳が無い……なんなら面倒事になる前にこちらから管理下に置かれた方が無難というものだ……」

「そう……ですか……」

まぁ……いかにもシュラスさんらしい考え方だけど……

するとシュラスはエルの顔を見て言った。

「だが……俺は冒険者の仕事は嫌いではない……」

「……シュラスさん……」

やっぱりシュラスさんの考えている事ってよく分からないなぁ……

そんな会話をしている間に洞窟の焼却が終わり、 エルとシュラスはカルスターラへ戻ることにした。

続く……


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