第10話【時の番人】(後編)
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「……こんなダンジョンだなんて聞いてませんよぉぉぉぉ! ! 」
三人はウーラからの依頼で新しく発見されたという隠しダンジョンの調査をしに来ていた。
そして現在、 三人はダンジョンの罠で手間取っていた。
「ウーラの奴……肝心な説明を省きやがったな……あの脳筋が……」
「そんな事言ってないであの大岩を何とかできないんですかぁぁぁ! ! 」
三人は狭い通路から転がってくる大岩から逃げていた。
魔法なら破壊はできるけど……こんなスピードだと構えてる間に潰されちゃうよ!
絶体絶命かと思われたその時、 シュラスは突然動きを止め、 大岩の方を向いた。
「シュラスさん! ? 」
「いくら何でも無茶ですって! 」
「……」
そして大岩がシュラスに激突した瞬間、 シュラスは大岩に向かって掌底打ちを放った。
すると大岩は一瞬にして粉々に砕け散ってしまった。
「あ……」
「……えぇ……」
「はぁ……先を急ぐぞ……」
……まぁ……シュラスさんだし……あり得るか……
「シュラスさん……破壊できるなら先にやって下さいよ……」
「先走って罠を作動させたのはどこの阿保だ……これでお相子だ……」
「むぅ……」
そして三人はダンジョンの奥へ進んでいった。
……そういえば……ウーラさんが言っていた謎の現象……いつ起きるんだろう……
隠しダンジョンに入って数十分程経過していたがウーラの言う謎の瞬間移動現象は起きていなかった。
エルは少し気になりながらもシュラスの後を付いて行った。
…………
「……シュラスさん……何かおかしくないですか……」
「……同意見だ……静か過ぎる……」
しばらくダンジョンの奥に進んでいった時、 三人は隠しダンジョンの不審な点に気付く。
「確かに……魔物の気配が一つもしませんね……」
そう、 魔物がいないのだ。
……ダンジョンには必ずと言ってもいい程魔物がいるはずなのに……未探索のダンジョンでこの静けさは不気味過ぎる……こういうパターンって……
「シュラスさん……」
「あぁ……このダンジョンは何か強力な魔物によって牛耳られている……場合によってはお前達じゃ勝てないかもしれないな……」
「えっ……そんなヤバいのがいるんですか……? 」
ダンジョンの中には極稀に魔物がいないダンジョンが存在する。
その場合、 9割は罠や内部の環境によって魔物すらも住処にできない物なのだが……中にはその魔物達も恐れる程の強力な何かが占拠している……ということがあるのだ。
「私はまだ冒険者になって間もないですが……話では聞いた事があります……こういった場合、 黒曜等級の冒険者でも一人では手が追えないとか……」
エルの話を聞いたルーミは青ざめる。
しかしシュラスは相変わらず歩き続けていた。
「……ぼさっとしてたら置いて行くぞ……ここを牛耳っている奴が何なのかは知らんが……俺は頼まれた事をやるだけだ……」
「……」
シュラスの言葉に二人はただ付いて行くしかなかった。
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隠しダンジョンに入って一時間は経過した頃……
三人は適当な場所で休憩をしていた。
「……これだけ探っても何も無いとはな……これはいよいよ力を使う以外無いか……」
「携帯食料もそんなに持ってきてないですしね……」
「こういう場合、 どこかに隠し部屋へ進むためのギミックが隠されていると思うんです! 」
そう言ってルーミは辺りの壁を探り始めた。
「阿保、 また罠が作動したらどうす――」
シュラスがルーミを止めようとした瞬間、 ルーミの触った壁のレンガがガコッと音を立ててへこんだ。
『あっ……』
三人が危険を察した瞬間、 三人の足元に謎の魔法陣が出現した。
「うわぁぁぁごめんなさいごめんなさい! ! ! 」
「よりによって魔法の罠か……」
「これ……どこに転送されるんでしょう! ? 」
そして三人はどこかへ転送されてしまった。
…………
「……うぅ……あれ……生きてる? 」
意識を失ったエルは目を覚まし、 辺りを見渡した。
そこには既に目を覚ましたシュラスとルーミの姿があった。
「起きたか、 エル……」
「ここどこでしょう……」
エルも立ち上がり、 再び辺りを見渡した。
……ここって……祭祀場……?
そこは扉も窓も無い広い空間となっており、 何かしらの儀式に使われそうな装飾品や壁画があった。
「シュラスさん……ここは……」
「……どうやらボス部屋に辿り着いたようだ……」
「ほらやっぱり! 私の勘が当たったんですよ! 」
「はぁ……認めざるを得まい……」
するとどこからか声が聞こえてきた。
『来たか……この時を何年待ちわびたか……』
次の瞬間、 辺りに謎の火の玉が現れ、 辺りを照らした。
そして暗闇の中から現れたのは……
「……あれって……」
「私……おとぎ話で見たことある……」
「……時の番人という奴か……」
全身白い鎧のような装甲を身に纏い、 神々しく輝く白い翼を持った足を持たない宙に浮くゴーレムのような魔物だった。
時の番人、 皆はそう呼ぶ……
そんな……おとぎ話の中にしか存在しないはずの存在が……どうして……!
そう、 時の番人は本来現実には存在しないとされていた……ドラゴン、 悪魔、 天使……世界に存在するあらゆる魔物や種族……それは夢でもなければ幻想でもない世界……しかし、 雄一おとぎ話の中、 または人々の記憶の中にしか存在しない者達がいる……それは『神』……人智を超える力を持ち、 あらゆる存在の頂点に君臨する存在……時の番人はその神々の一人として語り継がれている存在なのだ。
その神話を知っているエルとルーミにとって、 今目の前に存在する時の番人は脅威でしかなかった。
「シュラスさん! 逃げましょう! 」
「あんなの勝てっこない! 」
エルとルーミは逃げようとした。
しかしシュラスは時の番人の方へ歩み始めた。
「シュラスさん! ? 」
「逃げると言ってどこへ逃げる……もう既に辺りにはこいつの結界が張り巡らされている……どっちにしろ倒す以外ここを出る手段は無い……」
『分かっているではないか……我が名はガミューラ……時を司る神の使徒……強者を探し、 戦う事こそ我が生きがい……今こそ戦いを繰り広げようぞ! 』
するとガミューラは片手に水晶のような巨大な剣を出し、 振りかざした。
あぁもう! やるしかない!
覚悟を決めたエルは杖を取り出した。
『ヌゥンッ! ! 』
ガミューラは剣をシュラスの方に振った。
しかしシュラスは腰の剣を少し抜き、 鞘から出た刃でガミューラの剣を受け止めた。
「……」
『ほう、 我が神剣を受け止めるとは……流石我が見込んだ強者よ……』
「神の剣にしては随分と軽いな……」
そう言ってシュラスはガミューラの剣を弾いた。
隙を見てエルとルーミは攻撃を仕掛けた。
エルは氷と炎の槍を飛ばし、 ルーミは短剣でガミューラの鎧の隙間を狙って攻撃した。
すると次の瞬間、エルの放った魔法はいつの間にか本人の方向を向き、 ルーミは気付かぬうちにガミューラに背を向けた状態で着地させられていた。
え! ? 嘘っ!
エルの放った魔法が二人に直撃する瞬間、 シュラスは剣を抜き、 ブーメランのように投げ飛ばした。
剣は氷と炎の槍を斬り刻み、 散開させた。
「シュラスさん……すみません」
「……お前達は手を出すな……あとは俺がやる……」
でも……シュラスさん一人じゃ……
『来い……強き者よ……』
そう言ってガミューラは剣を地面に突き立てた。
次の瞬間、 辺りの動きが一斉に止まった。
シュラスが投げ飛ばした剣も戻ってくる瞬間の状態で止まっている。
勿論、 シュラスの動きも止まってしまった。
『……やはり駄目であったか……まぁ……我が望みはこの体に代わる器を手に入れること……大きさを満たしていればそれでいい……』
辺りの動きが止まっている中、 ガミューラは普通に動いている。
『これこそ我が力……神をも恐れる時を操る力……魔法も武術も時間には敵わん……伝説の勇者の力さえも……』
そう言いながらガミューラはシュラスの近くへ寄る。
『しかし……やはり年は取りたくないものよ……いくら我とて、 衰えては大人数の相手は手に負えぬ……そしてここへ封印された……しかし……このダンジョンならば我が力は行使できた、 そして待っていた……我が魂の器となる者を……新しい肉体さえ手に入れば再びこの世を支配できる……そしてようやく来た……我が器になりし者……』
そう言ってガミューラは剣を取り、 シュラスの方に突き付けた。
『器がここへ来ればもうこちらの物よ……時間を止めれば動きは完全に封じる事ができるのだからな……』
そしてガミューラは剣をシュラスの方に目掛けて突きの構えを取る。
『見えも聞こえもしないだろうが一応言っておこう……礼を言うぞ……『器』よ……! 』
次の瞬間、 ガミューラは剣でシュラスに突きを放った。
……しかし……
『……何ッ! 』
「独り言が長い……待ちくたびれた……」
シュラスは普通に喋り、 動き出したのだ。
そしてシュラスはガミューラは剣を素手で止めていた。
『馬鹿な! 我が剣を素手で! それに何故動ける! 』
「質問とあれば答えてやるが……もうすぐそれも無駄になる……」
シュラスがそう言った瞬間、 剣は段々石のように変色し、 ボロボロと崩れて行った。
ガミューラは驚愕し、 退く。
「時の番人と言ったか……神の使徒と言ったか……? 」
「自惚れが……」
するとシュラスの周りに赤黒く不気味な炎のような物体が出現し始めた。
その時、 ガミューラは感じた……シュラスから放たれる圧倒的な『力』を……
『き……貴様……何なのだ……その力……今まで隠していたとでもいうのか……! 』
それは圧倒的な自信を持つ者でさえも戦意を削がれる程に強大なモノだった……
ガミューラが怯える中、 シュラスはガミューラの方へ歩み寄りながら指を鳴らした。
するとガミューラの動きが止まり、 一言も発さなくなってしまった。
「……少し黙れ……お前の言葉を聞いていると不快でならん……」
(これは……我と同じ力……! ? しかし何故感覚はそのままなのだ……動けぬのに……! )
「俺が何故時間が止まった空間の中を動けるのか……もう答えは分かっているはずだ……」
そう言ってシュラスはガミューラの胸を足で踏みつけ、 顔を見る。
「……たった数千年眠っていただけだというのに……もう忘れたか……」
(……どういう……ことだ……)
するとシュラスはローブの頭部分を取った。
「敵が何者なのかは一々覚えているような立ではないが……つい最近の事なら思い出せるものだな……」
その時、 ガミューラは全て察した。
(この者は……我と一度出会っている……何者なんだ……! )
そしてガミューラがシュラスの眼を見た瞬間、 ガミューラの記憶が蘇った。
暗闇の中で燃える赤黒い炎……その中から一本の剣を片手にこちらへ歩いてくる一人の男……顔全体は暗くて見えないが赤い瞳と白い髪だけが見える……
そしてその男は最後に剣を振りかざし、 目の前が赤く染まる……
その光景を見たガミューラは更なる恐怖に震えた。
「……神をも越えるだとか……神々が恐れるだとか……そのような存在を自称するのは一向に構わん……だが……お前達『生きとし生けるモノ』の見ている世界がどれだけちっぽけなモノか……それを理解するのも大事だ……」
次の瞬間、 シュラスの周りを舞っている謎の物体はガミューラの両腕を呑み込んだ。
ガミューラの腕は一瞬にして消滅してしまった。
(この痛み……この恐怖……我は今……死を感じているのか……! ? )
『死』をいうモノを知らないガミューラにとって、 それはあまりにも恐ろしく、 苦痛だった。
「……さて、 数千年前に殺したはずのお前が生き長らえていたのは少し意外だったが……今度はもう生き残らないように魂を確実に送り出してやる……」
そう言うとシュラスは自分が飛ばした剣の方に手を伸ばす。
すると剣は動き始め、 シュラスの手元に戻ってきた。
そしてシュラスはその剣をガミューラの胸に突き立てた。
剣を刺されたガミューラの体はみるみる内に崩れてゆく。
「安心しろ……今のお前という記憶が消えても次の生命として生まれ変わるだけだ……魂自体は滅びん……」
『わ……我は……何に……! 』
ガミューラは死ぬ間際、 少しだけ言葉を発することができた。
シュラスは剣を鞘に納めながら言った……
「……さぁな……カエルか……魚か……はたまた雑草か……それは『運命』に任せてあるんでな……」
シュラスのその言葉を最後にガミューラは絶命した。
「さて……」
シュラスは指を鳴らした。
すると辺りの動きが元に戻った。
「あれ……シュラスさんいつの間に……って! ? 」
自由を取り戻した二人はボロボロに崩れたガミューラの亡骸を見て驚愕した。
「シュラスさん、 これやったんですか! ? 」
「俺以外誰がこいつを倒す……依頼は達成だ……帰り用の転移魔法陣も出現してるしさっさと帰るぞ」
「えぇ、 ちょ……ちょっと待ってくださいよ! 」
……いつの間に倒したんだろう……もしかしてあの時のサンドイッチみたいに時間を……シュラスさんならあり得るか……
シュラスの実力を一部知っていたエルは少し戸惑っていたが何も不審には思わなかった。
…………
「……シュラスさん……」
「何だ……」
「無事でよかったです……」
帰り道の途中、 何気なくエルはシュラスにそう言った。
シュラスはローブを被り直し、 フッと笑った。
「お前が言えたものではなかろう……」
シュラスはただそう言った。
続く……




